
複数の事業を展開しても、すべての事業を黒字化できるとは限りません。中には、赤字が続く不採算事業が生まれることもあります。こうした事業を放置すれば、経営全体の足を引っ張り、企業の成長を鈍化させる要因となります。
このように事業を多角化しても、思うように成果を上げられない時は、「選択と集中」という経営戦略が有効です。本記事では、ビジネスにおける選択と集中の意味やメリット・デメリット、成功するためのポイントを解説します。
選択と集中とは
選択と集中とは、成長が見込める中核事業に経営資源を集中的に投入する経営戦略です。1990年代後半以降、多くの企業から経営効率を高める手法として注目されてきました。
この戦略の目的は、経営資源を自社の強みを発揮できる分野に注力することで、企業の成長を促進することにあります。例えば、複数の事業を同時に展開しても成果が上がらない場合、不採算事業から撤退し利益を生み出している部門に集中することで収益性を高められます。
また、選択と集中は企業経営だけでなく、個人にも応用できる考え方です。限られた時間やエネルギーを特定のスキルや目標に集中することで、より大きな成果が期待できます。
正反対のアプローチは多角化
選択と集中の対義語とされているのは多角化です。多角化戦略とは、主要事業の経験や経営資源を活用し、新規事業の立ち上げやM&Aなどによって新たな分野へ進出する成長戦略です。収益構造を多様化することで、持続的な成長が期待できます。
このように、「選択と集中」と「多角化」は真逆のアプローチですが、どちらか一方が優れているというわけではありません。経営環境や市場の状況によって、最適な戦略は変わります。不確実性が高い時期には選択と集中、成長のチャンスを広げたい時は多角化といったように、状況に応じて使い分けることが大切です。
選択と集中に取り組むメリット

経営戦略を適切に選択するには、メリットを理解しておくことが大切です。ここでは、選択と集中によって得られる主な4つのメリットを紹介します。
メリット① 事業ポートフォリオを最適化できる
選択と集中は、中核事業に経営資源を集中すると同時に、不採算事業の撤退などによって事業ポートフォリオを最適化できます。採算が取れない事業や成長性の低い分野を見直すことで、経営をスリム化し、より効率的な資源配分が可能です。
例えば、家電メーカーが長年続けてきたオーディオ事業を縮小し、成長が見込めるスマート家電部門に注力するなどです。このように、成長が見込める分野に焦点を絞ることで、企業全体の収益性を高めるバランスの取れた事業ポートフォリオを構築できます。
メリット② 経営資源を有効に活用できる
経営資源を複数の事業に分散すると、不採算事業にもリソースが割かれ、全体の生産性が低下することがあります。このような場合に選択と集中を実践することで、成果の出にくい分野から経営資源を引き上げ、より効果が期待できる事業に再配分することが可能です。
例えば、複数の事業を展開する企業が利益率の低い事業を整理し、余ったリソースを中核事業の営業に振り分ければ、営業力が強化され売上の向上につながります。
限られたリソースをこのように中核事業に集中することで、業務効率や成果の向上が期待できます。
メリット③ 自社の強みを強化できる
選択と集中における中核事業は、通常、企業の強みを持つ分野です。強みを活かすことで、競争優位性を確保しやすいためです。その事業に経営資源を集中することで、強みを一層強化できます。その結果、競争優位性が高まり、他社との差別化や企業価値の向上にもつながります。
メリット④ 短期間で収益を改善できる
選択と集中の経営戦略は、短期間で収益の改善が期待できます。これは、不採算事業を早期に整理し、利益を生み出す事業に経営資源を集中することで、コスト削減と収益増を同時に実現できるためです。不採算事業を売却することで、キャッシュフローを改善する方法もよく用いられます。
選択と集中のデメリット
選択と集中は、企業の競争力を高める有効な戦略の一つですが、同時に注意すべき点も存在します。そのため、メリットだけでなくデメリットも理解しておくことが重要です。ここでは、代表的な4つのデメリットについて解説します。
デメリット① 中核事業への依存度が高くなる
選択と集中のデメリットは、中核事業への依存度が高くなる点です。
注力する事業の業績が企業全体に大きく影響するため、成果が上がりやすい反面、収益が悪化するリスクも伴います。一方、多角化は複数の事業を展開することでリスクを分散できます。
このように、選択と集中は多角化と比較して、リスクへの備えが弱くなる点に注意が必要です。
デメリット② 失敗した場合の損失が大きい
選択と集中は、成功すれば大きなリターンを得られる一方、失敗すればリスクも大きいのがデメリットです。撤退や事業再編にコストがかかるため、注力した事業が期待通りに成長しなければ、企業は経営面で深刻なダメージを負いかねません。そのため、どの事業に集中するかを慎重に判断する必要があります。
デメリット③ 従業員の不満や反発を招きやすい
不採算事業の整理には、人事異動や従業員の解雇を伴うことがあります。これにより、従業員の不満や反発を招き、離職や人材流出のリスクが高まります。こうしたリスクを抑えるためには、従業員への丁寧な説明が必要です。
デメリット④ 変化への柔軟性が低下する
中核事業に依存した成長戦略は、市場や環境の変化への柔軟性が低下します。例えば、競争の激化、競合企業の新規参入、イノベーションによる代替技術の登場などです。こうした変化に対応できない場合、業績が急激に悪化するリスクがあります。
成功するためのポイント

成功の可能性を高めながらリスクを抑えるためには、複数の視点から計画を立てることが重要です。ここでは、戦略を実行する際に、特に重要な2つのポイントを紹介します。
ポイント① 長期的な視点を持つ
短期的な利益ばかりを追求すると、成長が見込める事業を整理したり、中核事業の強化が不十分になったりする可能性があります。例えば、コスト削減のために研究開発費を削減すると、将来的に競争力を失うリスクがあります。このような事態を避けるには、短期的な視点だけでなく、長期的な視点も意識することがポイントです。
ポイント② 専門家の意見を参考にする
中核事業の選定や市場分析には、社内だけでなく外部の専門家の意見を参考にすることがポイントです。自社の視点だけでは見落としがちなリスクや成長機会を把握できるためです。
選択と集中で成長を実現するには
選択と集中は、成長戦略の一つです。不採算事業を整理し、経営資源を中核事業に集中的に投入することで収益性を強化できます。しかし、中核事業への依存や柔軟性の低下、従業員への影響といったリスクも伴います。そのため、戦略を実行する際は、長期的視点を持ちつつ専門家の意見も取り入れ、慎重に計画を立てることが重要です。
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