日本の多くの自治体で、気軽に日用品や生活用品を買えない買い物難民が増加しており、社会的な問題となっています。
そこで期待されているのは、買い物難民の解決につながる支援ビジネスの拡大です。
本記事では新規事業のアイデアを探している経営者に向けて、買い物難民の現状や増加する背景、支援ビジネスの事例4選を紹介します。
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買い物難民の現状
買い物難民は買い物弱者とも呼ばれ、経済産業省では以下のように定義しています。
「人口減少や少子高齢化等を背景とした流通機能や交通網の弱体化等の多様な理由により、日常の買物機会が十分に提供されない状況に置かれている人々」
引用:経済産業省「買物弱者対策支援について」
その買い物難民は増加傾向にあります。具体的に農林水産政策研究所が公表している「食料品アクセスマップ」によると、2015年の食料品アクセス困難人口は824万人でしたが、2020年には904万人に増加しています。※食料品アクセス困難人口とは、店舗まで500m以上あり、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者のことです。
食料品アクセス困難人口が増加傾向にあることは、買い物難民が増加していることを示しています。このように買い物難民が増えていることで、約9割の自治体が対策の必要性があると考えています。
また、買い物難民の問題は地方に限った話と思うかもしれません。しかし、2020年の食料品アクセスマップでは、東京圏・名古屋圏・大阪圏の三大都市圏の食料品アクセス困難人口が414万人と推計されました。
つまり、日本の多くの自治体で問題となっているのが買い物難民の増加と言えます。
買い物難民が増加する背景
多くの自治体で買い物難民が増加する背景は75歳以上の高齢者の増加、商店の閉店や商店街の衰退、移動手段の不足が挙げられます。買い物難民の問題を深く理解するために、3つの背景を押さえておきましょう。
75歳以上の高齢者の増加
日本は世界でも有数の高齢化社会です。2023年の総務省の「統計からみた我が国の高齢者」によると、高齢化率は29.1%に達しました。同報告書によると、75歳以上の人口が初めて2,000万人を突破し、さらには10人に1人が80歳以上となっています。
75歳以上の高齢者は持病や筋力の衰え、自動車の運転が困難になるなどの問題を抱えやすく、そのような年代の高齢者が増えていることが買い物難民の増加の背景と言えます。
商店の閉店や商店街の衰退
高齢化・過疎化の進行は、地域の市場規模を縮小させ、小規模の商店や商店街を衰退させる要因となります。そして、経営が困難になると閉店せざるを得ない商店も増えるでしょう。
このような商店の閉店は、買い物難民を増やす要因です。買い物に遠くの町まで行かなければならない状況は、特に車を持たない高齢者にとって大きな負担となるためです。
移動手段の不足
高齢者にとって、買い物に行くための移動手段があるかどうかは生活を送るうえで重要な要素です。運転免許証を自主返納したあとに、移動手段が確保できなければ買い物難民となるケースもあるためです。
しかし、地方ではバスや電車が1日に数本しか運行されないなど、地域公共交通が衰退している自治体もあります。またタクシーを利用しようにも、日常的に利用するのは金銭的な負担が大きくなります。
このような背景から地方では移動手段を確保できずに、結果として買い物難民が増加しているのです。
買い物難民の解決に向けた支援ビジネス4選
多くの自治体で買い物難民が増加し、対応が必要と認識されているなか、買い物支援をうまく取り入れたビジネスモデルが複数登場しています。この章では、新規事業のアイデアの参考となるように、支援ビジネスの事例4選を紹介します。
移動販売:移動スーパーとくし丸
出典:移動スーパーとくし丸
移動スーパーとくし丸は、株式会社とくし丸が運営しているフランチャイズ型の移動販売事業です。具体的には、全国にある提携先のスーパーマーケットの商品を軽トラックに載せて、買い物が困難な地域まで行き販売を代行しています。
実際に軽トラックを運転して販売しているのは、フランチャイズ契約をした販売パートナーと呼ばれる個人事業主です。2024年時点の稼働台数は1,178台で、全国的に事業を展開しています。買い物難民の支援ビジネスとして成功した事例と言えるでしょう。
オンラインショッピング支援:生成AIによる対話型コマース
香川県坂出市は買い物難民の支援ビジネスモデルとして、GMOメイクショップ株式会社・KBN株式会社・坂出商工会議所の3者と連携し、「生成AIによる対話型コマース」の実証実験をしました。
GMOメイクショップ株式会社はECサイトの構築・運営支援を行っている企業で、KBN株式会社は坂出市でケーブルテレビ事業を展開している企業です。
実証実験の内容は、生成AIのChatGPTを利用した音声対話型のオンラインショッピングシステムの運用です。
高齢者がタブレット端末から話しかけるだけで、生活に必要な食材などを注文できるようになっており、タブレットやスマホ操作が苦手な高齢者でもオンラインで買い物ができるように工夫されています。
実証実験の結果、参加した世帯の約70%から「本サービス化して欲しい」との回答があり、好評を得ています。
参考:坂出市「「生成AIを活用した対話型コマースによる高齢者買い物支援」の実証実験」
移動手段の提供:お買い物バス
出典:食品館あおば初山店
神奈川県横浜市でスーパーマーケット「食品館あおば」を運営する株式会社ビック・ライズは、買い物難民の移動手段としてお買い物バスを運行しています。
スーパーマーケットで買い物体験をしてほしいという思いから、移動スーパーではなく、無料のバスを運行しているとのことです。1日50~60名の方が利用され、利用者からは好評を得ています。また無料のバスを運行したことで、地域における知名度や信頼度が高まり、出店がスムーズに進むなどのメリットもありました。
参考:経済産業省「買物弱者支援事業者事例集」
ネットスーパー:おうちでイオン
おうちでイオンは、イオンリテール株式会社が運営するネットスーパーです。同社が運営するイオンモールの商品をインターネット上で注文することで、自宅に配送してもらえるサービスです。
最短で当日の受取もできるため、野菜やお肉、お魚などの食料品も新鮮なうちに配送してくれます。
同社では買い物難民への支援として、移動販売も展開しています。しかし、70代の高齢者でもインターネット上で注文されるケースが増えてきており、今後の主軸はネットスーパーになると感じているとのことです。
また、ネットスーパーのほうが商品の品ぞろえも豊富なことから、消費者の満足度を高められるとしています。
参考:経済産業省「買物弱者支援事業者事例集」
買い物難民の支援ビジネスに乗り出してみよう
買い物難民の増加は、日本の多くの自治体で問題となっています。高齢化社会が進む日本において、今後ますます深刻になるかもしれません。
そのような状況を解決するために、多くの企業が移動販売やネットスーパー、移動手段の提供などにより支援を行っています。
新規事業のアイデアを模索している経営者にとって、買い物難民の支援ビジネスは社会的貢献とビジネスチャンスの獲得を同時に目指せる分野です。この機会に、買い物難民支援に関する新たなビジネスモデルを検討してみてはいかがでしょうか。