デジタル赤字とは何?拡大している背景や問題点をわかりやすく解説

日本では、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、デジタル化が進んでいます。しかし、海外のデジタルサービスやクラウドサービスの利用が増えていることから、問題となっているのはデジタル赤字です。

ニュースで取り上げられる機会も増えてきましたが、意味がわからないという方もいらっしゃるでしょう。本記事ではそのようなビジネスパーソンに向けて、デジタル赤字の意味や拡大している背景、問題点をわかりやすく解説します。

※DXとは、デジタル技術の活用によりこれまでのサービスやビジネスモデルを変革することです。

Contents

デジタル赤字とは

デジタル赤字とは、海外のデジタル関連サービスの利用が増え、これらのサービス利用料の輸入額が輸出額を上回っている状態のことです。特に、コロナ禍以降、リモートワークの普及などによりデジタル関連サービスの需要が増加したため、デジタル赤字も拡大しています。

デジタル関連サービスの具体例

デジタル赤字について理解を深めるために、この章ではデジタル関連サービスの一覧を紹介します。

●デジタル関連サービスの具体例一覧

デジタル関連サービス具体例
オペレーティングシステム(OS)・Windows
・macOS
動画配信サービス・YouTube
・Netflix
クラウドサービス・AWS(アマゾンウェブサービス)
・Shopify(ECサイト構築サービス)
ウェブ会議システム・Zoom
有料ソフトウェア・Microsoft Office
その他・音楽配信サービス
・インターネット広告サービス

このような海外のデジタル関連サービスは、多くの企業や個人で使われており、現代の生活において不可欠な存在です。

日本のデジタル赤字の現状

日本政策投資銀行の「拡大するサービス貿易と日本のデジタル赤字」によると、2023年のデジタル赤字は5.5兆円でした。同年の旅行費の収支は3.6兆円の黒字であることから、インバウンドの影響よりも大きいことがわかります。また、デジタル赤字は過去10年間で約2倍に拡大していることから、赤字額の拡大による日本経済への悪影響も心配されています。実際に、経済産業省が2022年7月に発表した「次世代の情報処理基盤の構築に向けて」によると、2030年のデジタル赤字は8兆円と試算され、2021年の原油の輸入額を超えるとのことです。

出典:経済産業省「次世代の情報処理基盤の構築に向けて

デジタル赤字が拡大している背景

日本のデジタル赤字は世界最大規模です。なぜ、これほどまでにデジタル赤字が拡大しているのかは、2つの背景が挙げられます。

海外ビッグテックのサービスの拡大

1つ目は、海外ビッグテックのサービスの利用が増えていることです。特に、GAFAM(Google、Amazon、Meta(旧Facebook)、Apple、Microsoft)と呼ばれるアメリカの大手IT企業は、日本市場において圧倒的なシェアを誇っています。

例えば、日本のパソコン向けのOS市場においてMicrosoftのシェアは約70%です。スマートフォン向けのモバイルOS市場は、GoogleのAndroidとAppleのiOSがほぼ100%を占めています。クラウドサービスにおいてもAmazon、Microsoft、Googleの3社で日本市場の約60%を獲得している状態です。

このように、日本国内では海外のデジタル関連サービスの利用が増え続けています。その結果、ライセンス料やサービス利用料が増加し、デジタル赤字が拡大しています。

DX推進の影響

2つ目は、DX推進の影響です。多くの日本企業では、競争力の強化や業務効率の改善を目的にデジタル技術を活用したDXを推進しています。しかし、DXで導入されるデジタルサービスやクラウドサービスの多くは、先に紹介したように海外のIT企業が強みを持っています。そのため、多くの企業が海外のサービスに頼らざるを得ず、結果的にデジタル赤字が増えてしまうのです。

デジタル赤字の問題点

デジタル赤字がニュースなどで話題に上るのは、赤字額が拡大すると日本経済に悪影響を与える可能性があるためです。この章では、特に影響の大きい3つの問題点を紹介します。

問題点① 円安の一因となる

デジタル赤字が拡大すると、円安の一因となります。海外のデジタル関連サービスに対して料金を支払うことは、国内の資金が海外に流出することを意味し、円の価値が下がるためです。円安が進むと、輸入コストが増大することで物価が上昇し、企業や消費者の負担が増えるでしょう。

問題点② 海外サービスの依存度が高まる

デジタル赤字が拡大すると、日本の企業や産業が海外のデジタルサービスにますます依存することになります。ビジネスの基盤となる多くのデジタルインフラにおいて、海外企業にシェアを奪われるためです。

問題点③ 国際的な競争力が低下する

デジタル赤字の拡大は、日本の国際的な競争力にも影響を及ぼします。国内のシェアを海外企業に奪われることで、デジタル関連サービスの国内企業の経営基盤や技術力が弱体化してしまうためです。結果として、世界市場における日本企業の競争力を低下させる恐れがあります。

デジタル赤字のプラスの影響

デジタル赤字の拡大は問題があると懸念されていますが、全てが悪いというわけではありません。ここでは、デジタル赤字のプラスの影響について紹介します。

企業のイノベーションを促進

デジタル赤字が拡大していることは、日本企業がデジタル技術を積極的に導入している証拠です。デジタル技術を活用したDXによって、企業は効率化だけではなく、イノベーションの促進も期待できます。例えば、AIやIoTを導入して業務を自動化することで、人的リソースを製品開発などの創造的な業務に割けるでしょう。つまり、デジタル赤字が拡大する一方で、企業は新しいアイデアや技術革新に取り組むきっかけを作れます。

生活の利便性が向上

デジタル赤字の拡大は、企業だけではなく、消費者にもデジタル技術が浸透していることを示しています。その代表例はスマートフォンです。モバイルOS市場はGoogleとAppleによってほぼ独占されていますが、日本の携帯電話所持者のうち、97%がスマートフォンを使用しているためです。このようにしてスマートフォンが普及し、本体をかざすだけで簡単に支払いができたり、どこでもニュースや情報にアクセスできたりと、生活の利便性が大幅に向上しています。

世界基準のプラットフォームの活用

海外のデジタル関連サービスのなかには、世界基準のプラットフォームが多数あります。例えば、Shopifyは世界中の事業者が利用できるように設計されたクラウド型EC構築プラットフォームです。そのため、Shopifyを利用してECサイトを構築すれば、比較的容易に海外進出を実現できます。このように、デジタル赤字が拡大しても世界基準のプラットフォームを活用することで、海外市場にアクセスしやすくなります。

デジタル赤字はビジネスチャンスでもある

デジタル赤字の拡大は、日本経済に悪影響を及ぼす可能性がありますが、新たなビジネスチャンスも秘めています。例えば、円安が進むことで、輸出企業にとっては追い風となるでしょう。このように、デジタル赤字の拡大をビジネスチャンスと捉え、柔軟に対応していくことが大切です。