アナロジー思考とは?イノベーションを生む発想法とトレーニング方法

AIやデジタル技術の発展、顧客ニーズの多様化などによって、現在のビジネス環境は目まぐるしく変化しています。そのような中で、企業が持続的に成長するには、新たなアイデアを生み出すイノベーション力が大切です。

そのイノベーション力を高める有効なアプローチの一つが、「アナロジー思考」です。

本記事ではビジネスパーソンに向けて、アナロジー思考のメリットや発想法、実践に役立つトレーニング方法をわかりやすく解説します。

アナロジー思考とは?イノベーションを生む発想法

アナロジー思考とは、複数の物事や構造間にある共通点を見つけ出し、そこから新たなアイデアを生み出す発想法です。例えば、自然界の仕組みをヒントに技術を開発するバイオミミクリーや、他業界の成功事例を自社のビジネスに応用するケースが該当します。つまり、既存の知識や経験を異なる視点から活用することで、イノベーションを生み出します。

なお、バイオミミクリーについて詳しく知りたい方は、「自然から新規事業のヒントを得よう!バイオミミクリーの意味と具体例」をご覧ください。

アナロジー思考のメリット

アナロジー思考は、そのメリットからビジネスの様々なシーンで活用されています。ここでは、主な3つのメリットを紹介します。

メリット① イノベーションの創出

アナロジー思考は、新しい発想やビジネスモデルを生み出すうえで効果的な手法です。特に、新規事業のアイデア出しや、これまでにない解決策を検討したいときに役立ちます。

代表例として、トヨタ自動車が生み出した「かんばん方式」が挙げられます。これは、アメリカのスーパーマーケットにおける商品の補充方法にヒントを得たものです。スーパーマーケットでは、牛乳などの商品が手前から取られ、奥から新しい商品が補充されていきます。この「必要なものを必要なだけ補充する」仕組みに着目し、トヨタはこれを製造現場の生産管理に応用しました。

その結果、部品や工程の無駄を減らし、生産性を飛躍的に高める「ジャストインタイム」方式を実現しました。まったく異なる業界から着想を得て、製造業に革新をもたらしたこの事例は、まさにアナロジー思考の成功事例です。

このように、異なる分野の物事や構造を柔軟に取り入れることで、従来にはなかった視点からイノベーションを創出できるのがアナロジー思考のメリットです。

参考:ダイヤモンド・オンライン「起業参謀には、なぜアナロジー思考力が必須なのか?

メリット② 問題解決力の強化

複雑な問題に直面したとき、同じ分野の中だけで解決策を探しても、なかなか突破口が見つからないことがあります。そのような場面でも役立つのが、アナロジー思考です。

例えば、チーム内の連携がうまくいかない場合は、スポーツチームの戦術や役割分担の仕組みをヒントにすることで、メンバー間の協力体制を見直すきっかけになるかもしれません。分野は違っていても、根本的な構造や関係性が似ていれば、そこから有効な解決策を導き出せる可能性があります。

このように、アナロジー思考は課題を「別の視点」から捉えるためのきっかけを与えてくれます。その結果、課題解決力が向上し、より柔軟で実行可能な解決策を導きやすくなるのです。

メリット③ 営業力・提案力の向上

アナロジー思考は、円滑なコミュニケーションにも役立ちます。「思考法とコミュニケーションに、どんな関係があるの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、両者には深いつながりがあります。

複雑な概念や新しいアイデアを相手に伝える際、相手がすでに知っている事例や比喩を用いることで、内容をイメージしやすくなるからです。

例えば、「このサービスは、アプリでタクシーを呼ぶ仕組みを、家庭教師の手配に応用したものです。」と説明すれば、聞き手はそのサービスの特徴や利便性を直感的に理解できます。こうしたアナロジー思考を使った表現は、話のズレや誤解を防ぎ、情報共有をスムーズにします。

特に、プレゼンテーションや顧客への提案といった、相手の共感や納得を得たい場面では効果的で、アナロジー思考は営業力・提案力の向上につながります。

アナロジー思考のトレーニング方法

アナロジー思考をビジネスで活用するには、日々のトレーニングが大切です。ここでは、実践的なトレーニング方法を紹介します。

方法① 他分野の知識を積極的に取り入れる

アナロジー思考の土台となるのは、幅広い知識です。自分の専門分野だけでなく、自然科学をはじめとする多様な分野の知識を取り入れることが大切です。

例えば、フクロウの羽が音を吸収する仕組みを参考にした静音設計や、スポーツのチーム戦略を組織マネジメントに応用するアイデアは、その知識があってこそ生まれます。

このことから、アナロジー思考のトレーニング方法には次のような行動が挙げられます。

  • 普段読まないジャンルの本や記事を読む。
  • 他分野のセミナーや展示会に参加する。
  • 他部署や他業界の人と積極的に交流する。

こうした行動を通して、他分野の知識を深めることで、アナロジー思考に必要な幅広い知識が蓄積されます。

方法② 日常生活で類似点や法則を意識する

アナロジー思考は、日常生活や仕事の中でも意識的に鍛えることが可能です。例えば、カフェを訪れた際に、その注文フローを観察しながら「自社の業務プロセスと共通点はないか」、「他の分野に応用できる仕組みではないか」といった視点で考えるといった具合です。

このように、日常生活の様々な場面で構造の類似点や背景にある法則を意識することで、アナロジー思考の感覚が自然と身につき、柔軟な考え方が養われます。

方法③ ダブルループ学習をする

アナロジー思考のトレーニング方法として有効なのは、「ダブルループ学習」です。これは問題解決において、そもそもの目標やルールが適切かどうかを問い直し、必要に応じてその枠組みを再構築する手法です。既存の常識や先入観を取り払うことで、新たな視点や発想を促し、より本質的な問題解決につながります。

アナロジー思考の注意点

アナロジー思考は、イノベーションの創出に有効な考え方ですが、注意すべき点もあります。その一つが、「誤解のリスク」です。表面的な共通点だけに注目してしまうと、本質的には異なる構造や前提条件を見落としてしまい、不適切な判断につながる可能性があります。つまり、他業界の成功事例を自社にそのまま当てはめることで、かえって状況を複雑にしてしまうこともあるのです。

もう一つの注意点は、既存の知識や事例に頼りすぎると、独自性や革新性のあるアイデアが生まれにくくなることです。アナロジー思考の一辺倒ではなく、自分たちの課題や目的に即した形で議論する姿勢が求められます。アナロジー思考を活用する際は、安易に「似ている」という理由だけで使えると判断せず、事例の本質的な構造や背景を丁寧に見極めることが大切です。

アナロジー思考でイノベーションを生み出そう

アナロジー思考は、複雑化する現代のビジネス環境において、イノベーションを生み出す有効なアプローチ方法です。新規事業のアイデア創出や、既存の課題を解決するためのヒントを得る際に役立ちます。ただし、効果的に使うにはトレーニングが必要です。 そこで、この機会にアナロジー思考をビジネスに活用できるよう、日常生活から意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。