
新規事業や商品開発など、新たなプロジェクトに取り組む際は、実現可能性を見極めることが大切です。事業計画が本当に実行可能か、利益を見込めるかを明確にしなければ、成功の確率を評価できないためです。
しかし、「どのようにして評価すればいいのかわからない」と感じる方もいらっしゃるでしょう。そのような時に役立つのは「フィジビリティスタディ」です。これは、プロジェクトの実現可能性を多角的に評価するための調査のことです。
本記事では新規事業や商品開発に携わるビジネスパーソンに向けて、フィジビリティスタディの意味やPoCとの違い、進め方をわかりやすく解説します。
フィジビリティスタディとは
フィジビリティスタディとは、簡単に言えば「新規プロジェクトが本当にやる価値があるのか?」を多角的な視点から見極めるための調査です。日本語では、「実行可能性調査」や「投資調査」と呼ばれることもあります。
1933年、アメリカ政府が設立したテネシー川流域開発公社が初めて使用したとされています。当時、世界恐慌の影響で経済が大きな打撃を受けていました。そのような中、従業員の雇用を守るために、同社はダム建設などの公共事業に取り組む際、計画の実現性と実効性を入念にチェックしたとされています。
フィジビリティスタディの調査は経済や技術、社会動向、法規制など、プロジェクトに影響を及ぼす可能性のある様々な要因が対象です。調査内容が多岐にわたるため、一般的に数週間から数か月の期間がかかります。
PoCとの違い
フィジビリティスタディと混同されやすい調査にPoC(Proof of Concept)があります。
PoCとは、新しいプロジェクトが実現可能かどうかを検証するための取り組みです。例えば、プロトタイプを用意して、顧客や市場の反応を確認する方法が該当します。
対して、フィジビリティスタディはプロジェクトを本格的に始める前段階で行う調査のことです。つまり、2つの大きな違いはプロジェクトの開始前にするか、後にするかです。
フィジビリティスタディの4つの要素

フィジビリティスタディでは、次の4つの要素に対して実現可能性を評価します。
技術面:技術を保有しているか
プロジェクトの実行には、新たな技術が必要になることも珍しくありません。そのため、技術力はプロジェクト成功を左右する重要な要素の一つです。そこで、自社の技術力や従業員のスキルを踏まえ、主に以下のような点を調査します。
- 自社の技術で製品やサービスを開発・生産できるか
- 生産に必要な設備や生産能力を保有しているか
- 持続的に生産できるか
- 必要な技術を持つ人材を確保できるか
これらの調査を基に、必要な技術力を保有しているかを評価します。
財務面:資金や利益を確保できるか
プロジェクトを実行する上で、利益を確保できるかは重要なポイントです。財務面の要素では、事業化に必要な資金や投資に対するリターンを評価します。主な調査項目は以下のとおりです。
- 事業化までに必要な費用はどのくらいか
- どの程度の収益が見込めるか
- 資金調達は可能か
これらの調査により、財務的に問題がないかを確認します。
運用面:スムーズに運営できる体制か
運用面は、事業を運営するために必要な体制が整っているかを判断します。主な調査項目は以下のとおりです。
- 必要な人材やノウハウを確保しているか
- 社内体制や業務フローが整っているか
- 関連する法規制を満たしているか
これらの運用に必要な体制が整っているかどうかが、事業の安定性を左右します。
市場:市場で受け入れられるか
プロジェクトの成果物が市場で受け入れられるか、競合他社との競争が激しくないかなどを調査します。
主な調査項目は以下のとおりです。
- 需要はあるのか
- 競合の存在と競争が激しくないか
- 予想される売上規模はどのくらいか
また、海外に進出する場合は、「現地の宗教観」や「生活文化」などを調査対象にすることもあります。
フィジビリティスタディの進め方
フィジビリティスタディでプロジェクトを多角的に評価し、精度の高い判断を行うためには進め方が重要です。
ここでは、一般的な手順をわかりやすく解説します。
ステップ① 事前リサーチ
まずは、プロジェクトにかかわる基本的な情報収集です。「技術面」「財務面」「運用面」「市場」の4つの要素の観点から、現在抱えている課題、予測されるリスクを洗い出します。
ステップ② 要求事項のリスト化
リサーチ結果を基に、洗い出された課題を解決するために必要な条件や、達成すべき条件をリスト化します。
例えば、以下のような要求事項が考えられるでしょう。
- 特定の技術を獲得する
- 初期投資費用として100万円を確保する
- エンジニア3名を確保する
- 新たなシステムを導入する
これらの要求事項に加えて、課題解決にかかる期間や費用をあらかじめ算出しておくと、判断の精度がさらに向上します。プロジェクトの実現可能性をより具体的に把握できるため、次のステップへの移行もスムーズになります。
ステップ③ 複数の解決策を検討
要求事項をリスト化した次は、それらを満たすための複数の解決策を検討します。代替案を準備しておくことで、リスクの回避や成功率の向上につながるためです。例えば、以下のような代替案が考えられます。
- 必要な技術の獲得が難しい場合は、外部に委託する
- エンジニアが不足している場合は、採用活動の強化に加えて、研修による育成を検討する
このように代替案を並行して比較・検討することで、実現可能性やコスト面などを総合的に判断し、最適な解決策の選択につながります。
ステップ④ 結果の評価
最後に、収集した情報と要求事項、解決策からプロジェクトの実現可能性を総合的に判断します。
フィジビリティスタディのメリット

フィジビリティスタディを実施することで、以下の3つのメリットが期待できます。
・プロジェクトの実現可能性が明確になる
フィジビリティスタディでは、4つの要素からプロジェクトを多角的に検討します。これにより、プロジェクトの実現可能性を客観的に把握できるのが大きなメリットです。加えて、要求事項や解決策が明確になることで、「いつ・何をすべきか」を把握できるため、業務全体の効率化にもつながります。
・リスクの予測と回避がしやすくなる
多角的な要素からリスクを回避できるのも、フィジビリティスタディの大きなメリットです。事前に潜在的なリスクを把握しておくことで、適切な対策を講じやすくなり、プロジェクトの失敗の可能性を減らせるからです。
・ステークホルダーへの説明がスムーズになる
フィジビリティスタディでは、収集したデータや分析結果に基づいて判断を行います。これらの情報を整理することで、プロジェクトの進行状況や課題、展望などをわかりやすくまとめた説明資料の作成が可能です。ステークホルダーに対して説得力のあるプレゼンテーションができるようになり、信頼関係の構築や支援の獲得にもつながります。
フィジビリティスタディで確度を高めよう
新規事業や商品開発など、プロジェクトを成功に導くには、フィジビリティスタディを活用して計画段階で実現可能性を見極めることが大切です。見極めのタイミングが遅くなるほどに、費やすリソースが増えるためです。ただし、調査項目は多岐にわたるため、十分な時間や人員が確保できない場合もあるでしょう。そのような時は、ぜひセルウェルにご相談ください。