ダイナミックプライシングの意味やメリット・デメリット、成功事例を解説

ダイナミックプライシングは利益を最大化できるとして、ホテルやEコマース、飲食店などの多くの産業で導入されている価格戦略です。

多くの産業で導入されている背景は、AI技術やデータ分析の進歩により、需要の変動を細かく分析して価格に反映できるようになったためです。

今回は価格戦略で迷っている方に向けて、ダイナミックプライシングの意味やメリット・デメリット、成功事例を紹介します。

Contents

ダイナミックプライシングとは細かく価格を調整する方法

ダイナミックプライシングとは、需要の変動に合わせて商品・サービスの価格を調整する仕組みです。日本語で、「動的価格設定」「変動価格制」「変動料金制」などとも呼ばれています。

具体例

ダイナミックプライシングでよくみられる具体例は以下のとおりです。

・ホテルの宿泊料金

土日や連休といった繁忙期の価格を高く、反対に閑散期の価格を低く設定しています。

・ECサイトの販売価格

ECサイトではアクセス数や販売数などから需要を分析し、価格を調整しています。

・飲食店でのクーポンの割引率

昼時などの混雑する時間帯の割引率を低く設定し、空いている時間帯の割引を高く設定する方法です。

仕組み

ダイナミックプライシングで価格を決定する仕組みは、手動とシステムでする方法があります。

・手動の場合

手動で調整する方法は顧客の傾向やニーズ、売上データ、経験から担当者が適切な価格を決定します。システムを導入する必要がないため、費用を抑えられるのがメリットです。ただし、商品数が多い場合やリアルタイムで調整したい場合には向いていません。

・システムの場合

AIなどを搭載したシステムにより、自動で需要を分析して価格に反映させる仕組みです。導入費用やランニング費用はかかるものの、多数の商品やリアルタイムの価格調整ができます。また、ビッグデータをもとに算出するため、精度が高いことも魅力です。

ダイナミックプライシングのメリット

多くの産業でダイナミックプライシングが採用されている背景としては、企業・顧客の双方にメリットがあるためです。この章では、企業と顧客の双方のメリットについて紹介します。

企業側のメリット・ピーク時の収益が増加する
・余剰在庫を削減できる
・閑散期のリソースを有効活用できる
顧客側のメリット・時期によりお得に購入できる

企業側① ピーク時の収益が増加する

ダイナミックプライシングのメリットは、需要の高いときに価格を高く設定することで、ピーク時の収益を最大化できることです。

例えば、通常期1泊1万円/1人で平均500人宿泊するホテルがあるとします。そして、繁忙期になると1日700人宿泊すると仮定します。宿泊料金が固定価格制の場合、ピーク時の収益は700万円です。一方、繁忙期を1.5万円に値上げすると、収益は1,050万円で350万円増加します。

時期固定価格制ダイナミックプライシング
通常期:1日500人利用1泊1万円/1人 売上:500万円1泊1万円/1人 売上:500万円
繁忙期:1日700人利用1泊1万円/1人 売上:700万円1泊1.5万円/1人 売上:1,050万円

このように、需要が高まっているときは多少高くても購入されやすいため、値上げを実施することでピーク時の収益を最大化できます。

企業側② 余剰在庫を削減できる

需要が低下した場合に商品の価格を下げることで、顧客の購買意欲を高めて余剰在庫を削減できるのがダイナミックプライシングのメリットです。余剰在庫を削減することで、キャッシュフローの改善や在庫維持費用の削減も期待できます。

企業側③ 閑散期のリソースを有効活用できる

ダイナミックプライシングのメリットは、閑散期の人的リソースや物的リソースを有効活用できることです。

例えば、ホテルは従業員数や客室数の関係で、対応できる顧客数に上限があり、上限以上に宿泊希望者がいても機会損失となります。そこで、ダイナミックプライシングにより顧客を繁忙期から通常期・閑散期に分散することで、機会損失を抑制しつつ、閑散期に余りがちな人的リソースや物的リソースを有効活用できます。

顧客側① 時期によりお得に購入できる

顧客側のメリットは、時期により通常よりもお得に購入できる点です。需要が低下すると価格が安くなるためです。中には、安くなるタイミングを計って購入する顧客もいるでしょう。

ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングはメリットだけではなく、企業・顧客の双方にデメリットもあります。そのため、実施する前にデメリットについても把握しておきましょう。

企業側のデメリット・コストがかかる
・顧客離れにつながる恐れがある
顧客側のデメリット・需要が多い時期は割高になる

企業側① コストがかかる

企業にとってダイナミックプライシングのデメリットは、導入するのにコストがかかることです。例えば、AIなどで実現するには、システムの導入費用やランニングコストが発生します。既存のシステムと連携する場合は、さらに開発費用が発生することも考えられます。そのため、費用対効果が見合うかを検討した上で導入しましょう。

企業側② 顧客離れにつながる恐れがある

過度に安い、あるいは高く設定すると、顧客離れにつながる恐れがあります。変動幅が激しいと価格設定に不信感を抱くためです。例えば、購入した商品が次の日に大幅に安くなっていたら、納得するのは難しいでしょう。このようなことがあれば、顧客は他に信頼できる店や企業を探すようになり、結果として顧客離れにつながります。

顧客側① 需要が多い時期は割高になる

顧客側のデメリットは、購入する時期によって割高になることです。ダイナミックプライシングは需要が低下すると安く購入できるメリットがある一方で、高い時期に購入せざるを得ない方にとっては負担感が強くなります。

ダイナミックプライシングの成功事例

多くの企業がダイナミックプライシングを導入し、成功を収めています。今回はその中から、Amazonとユニバーサル・スタジオ・ジャパンを成功事例として紹介します。

Amazon

Amazonは、小売業界の中でいち早くダイナミックプライシングを取り入れた企業です。2013年には1日250万回以上も価格を調整しており、前年が1日27万回であったことから9倍に急増しました。その結果、2013年の売上は前年比で27.2%増を達成し、ダイナミックプライシングで成功したと言えます。

参考:Profitero「Profitero Price Intelligence: Amazon makes more than 2.5 million daily price changes

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、2019年にチケット料金においてダイナミックプライシングを導入しました。混雑が予想される日は高く、反対に人が少ないと予想される日は安く設定しています。

Themed Entertainment Associationの「TEA/AECOM Theme Index and Museum Index」によると、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの2022年の年間入場者数は、1,235万人で国内1位・世界3位でした。この結果からダイナミックプライシングの成功事例と言えます。

まとめ

ダイナミックプライシングは、顧客の需要に合わせて頻繁に価格を調整する仕組みです。AI技術の進歩により、多くの企業が取り入れています。そのため価格戦略に悩んでいる方は、戦略の1つとしてダイナミックプライシングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。