
競争の激しい市場で企業が生き残るには、競争優位性を確立することが不可欠です。
しかし、以下のように悩んでいるビジネスパーソンや経営者の方もいらっしゃるでしょう。
- どのような経営戦略をするのがいいのか?
- 市場での競争で勝つには何をすればいいのか?
このような悩みを抱える方に向けて、本記事ではポーターの3つの基本戦略について詳しく解説します。
ポーターの3つの基本戦略とは

ポーターの3つの基本戦略は、企業が市場のどこにポジショニングし、どのような戦略を採用すべきかを示したものです。「同じ商品であれば、より安いほうが売れる」と「価格が高くても、それ以上の価値があれば売れる」という考えに基づき、アメリカのマイケル・ポーター氏が提唱しました。
同フレームワークでは、市場の対象範囲が「広い」か「狭い」か、競争優位の軸を「低コスト」と「差別化」のどちらに重きを置くかによって選択すべき3つの基本戦略があります。各戦略についてわかりやすく解説します。
コストリーダーシップ戦略

コストリーダーシップ戦略とは、次のような低コスト化により、競争優位性を確立する戦略です。
- 業務や生産工程を見直し、生産性を向上させる
- 規模の経済を生かして、原材料の調達コストを削減する
- 生産量を増加させて、商品あたりの製造コストを削減する
- 既存の仕入れ先から安い業者に切り替える
- 廃棄ロスや停止ロスを削減する
つまり、この戦略は大量生産により低価格を実現し、大量に販売することでシェア拡大を目指す戦略です。特に、大企業の戦略に適しています。逆に規模の小さい企業では、大企業ほど低コスト化を実現することが難しいため、この戦略では生き残れない可能性があります。
コストリーダーシップ戦略のメリット
最大のメリットは、消費者から選ばれる可能性が高くなることです。これにより、市場シェアの拡大が期待でき、さらに規模の経済により低コスト化につながる好循環が生まれます。また、低コスト化を実現することで利益率を向上できるのもメリットです。
コストリーダーシップ戦略のデメリット
競合他社との価格競争が激化すると、利益率の悪化や経営基盤が弱体化するリスクがあります。また、大量生産のためには人員の確保や生産設備への投資などが必要です。このような投資は、経営資源の少ない企業にとって大きなリスクです。
コストリーダーシップ戦略の成功事例
コストリーダーシップ戦略の成功事例は、日本マクドナルド株式会社です。
同社が展開するマクドナルドは「安い」として広く認知されており、ハンバーガーセットは500円、単品であれば190円から購入できます。このような低価格を実現している背景は、グローバルサプライチェーンにより原材料を安く仕入れる仕組みに加えて、規模の経済を生かしているためです。
実際にマクドナルドは日本全国に2,985店舗(2025年2月時点)を展開しており、2024年度の全店の売上高は8,291億円で過去最高を記録しました。一方、店舗数で業界2位のモスバーガーは1,311店舗(2025年2月時点)で、2024年度の売上高は931億円でした。
つまり、マクドナルドはモスバーガーと比較して2倍以上の店舗を展開し、規模の経済を生かして低コスト化を実現しています。そして、低価格の商品を全国で大量に販売することで、モスバーガーの8.9倍の売上高を達成しています。
このことから、マクドナルドは日本全国で低コスト化を実現し、コストリーダーシップ戦略で圧倒的な地位を築いた代表例と言えるでしょう。
参考:日本マクドナルド株式会社「10年ぶり復活!「ハンバーガー」セットが500円で登場!」
差別化戦略

差別化戦略は、価格以外に競合他社との差別化を図り、市場内で独自のポジションを構築する戦略です。競合と差別化しやすい要素は以下のとおりです。
機能性:競合にない独自の機能を追加する
品質:高品質な素材や製造技術を使用する
ブランドイメージ:ブランド力を高めて、信頼性を高める
技術力:先端技術など、競合他社が模倣できない技術を開発・使用する
カスタマーサービス:顧客対応を充実させ、顧客満足度を高める
このように、価格以外の要素を差別化することで、価格が高くても選ばれる可能性が高まります。
差別化戦略のメリット
競合他社との価格競争に巻き込まれにくくなるのがメリットです。また、独自の付加価値により価格を下げる必要性がなくなるため、利益を確保しやすくなる点もメリットと言えます。
差別化戦略のデメリット
一度顧客が離れると、再び顧客を取り戻すことが困難な点がデメリットです。差別化戦略では、独自のポジショニングをとっているため、次から次へと新規顧客を獲得するのが困難だからです。また、市場環境や顧客のニーズの変化に対応するのが難しいのもデメリットと言えます。
差別化戦略の成功事例
差別化戦略の成功事例は株式会社モスフードサービスです。先述したように、同社が展開するモスバーガーは、日本で第2位の店舗数を誇るハンバーガーチェーンです。
モスバーガーは、日本人の味覚に合うハンバーガーの開発を創業以来続けてきました。その代表的な商品はお米を使った「ライスバーガー」です。ライスバーガーが誕生したのは1987年ですが、現在でも定番のハンバーガーとして人気があります。
このように株式会社モスフードサービスは、「味を徹底的に追求する」ことで差別化に成功し、業界2位の地位を守っています。なお、2023年度の売上高は930億円で過去最高を達成しました。
参考:株式会社モスフードサービス「ライスバーガー 誕生物語」
集中戦略

集中戦略は、特定の市場に経営資源を集中させることでシェアを獲得する戦略です。例えば、経営資源の少ない中小企業が得意分野のみに注力する戦略が該当します。
集中戦略のメリット
経営資源を効率的に活用することで、競合他社に勝つ可能性を高められるのがメリットです。さらに市場規模が小さいため、大手企業が進出しにくく、競争が激化しづらいのも特徴です。その結果、安定した市場環境の中で、長期的に利益を生み出す可能性があります。
集中戦略のデメリット
市場が成長し規模が拡大すると、大手企業が魅力を感じて参入するリスクがあります。経営資源の少ない企業は、大手企業が参入すると競争に負ける可能性が高いため、このリスクが集中戦略のデメリットです。また、競争が激化すると、経営資源が不足して競争優位性を維持できなくなる可能性もあります。
集中戦略の成功事例
集中戦略の成功事例は、株式会社しまむらです。同社はファッションセンター「しまむら」を全国に1,415店舗(2024年2月期末時点)を展開している企業です。
同ブランドは、お手頃な価格のアパレルを販売しているファストファッションブランドです。しかし、他のブランドとは異なる点があります。それは、若者やおしゃれに関心の強い方ではなく、郊外の20~50代の主婦をターゲットにしている点です。
徹底的な低コスト化と市場範囲を限定することで、独自のポジションを確立しています。なお、2024年度のしまむら事業の売上高は過去最高の4,769億円を達成しました。
参考:株式会社しまむら「しまむらグループ 統合報告書2024」
まずは1つの基本戦略から活用しよう
ポーターの基本戦略は、競争優位性を確立するために有効なフレームワークで、多くの企業がこの戦略を使い成功しています。複数の基本戦略を取り入れる方法もありますが、経営資源が不足する可能性があるため、まずは1つの戦略から実施するのがおすすめです。事業規模を拡大したい、あるいはシェアを獲得したい経営者様は、同フレームワークの活用を検討してみてはいかがでしょうか。