
中小企業は、大企業と同じように全国展開やメディア広告によって市場シェアを獲得しようとしても、経営資源が足りないことがほとんどです。このような経営資源が少ない中小企業がとるべき戦略は、ランチェスター戦略です。本記事ではランチェスター戦略の概要や弱者の5大戦略、活用のポイントを解説します。
ランチェスター戦略とは
第一次世界大戦が勃発した1914年に、イギリスのフレデリック・ランチェスター氏が「ランチェスターの法則」を提唱しました。同法則は、兵士の数や使用する兵器、戦い方の違いなどによって結果が変わることを数理モデルで示したものです。
その法則を応用したのが「ランチェスター戦略」です。中小企業が競争に勝つ、あるいは生き残るために役立つ戦略として広く活用されています。実際に、ソフトバンクグループ株式会社代表取締役兼社長の孫正義氏は、この戦略を取り入れていることを公言しています。その有用性は、同グループの成長が証明していると言えるでしょう。
ここでは、同戦略の2つの法則について解説します。
第一法則
第一法則は、剣や刀などを使った近接戦において、兵力数と使用する武器の性能が勝敗を左右することを示した法則です。式で表すと次のとおりです。
兵力数(量)× 武器の性能(質)= 戦闘力
使用する武器の性能を高めることで、弱者(兵力数が少ないほう)であっても勝利できることから、弱者の戦略とも呼ばれています。
ビジネスに置き換えると、経営資源(量)の少ない中小企業が大企業に勝利するには、自社の得意な分野(質)で挑むことが大切ということになります。
第二法則
第二法則は広域戦や遠隔戦に適用される法則です。長距離の射程距離を持つミサイルや銃などを使う近代戦をイメージするとわかりやすいでしょう。第二法則を式で表すと以下のとおりです。
兵力数(量)× 兵力数(量)× 武器の性能(質)= 戦闘力
ポイントは兵力数を2乗するため、武器の性能よりも兵力数のほうが重要になる点です。例えば、兵力数が5人で武器の性能が2のチームAと、兵力数が10人で武器の性能が1のチームBが戦闘した場合、勝利するのはチームBです。
兵力数 | 武器の性能 | 戦闘力 | |
チームA | 5人 | 2 | 50 |
チームB | 10人 | 1 | 100 |
さらに、チームAの武器の性能を3に強化しても以下のようにチームBが勝利します。チームAはチームBの3倍の武器の性能があっても、兵力数の差をカバーできません。
兵力数 | 武器の性能 | 戦闘力 | |
チームA(強化後) | 5人 | 3 | 75 |
チームB | 10人 | 1 | 100 |
このように、兵力数が多いほど圧倒的に有利になることから、強者の戦略とも呼ばれています。
ビジネスに置き換えると、経営資源(量)の少ない中小企業が全国展開(広域戦)やメディア広告(遠隔戦)によって市場シェアを獲得しようとしても、経営資源の多い大企業が圧倒的に優位な立場にあるため、勝ち目が少ないということになります。
ビジネスにおける弱者と強者を分ける基準

ここまでの説明では、わかりやすいように中小企業を弱者としましたが、弱者か強者かどうかは明確な基準があります。それは、市場シェア率26.1%を獲得しているかどうかです。これはクープマンの目標値の一つで、全部で7つの目標値が設定されています。
クープマンの目標値一覧
名称 | 市場シェア率 | 企業の立場・状態 |
上限目標値 | 73.9% | 独占的な立場となり、他社が市場シェアを奪うのが困難な状態 |
安定目標値 | 41.7% | 圧倒的な立場のため、企業の最終的な目標値になりやすい |
下限目標値 | 26.1% | トップシェアを獲得できる可能性がでてくるレベル |
上位目標値 | 19.3% | 弱者の中の上位グループに位置するレベル |
影響目標値 | 10.9% | 市場に対して影響を与えるレベル |
存在目標値 | 6.8% | 市場や競合他社から認知されるレベル |
拠点目標値 | 2.8% | 市場参入の足がかりができた状態 |
自動車業界を例に挙げると、トップシェアはトヨタ自動車株式会社の48.04%、2位は本田技研工業株式会社の13.66%です。つまり、自動車業界の強者はトヨタ自動車株式会社で、その他の企業は弱者となります。本田技研工業株式会社のように、大企業であっても弱者となるケースは珍しくありません。逆に市場によっては、中小企業でも強者に分類される場合があります。
参考:一般財団法人 自動車検査登録情報協会「メーカー別保有台数 乗用車計の保有構成」
弱者の5大戦略
ランチェスター戦略を取り入れた経営戦略を実践するには、弱者の5大戦略を押さえることが大切です。ここでは、弱者の5大戦略について解説します。
戦略① 局地戦
局地戦とは、戦場を限定して戦う戦法です。弱者が広範囲で戦おうとすると、経営資源が分散し、強者に圧倒されてしまいます。そのため、弱者は自社が勝てる特定の分野や市場に経営資源を集中し、局地戦を挑むことが有効です。
例えば、地元特化型の商品やサービスを展開することで、大手企業との差別化を図れるでしょう。これにより、優位性を確保できるため競争に打ち勝てます。また、大手企業が参入しないニッチ市場に特化する戦略も局地戦と言えます。
戦略② 一騎打ち
一騎打ちは、強者と正面から戦うのではなく、特定の競争相手からシェアを奪い取る戦略です。具体的には勝てる競争相手を探し、その競争相手を狙い撃ちした製品やサービスを展開します。例えば、競争相手の弱点をカバーする商品を開発・販売することで、特定の市場で優位に立てるでしょう。このようにしてシェアを奪うことで、市場への影響力を強化できます。
戦略③ 接近戦
接近戦は顧客との距離を縮める戦略です。顧客と直接コミュニケーションを取ることで、関係性が深まるため、競争力を強化できます。例えば、営業担当者が顧客の話を聞いて細かいニーズに対応したり、アフターフォローをしたりすることも接近戦の一つです。
戦略④ 一点集中
一点集中は、経営資源を特定の分野に集中することで、その分野で競争優位性を高める戦略です。例えば、勝ち目のある商品やサービスに事業を特化したり、特定の地域やターゲットに絞ってマーケティングを展開したりするのも一点集中のビジネスモデルです。
戦略⑤ 陽動作戦
陽動作戦とは、奇襲をかける戦略のことです。具体的には強者があえてやらないこと、あるいは思いもよらないことを実行し、市場シェアを奪います。
ランチェスター戦略を活用する際のポイント

ランチェスター戦略で成果を上げるには、次のポイントを押さえることが大切です。
ポイント① ニッチな市場でシェア1位を目指す
競争の激しい主要市場では強者に勝つのが難しいため、まずはニッチな市場でシェア1位を目指しましょう。そこでの成功を足がかりに、別の市場へ進出し、影響力を拡大していくことが重要です。
ポイント② 勝てる相手からシェアを奪う
シェアを奪う相手は、強者である必要はありません。自社の次に位置する弱者を狙うことで、効果的にシェアを獲得できます。強者に挑戦をして、勝てるかわからない戦いに経営資源を消費するよりも、より勝ちやすい相手に経営資源を投入することが大切です。
ランチェスター戦略で持続的な成長を実現しよう
ランチェスター戦略は、経営資源の少ない弱者が市場シェアを拡大するのに有効な戦略です。弱者は強者と同じ土俵で戦うのではなく、自社の強みを生かして、勝ちやすい分野を選ぶことが大切です。この戦略を実践することで、事業の持続的な成長が期待できます。