
2024年10月10日、厚生労働省はストレスチェック制度の今後の方向性として、これまで努力義務であった50人未満の事業所も対象に拡大する方針を決定しました。導入までには数年がかかると予想されるものの、対象の拡大によって多くの事業者が影響を受ける見込みです。
しかし、「ストレスチェック制度とは何?」というビジネスパーソンもいらっしゃるでしょう。そこで、今回は今さら意味を聞けないという方に向けて、ストレスチェック制度の概要や導入するメリット、手順についてわかりやすく解説します。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 第7回資料」
Contents
ストレスチェック制度とは
ストレスチェックとは、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査のことです。そして、ストレスチェック制度とは、基準を満たす事業者が全ての労働者に対して、1年に1回ストレスチェックを実施することを義務付けた制度です。2015年12月1日に施行されました。
目的
ストレスチェックが義務化された目的は、「メンタルヘルス不調を防ぐため」と「職場環境を改善するため」の2つです。それぞれの目的について解説します。
目的① メンタルヘルス不調を防ぐため
ストレスチェック制度の1つ目の目的は、「うつ」などのメンタルヘルスの不調を未然に防ぐことです。ストレスチェックを行うことで、労働者が自分のストレス状態を把握し、高ストレス状態であれば医師から助言をもらうなどの対策ができるためです。また、労働者が自分のストレス状態を把握することで、セルフケアの促進も期待できます。
目的② 職場環境を改善するため
ストレスチェック制度の2つ目の目的は、労働者が働きやすい職場環境に改善することです。ストレスチェックの実施により労働者がストレスに感じる要因を把握することは、働きやすい環境の整備に役立つためです。例えば、ある業務がストレスに感じているのであれば、その業務の時間短縮や代替方法の模索などが対策として考えられます。また、人間関係がストレスの原因となっているのであれば、配置転換も対策の1つです。
対象事業者
2015年12月1日に施行されたストレスチェック制度では、労働者が常時50人以上の事業所に実施が義務付けられました。50人未満の事業所については、当面の間は努力義務とすることになりました。しかし、冒頭で紹介したように、厚生労働省では今後50人未満の事業者についても、対象を拡大する方針です。
対象者
ストレスチェックの対象となる労働者は、50人以上の事業者で働く人全員です。そのため、正社員だけではなく、パートやアルバイトも対象に含みます。ただし、以下の2点に該当する労働者は対象外です。
- 労働契約期間が1年未満の労働者
- 労働時間が通常の労働者の所定労働時間と比較して4分の3未満の短時間労働者
また、派遣社員については、派遣元事業者がストレスチェックを実施する必要があります。
検査方法
ストレスチェックの検査方法は、まずストレスに関するアンケート形式の調査票に労働者が回答します。調査票では、以下の3つに関する項目を検査することが定められています。
- ストレスの原因
- ストレスによる心身の自覚症状
- 労働者に対する周囲のサポート
次に回答した調査票を集計・分析・点数化し、点数の結果により高ストレス者かどうかを選定します。
なお、調査票は厚生労働省のホームページ「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」からダウンロードすることも可能です。
実施しない場合の罰則
労働安全衛生法では、ストレスチェックを実施しないことに対して罰則が定められていません。しかし、事業者には労働者の心身の健康に配慮する義務があるため、労働契約法の違反にあたるので注意が必要です。また、ストレスチェックを実施しても労働基準監督署への報告を怠った場合は、労働安全衛生法第120条第5項により、50万円以下の罰金が科されます。
ストレスチェック義務化の背景
ストレスチェックが義務化された背景は、精神障害による労働災害認定の件数が増加傾向にあることです。実際に、ストレスチェック制度が施行された2015年(平成27年)の精神障害による労災災害認定の請求件数は1,400件を超えており、2005年(平成17年)の600件程と比較して2倍以上に拡大しています。このような心理的な負担による精神障害やそれを原因とする自殺を防止するために、ストレスチェック制度が創設されました。

出典:労働安全衛生総合研究所「過労死等防止重点5業種における精神障害の労災認定要因の見える化に関する研究」
ストレスチェックを導入するメリット
ストレスチェックを導入することで、労働者だけではなく、企業にもメリットがあります。ここでは、企業が導入する2つのメリットを紹介します。
メリット① メンタルヘルス不調による離職を予防できる
前述したように、ストレスチェック制度の目的は労働者のメンタルヘルス不調の予防です。そして、労働者のメンタルヘルスが健康に保たれると、休職や退職のリスクを低減できます。つまり、企業にとってストレスチェックを導入するメリットは、労働者の離職を予防できることです。離職者が減ることで、人材確保や人材採用のコスト削減にもつながります。
メリット② 生産性の向上
企業がストレスチェックを導入するメリットは、生産性が向上することです。なぜなら、ストレスチェックを実施すると職場環境が改善され、結果的に働きやすい環境を構築できるためです。つまり、ストレスチェックにより働きやすい環境を整備することで、労働者のパフォーマンスが高まり企業の生産性の向上が期待できます。
ストレスチェックの実施手順

ストレスチェックの実施手順は以下のとおりです。
1. 導入前の準備
2. ストレスチェックの実施
3. 医師による面接指導
4. 職場環境の改善
各手順について解説します。
手順① 導入前の準備
まずは、事業所の衛生委員会で話し合い、ストレスチェック制度の実施方法や社内規定を明文化します。例えば、いつ実施するのか、面接指導はどの医師に依頼するのか、ストレスチェックの結果はどこに保存するのかなどです。そして、決定した内容は全ての労働者に知らせます。
手順② ストレスチェックの実施
次に、ストレスチェックの調査票を労働者に配布し、記入してもらいます。また、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を利用して、オンラインでストレスチェックを実施することも可能です。ストレスチェックの調査票への回答が完了すると、医師などの実施者がストレスの程度を評価します。※上司や人事権を持つ職員は、記入・入力の完了した調査票の内容を閲覧できません。
手順③ 医師による面接指導
ストレスチェックの評価の結果は、実施者から直接本人に通知されます。そして、高ストレスと評価された労働者は、医師による面接指導を受けることが可能です。※結果は企業には返ってきません。企業が結果を入手するには、本人の同意が必要です。
手順④ 職場環境の改善
ストレスチェックの結果をもとに、職場環境の改善を図ります。ストレスチェック制度の効果を高めるには、個人と職場環境の両方の対策を実施することがポイントです。
50人未満の事業所も準備を進めよう
読売新聞オンラインによると、2021年時点で従業員50人未満の事業所は全国に約364万カ所で、そこに従事する労働者は約2,893万人とのことです。これほど多くの事業所・労働者が影響することから、導入まで数年かかると見込まれています。しかし、厚生労働省が拡大する方針を決定したことから、義務化に備える必要があります。現時点でストレスチェックを実施していない50人未満の事業所は、この機会に導入に向けて準備を進めましょう。
参考:読売新聞オンライン「働く人の「ストレスチェック」、全事業所に義務拡大へ…昨年度の労災認定は過去最多の883人」