SDGsが浸透したことに伴い、企業においても持続可能な取り組みが求められています。しかし、持続可能な取り組みのアイデアを創出するのは簡単ではありません。
そこで、1つの方法としてバイオミミクリーを紹介します。
バイオミミクリーは、自然界のアイデアを模倣して新たなものを生み出す手法です。自然環境に配慮したアイデアを得やすいのが特徴です。
本記事では新規事業のアイデアをお探しのビジネスパーソンに向けて、バイオミミクリーの意味や具体例をわかりやすく紹介します。
Contents
バイオミミクリーとは
バイオミミクリーとは、日本語で生物模倣を意味する言葉で、自然の生物の形状、プロセス、生態系などを模倣して新たなものを生み出すことです。名付け親はサイエンスライターのジャニン・ベニュス氏で、同氏は1997年にこの考え方を著書で提唱しました。
バイオミメティクスとの違い
バイオミミクリーと似た言葉にバイオミメティクスがあります。
バイオミメティクスは、生物の生態や構造を観察・分析して、技術開発に用いることです。このように聞くとバイオミミクリーと同じだと思うでしょう。しかし、バイオミミクリーには製品開発により社会課題の解決を目指す、あるいは持続可能な社会に貢献するといった概念が含まれています。
つまり、2つの違いは、持続可能性を重視しているかどうかです。
バイオミミクリーが注目される背景
バイオミミクリーの概念が登場してから25年以上経ちますが、近年、再度注目が集まっています。この章ではバイオミミクリーが注目される3つの背景を紹介します。
SDGsの浸透による持続可能性への意識の高まり
注目される背景の1つは、SDGsの浸透による持続可能性への意識の高まりです。2015年、持続可能な開発目標として国連サミットでSDGsが採択されました。すると、世界の様々な社会課題が認知され、多くの国や企業が解決に向けて取り組むようになりました。
このような背景から、科学技術においても持続可能性が重要視されています。そのような社会のニーズに応えるために、バイオミミクリーが注目されています。
生物多様性の喪失
注目される背景の1つは、生物多様性の喪失です。なぜなら、バイオミミクリーには生物多様性が不可欠なのに対して、地球上では7分に1種、1年間で約4万種の生物が絶滅しているためです。1種が絶滅すると、その生物から学べなくなるため、新たなアイデアが見つかる可能性が減ります。
さらに、2024年時点で約4万6,337種が特に絶滅の恐れがあるとして、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」に掲載されています。地球上には、215万3,938種の生物がいるため、絶滅の危機に瀕している生物の割合は全体の2.1%です。
これほど多くの生物が絶滅する前に、学ぶ機会を増やし、生物多様性の保護の取り組みを加速させるためにもバイオミミクリーが注目されています。
地球温暖化の深刻化
注目される背景の1つは、地球温暖化の深刻化です。2015年に開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)では、産業革命前と比較して気温上昇幅を1.5度以内に抑えることを目標に掲げました。しかし、今後5年間で1.5度を超える可能性が高いとされており、「異常気象の頻発」「気候変動」「森林破壊」「生物多様性の喪失」などが深刻になると考えられています。
また、これまでに多くの国や企業が地球温暖化の原因とされる二酸化炭素排出量の抑制に取り組んできましたが、世界の二酸化炭排出量は増加傾向が続いています。このことから、従来とは異なる手法で地球温暖化や気候変動にアプローチする必要があり、その手法としてバイオミミクリーが注目されているのです。
出典:一般財団法人 日本原子力文化財団「【2-1-04】世界のCO₂排出量の推移」
バイオミミクリーの具体例
バイオミミクリーの活用方法をイメージしやすいように、この章では具体例4選を紹介します。
ハスの葉
ハスの葉に水が付着すると、水滴となって葉の表面の汚れと一緒に転がり落ちます。これは表面に、ロータス効果と呼ばれる撥水効果があるためです。具体的な仕組みは、葉の表面に微細な凹凸があり、その凹凸と葉自体の撥水効果により水をはじく構造になっています。この効果により、いつもきれいな状態を保つことが可能です。
この構造はレインコートや衣類、ヨーグルトのフタなどに使われています。衣類の場合は水をはじくことでダメージを軽減できるので、製品の寿命を延ばすのにも役立ちます。
カタツムリの殻
カタツムリの殻は、親水効果により汚れにくいのが特徴です。親水効果とは、水を吸着することにより発揮する効果のことです。具体的にカタツムリの殻には細かな溝が多数あり、この溝により表面に水を吸着して薄い膜を形成します。そのため、汚れが付着しても水の膜の上に乗っているだけなので、雨などに濡れると簡単に汚れが落ちます。
この仕組みを模倣した外壁タイルは、雨で汚れを落とせるのが特徴です。洗剤などを使って洗浄する必要がないため、地球環境にやさしい技術です。
フクロウの羽
フクロウは夜行性の鳥で、飛行中は羽の音がほとんどしません。そのため、音を立てずに狩りができます。このように音を立てずに飛ぶ秘密は、羽の構造にあります。セレーションと呼ばれる小さなギザギザがあり、その構造が音を吸収することで、羽の音を抑えています。
フクロウの羽を模倣した具体例は500系新幹線のパンタグラフです。パンタグラフは、架線から電気を引き込むための装置ですが、走行中に空気とぶつかることで騒音が発生します。そこで、パンタグラフにセレーションを付けることで、約30%の騒音カットに成功しました。
タマムシの発色
昆虫のタマムシは、金緑色や金紫色など、キラキラとした金属光沢のある発色が特徴です。タマムシの発色方法は一般的な昆虫とは異なり、表面の構造により光を反射させることで、色合いが変わるようになっています。
このタマムシの表面の構造を模倣することで、塗料や染料などの着色剤を使うことなく目的の色の製品が出来上がります。着色剤を使わなくて済むことから、地球環境にやさしいアイデアと言えるでしょう。
バイオミミクリーをビジネスに活かす方法
バイオミミクリーをビジネスに活かす方法は主に3つあります。1つ目は、企業のニーズに対する解決策として、役立ちそうな生物を探す方法です。2つ目は、生物の能力から技術の応用先を探す方法です。どちらを選択するにしても、自然界の生物や形状、プロセス、生態系などをしっかりと観察して新たな製品やサービスにつなげます。3つ目は、専門的な知識を持つ大学や研究者と連携する方法です。専門家に頼ることで、効果的なアイデアの発見が期待できます。
次世代のビジネスのアイデアを自然から得よう
バイオミミクリーは、自然界に存在するアイデアを模倣して新たなものを生み出す手法です。バイオミメティクスと似ていますが、持続可能性を重視する点が異なります。具体例でも示したように、多くの企業がバイオミミクリーによって、新たなアイデアの創出に成功しています。新規事業のアイデアにお悩みの経営者様は、自然界から次世代のビジネスのアイデアを検討してみてはいかがでしょうか。