本社移転が増えている理由とは!メリット・デメリットや事例を紹介

2025年5月12日、シャープ株式会社は採用戦略の一環として、本社を現在の堺市から大阪市中央区へ移転する計画を発表しました。実は、同社だけでなく、このように本社移転をする企業が増加傾向にあります。そこで本記事では、本社移転が増えている理由やメリット・デメリット、実際の事例について詳しく解説します。 

参考:日本経済新聞「シャープ、本社を堺市から大阪市中央区に移転 26年3月めど」 

本社移転とは 

本社移転とは、企業の本社の所在地を別の場所へ移すことです。これは、登記簿上の住所変更を伴う法的な手続きであり、一般的な「オフィス移転」とは異なります。オフィス移転が営業所や支店の移動などを含むのに対し、本社移転は経営の中枢機能そのものを移す重要なプロジェクトです。例えば、経理・法務・人事など、企業全体の基幹部門が関与するため、事前に綿密な準備と調整が不可欠です。 

本社移転が増えている理由 

帝国データバンクが発表した「首都圏「本社移転」動向調査(2024年)」によると、2024年の首都圏からの転出企業が363社と、過去最多を記録しました。一方で、首都圏への転入企業は296社にとどまり、4年連続で転出が転入を上回る結果となっています。 

この調査から、本社を首都圏から地方へ移す企業が増加している傾向が読み取れます。特に、サービス業・卸売業・不動産業の分野で移転が多く見られました。こうした本社移転が進む背景には、次のような理由があります。 

  • 働き方改革の推進 
  • 企業のブランドイメージ向上 
  • テレワーク・リモートワークの定着による地理的制約の緩和 

このような動きは、2025年以降も続くと予想されており、地方を拠点にビジネスを展開する企業がさらに増える可能性があります。 

地方へ本社移転をするメリット・デメリット 

都市部のほうがビジネス環境に優れていると考える人は少なくありません。そのため、「あえて地方へ本社移転をするメリットがあるのか?」と疑問に感じる方もいるでしょう。ここでは、地方移転の主なメリットとデメリットについて解説します。 

メリット① 従業員の働き方改革の推進 

本社を首都圏から地方へ移すことで、従業員のワークライフバランスが向上します。 
テレワークやリモートワークによって、通勤時間の短縮や生活コストを軽減できるからです。また、多様なライフスタイルに対応した働き方が可能になるので、離職率の低下や従業員のエンゲージメントの向上が期待できます。 

メリット② ブランドイメージの向上 

地方へ本社を移転した場合、「地方創生に貢献している企業」として、ブランドイメージの向上が期待できます。こうしたブランドイメージは、採用活動やパートナー企業との関係構築に良い影響を与えます。 

メリット③ コストの削減 

地方へ本社移転をするメリットは、オフィス賃料・人件費・交通費などのコストを削減できることです。長期的な視点で見ると、これらの固定費の削減は経営の安定化につながります。 

メリット④ BCP(事業継続計画)対策 

本社機能を首都圏から地方に分散することで、事業継続性を高めることが可能です。なぜなら、地震や感染症といったリスクを軽減できるからです。そのため、地方への本社移転は、BCP(事業継続計画)の一環として有効な手段と言えます。※BCPとは、自然災害や火災、テロ攻撃などの緊急事態に損害を最小限にとどめつつ、中核事業を継続するための計画です。 

デメリット① 人材確保が難航する可能性 

地方では、専門性の高い人材や経験豊富な人材の採用が難航する場合があります。都市部に比べて労働市場が小さいためです。そのため、地方へ本社を移転すると、採用戦略や人材育成の方針の見直しが必要になる可能性があります。 

デメリット② 取引先との物理的な距離の増加 

主要な取引先が都市部に集中している企業にとっては、物理的な距離の増加が業務効率の低下につながる恐れがあります。特に、対面での打ち合わせや商談が重要な業種では注意が必要です。 

デメリット③ 本社機能を分割する必要性 

全ての本社機能を地方に移転するのが難しい場合、都市部に一部の本社機能を残すケースがあります。そのような体制では、業務の連携が取りづらくなったり、運営コストが増加したりする恐れがあります。 

都市部へ本社移転をするメリット・デメリット 

地方や郊外から都市部に本社移転をする動きも根強くあります。都市部へ本社移転をするメリット・デメリットは次のとおりです。 

メリット① 効率化・生産性の向上 

都市部はインフラが整備されており、交通手段も豊富です。また、関係機関や取引先との物理的な距離が近くなりやすいため、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。 

メリット② ブランドイメージの向上 

都市部、特に大都市の中心エリアに本社を構えることは、企業の信頼性やブランド力を高める要因となります。「勢いのある企業」や「安定した企業」といったポジティブな印象を与えるためです。このようなブランドイメージの向上は、顧客や取引先との関係構築に加えて、採用活動にも良い影響をもたらします。 

メリット③ ビジネスチャンスの拡大 

都市部には多様な業種の企業が集まっているので、新規顧客の獲得やパートナー企業との協業の機会が豊富です。さらに展示会やセミナー、業界イベントも頻繁に開催されるため、都市部へ本社を移転することでビジネスチャンスが広がります。 

デメリット① コストの増加 

都市部でのオフィス賃料や人件費は、地方と比べて高い傾向にあります。都市部へ本社を移転するデメリットは、これらのコストの増加が大きな負担となることです。 

デメリット② 従業員のエンゲージメントの低下 

都市部の生活環境は利便性が高い一方で、通勤の混雑や生活コストの高さから、従業員の満足度が低下する恐れがあります。特に、地方から都市部への移転に伴って通勤時間が延びると、モチベーションやエンゲージメントの低下につながります。 

本社移転をした企業の事例 

ここでは、実際に本社移転をした「株式会社はなまる」と「日本ミシュランタイヤ株式会社」の事例を紹介します。 

株式会社はなまる:東京都中央区から香川県高松市 

出典:讃岐うどんのはなまるうどん 

讃岐うどんチェーンを展開する株式会社はなまるは、2025年1月1日に本社を東京都中央区から香川県高松市へ移転しました。同社は創業地に本社移転をすることで、地域とのつながりを深めるとともに、地方創生への貢献を目指しています。移転の背景には、以下のような狙いがあります。 
創業の原点回帰:香川県は讃岐うどんの発祥の地であり、地元との関係を強化することがブランド力の向上につながる。
同社の移転は、地方の文化・風土を重視しながら企業の独自性を高める事例と言えます。 

日本ミシュランタイヤ株式会社:東京都新宿区から群馬県太田市 

出典:日本ミシュランタイヤ株式会社 

日本ミシュランタイヤ株式会社は、2023年8月に本社を東京都新宿区から創業地である群馬県太田市へ移転しました。2024年11月には、新社屋「PARK棟」を披露し、本社移転から1年の成果を発表しました。 
同社の社内調査において、社員の約78%が新しい本社での働き方に満足しており、通勤支援や柔軟な勤務形態に対しても高く評価しています。同社の取り組みは、働き方改革と地域密着を両立した事例と言えます。 

参考:日本ミシュランタイヤ株式会社「「群馬から世界へ」日本ミシュランタイヤ、事業開始の地への本社移転1周年の進化を発表」 

本社移転は企業変革のチャンス 

本社移転は、単なる住所変更ではなく、企業の方向性や文化、経営戦略に大きな影響を与える決断です。実際に移転を行った企業は、コスト削減や働き方改革、ブランドイメージの向上、リスク分散といった多様な目的をもって実施しています。これから本社移転を検討している企業様は、移転を企業変革のチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。