それぞれ適したシーンも異なります。本記事では、マーケットインとプロダクトアウトの違いやメリット・デメリット、事例をわかりやすく解説します。

新規事業の立ち上げや新商品の開発手法として、よく取り上げられるのが「マーケットイン」と「プロダクトアウト」です。しかし、「今さら意味や違いを聞けない」という方もいらっしゃるでしょう。そこで今回はビジネスパーソンに向けて、マーケットインとプロダクトアウトの意味や違い、メリット・デメリット、事例をわかりやすく紹介します。
マーケットインとは
マーケットインとは、市場の需要や顧客のニーズを起点に、新規事業や商品を企画・開発する考え方です。事前に顧客や市場のニーズを調査し、その結果に基づいて商品を開発します。つまりマーケットインは、「顧客の求めるものを形にすること」を優先するアプローチと言えるでしょう。
メリット
マーケットインの開発手法のメリットは次のとおりです。
- 顧客満足度が高まりやすい
マーケットインでは、顧客の「困りごと」や「こういうものが欲しい」という声を基に商品を開発します。そのため、顧客の期待に添ったものを提供しやすく、「買って良かった」や「また利用したい」といった満足感につながりやすいのがメリットです。
- 失敗するリスクが少ない
商品を作る前に、実際にニーズがあるかどうかを調べるのがマーケットインの特徴です。確実に顧客のニーズがある商品を開発することから、全く売れないというリスクが少ないのがメリットです。
- 売上を予測しやすい
市場規模から、実際にどのくらいの売上を確保できるかを予測できます。売上から逆算することで、生産数や広告費などの計画が立てやすく、経営資源の無駄遣いも削減できます。
- 変化する市場に対応しやすい
顧客のニーズは、時代やトレンドによって変わります。マーケットインのメリットは、顧客の声を聞きながら商品開発を行うため、こうした変化にも素早く対応できる点です。例えば、顧客のライフスタイルや価値観が変わったときでも、すぐに商品やサービスを見直すのに役立ちます。
このようにマーケットインは、顧客のニーズを起点に商品開発を進めることで、リスクを減らしつつ、安定した成果を出しやすいのがメリットです。
デメリット
マーケットインは多くのメリットがある一方で、顧客のニーズを重視するからこそのデメリットもあります。ここでは、代表的な2つのデメリットについて解説します。
- 差別化が難しい
マーケットインでは、市場の需要や顧客の声を基に商品を開発するため、どうしても他社と似たようなアイデアになります。他社も調査により、同様の結論がでやすいからです。その結果、同じような機能やデザインの商品が開発される恐れが高く、自社の独自性や強みを打ち出しにくくなります。差別化が難しくなると、最終的には価格競争に陥りやすい点も見逃せない問題点です。
- 革新的な商品の創出が難しい
マーケットインの考え方では、まだ誰も築いていない価値やニーズを基に商品を開発することが困難です。そのため、目新しさのある画期的な商品や、これまでにない新たな市場の開拓は不向きです。売れる確率は高いものの、大ヒット商品やイノベーションにつながる可能性は低くなります。
このように、マーケットインは顧客のニーズに応じて確実性の高い商品開発ができる一方、競合との差別化や革新性の面に弱点があることを理解する必要があります。
向いているシーン
マーケットインは、以下のようなシーンで効果を発揮します。
- 顧客との信頼関係を優先したいとき
- 既存事業をより強化させたいとき
- リピーターを獲得したいとき
- 確実に売上を確保したいとき
- 顧客のニーズが明確なとき
つまり、マーケットインは顧客との関係を構築しながら、安定した売上を確保したい企業に向いていると言えるでしょう。
プロダクトアウトとは
プロダクトアウトとは、企業が持つ強みや技術力を起点に、新規事業や商品を企画・開発する考え方です。例えば、「この技術を活用すれば新たな価値を提供できるのではないか」や、「このアイデアは今までにない画期的な商品になるはずだ」といったように、企業の技術や発想を基に商品を生み出します。この手法は、「良いものを作れば売れる」という前提に立ち、顧客のニーズよりも企業自身の信念やアイデアを重視する傾向にあります。
メリット
プロダクトアウトの開発手法のメリットは次のとおりです。
- 自社の技術力や強みを生かせる
プロダクトアウトは、企業の技術やノウハウを最大限に活用できる開発手法です。自社の得意分野を生かし、これまでにはない新たな価値を提供できます。
- 新たな需要を生み出せしやすい
顧客のニーズに依存せずに商品を開発するため、既存の枠にとらわれない発想で市場を切り拓くことが可能です。例えば、AppleのiPhoneのように、新しい市場を創出し、大きな成功を収めるケースもあります。
- ブランド力の強化につながりやすい
独自性の高い商品を展開することで、「革新的な企業」や「技術に強い企業」として評価が高まり、ブランドイメージの向上につながります。その結果、価格競争に巻き込まれにくくなり、ファンの獲得も期待できます。
- 競合他社との差別化につながりやすい
プロダクトアウトの商品は独自性が高く、他社と差別化しやすいのがメリットです。独創的な技術やアイデアで訴求できるため、価格以外の価値で顧客に選ばれやすくなります。
このようにプロダクトアウトは、差別化や競争力を高めることができる開発手法です。
デメリット
プロダクトアウトには、いくつかのデメリットも存在します。ここでは代表的な2点を紹介します。
- 市場や顧客から需要がない可能性がある
企業が「良い商品」と信じていても、実際には顧客が求めていない場合や、ニーズがまだ顕在化していない場合も少なくありません。このような場合、売れ行きが伸びず、大きな損害を被る可能性があります。
- マーケティングに左右される
プロダクトアウトで開発された商品は、価値を伝えるマーケティングが難しいことがあります。特に、消費者にとって馴染みのない技術や新しいコンセプトを含む製品は、その魅力を理解してもらうまでに時間と手間がかかる傾向があります。どれだけ優れた製品であっても、その価値が伝わらなければ購入にはつながりません。そのため、マーケティングの成否が、売上を大きく左右することになります。
このように、プロダクトアウトにはリスクもあるので、実施する際は慎重な判断が必要です。
向いているシーン
プロダクトアウトは、以下のようなシーンで効果を発揮します。
- 新規市場を開拓したいとき
- 多くの新規顧客を獲得したいとき
- 市場シェアを拡大したいとき
- 価格競争から抜け出したいとき
このように、プロダクトアウトは新たな市場の創出や他社との差別化を目指す戦略と相性がよく、挑戦的なビジネスを展開したい企業に向いています。
マーケットインとプロダクトアウトの違いとは
マーケットインとプロダクトアウトの違いを、以下の表にまとめました。
項目 | マーケットイン | プロダクトアウト |
起点 | 市場や顧客のニーズ | 企業の強みや技術力 |
リスクと売上 | 低リスクで安定した売上が期待できる | 高リスクだが、大きな売上につながる可能性がある |
顧客との関係性 | 顧客の声を重視する | 企業主体の開発になり、顧客との関係が希薄になりやすい |
開発スピード | ニーズの調査に時間がかかる | 自社判断で進められるため、スピーディに開発できる |
マーケットインとプロダクトアウトは、それぞれにメリット・デメリットがあります。そのため、目的や事業のフェーズに応じて使い分けることが大切です。
マーケットインとプロダクトアウトの事例
マーケットインとプロダクトアウト、どちらの手法でも成功している企業は数多く存在します。ここでは参考として、それぞれの代表的な成功事例を紹介します。
マーケットインの事例:ワンダ モーニングショット

出典:アサヒ飲料株式会社「ワンダ モーニングショット」
マーケットインの成功事例として知られているのが、アサヒ飲料株式会社が2002年に発売した缶コーヒーの「ワンダ モーニングショット」です。
同社は徹底した調査により、缶コーヒーが最も多く飲まれている時間帯が午前中ということを発見しました。その結果を受けて、「朝の気つけの1杯をショット感覚で楽しむ」というコンセプトのもと、「ワンダ モーニングショット」を発売しました。商品は発売と同時に大ヒットし、わずか1週間で100万箱、3か月で500万箱を販売。その後も勢いは衰えず、発売から1年で1,500万箱を超える空前の大ヒット商品となりました。
このように、徹底した調査により顧客のニーズから商品開発を行っているため、「ワンダ モーニングショット」はマーケットインの成功事例と言えます。
参考:ハレの日、アサヒ「朝専用缶コーヒー「ワンダ」誕生秘話」
プロダクトアウトの事例: iPhone

出典:Apple「iPhone」
プロダクトアウトの成功事例として知られているのが、AppleのiPhoneです。
iPhoneが登場する以前、携帯電話市場では物理ボタンで操作するいわゆる「ガラケー」が主流でした。しかしAppleは、シンプルなデザインと直感的なタッチ操作にこだわったiPhoneを開発し、それまでの常識を覆しました。
この革新的なアプローチにより、iPhoneは瞬く間に世界中で注目を集め、スマートフォンという新たな市場を創出。今では「画面を指で操作する」スタイルが当たり前となり、Appleは圧倒的なシェアと莫大な利益を獲得しました。
まさにiPhoneは、自社の技術と発想を起点に市場を切り開いた、プロダクトアウトの成功例と言えます。
2つの違いを押さえて使い分けよう
マーケットインとプロダクトアウトは、新規事業や商品開発における代表的なアプローチです。マーケットインは「顧客のニーズに応える」ことで、安定した売上が期待できます。一方でプロダクトアウトは、自社の強みや技術力を生かし、「新しい価値を提案する」ことができます。
どちらの手法が優れているというわけではなく、目的や状況に応じて使い分けることが大切です。両方の手法をバランスよく活用することが、新規事業の成功や競争力のある商品開発につながります。