
企業の収益性を高めるには、業務の効率化や生産性向上、コスト削減といった業務改善が重要です。しかし、「どのような業務から見直せばいいのか?」と悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。そこで、紹介したいのは業務改善のフレームワーク「ECRSの原則」です。今回はECRSの原則の意味やメリット・デメリット、事例をわかりやすく解説します。
Contents
ECRS(イクルス)の原則とは?

ECRSの原則とは、「Eliminate(除外)」「Combine(結合)」「Rearrange(交換)」「Simplify(簡素化)」の頭文字をとった業務改善のフレームワークです。読み方は「イクルス」で、もともとは製造業の業務効率化を目的に開発されました。しかし、その汎用性の高さから、現在では様々な業界で幅広く活用されています。
ECRSの特長は、業務を見直す内容に加えて、順番も明確に示している点です。具体的には名前のとおり、E(排除)・C(結合)・R(交換)・S(簡素化)の順に、業務を見直すことで効率的に改善できます。ここではさらに、各要素と活用方法について解説します。
Eliminate(除外):無駄はないか?
初めに見直す要素は「Eliminate」です。Eliminateは、日本語で「取り除く」や「排除する」を意味します。そのため、無駄を業務を取り除くことを指します。例えば、以下のように無駄を省くことで業務を改善できるでしょう。
- 無駄な会議の廃止
- 無駄な報告書を廃止
- 不採算事業の撤退
Eliminateにおける業務の見直しの特長は、実行にコストや手間がかからず、反対意見が少ないことです。このことから、スムーズに業務を改善しやすく、効果が大きいことからECRSの原則では初めに着手すべき要素となっています。
Combine(結合):一緒にできないか?
2番目に実施する要素は「Combine」です。Combineは、日本語で「結合する」や「統合する」を意味します。この要素では、2つ以上の業務を一緒にすることで改善できないか、あるいは一つの業務を複数に分解して最適化できないかを検討します。例えば、以下のように結合することで改善が期待できるでしょう。
- 類似の仕事内容を一つに統合
- 部署ごとに異なる様式の書類を統一
- 複数台の設備で対応していたのを1台に変更
- 複数のシステムを一つのプラットフォームに結合
このような取り組みをすることで、必要なリソースを削減できるため、人件費や設備費の節約につながります。浮いたリソースをより重要な業務に再配分することで、企業全体の効率性や収益性をさらに高めることもできます。
Rearrange(交換):並べ替えができないか?
3番目に実施する要素は「Rearrange」です。Rearrangeは、日本語で「並べ替える」や「再配置する」を意味します。この要素では、業務の順番や配置を入れ替えることで改善できないかを検討します。例えば、以下のように交換することで改善が期待できるでしょう。
- 作業工程の順番の並べ替え
- 頻繁に取り出す工具や資材の置く場所を近くに変更
- 担当者を入れ替え
- 配送ルートの順番を変更
- 旧システムから新システムへの交換
これらの変更によって、作業時間の短縮や業務効率化を実現できます。ただし、業務内容に変更を伴う場合は、作業員への影響を考慮する必要があります。
Simplify(簡素化):簡単にできないか?
最後に実施する要素は「Simplify」です。Simplifyは、日本語で「簡素化する」や「単純化する」を意味します。この要素では、自動化やパターン化などによって、業務の簡素化を検討します。例えば、以下のように簡素化することで改善が期待できるでしょう。
- AIやIoTを活用した自動化
- 報告書のテンプレート化
- マニュアルの作成
これらの取り組みは業務効率が向上するだけではなく、従業員の負担軽減も期待できます。また、複雑な業務をシンプルにすることで、多くの従業員が対応可能となり、業務の属人化を防ぐ効果もあります。
ECRSを活用するメリット・デメリット

ECRSの原則は多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。業務改善のフレームワークとして有効活用するために、メリットとデメリットを押さえておきましょう。
メリット① 効率的に生産性を向上できる
ECRSの原則のメリットは、効率的に生産性を向上できる点です。なぜなら、業務の無駄を排除したり、作業工程を最適化したりすることで必要な作業だけが残るためです。浮いたリソースを主要事業に投入することで、さらに生産性を高めることができます。
メリット② コスト削減につながる
ECRSの原則を実践するメリットは、それまでに費やしていた人的リソースや物的リソースを整理できるため、コスト削減やリソースの再配分を実現できることです。これらは、企業の安定した運営や拡大、収益の向上に役立ちます。
メリット③ 属人化を防止できる
ECRSの原則で、必要な作業だけが残り、その上さらに簡素化することで誰でも対応できるようになるでしょう。このようにして属人化を防ぐことで、特定の人材が欠けたときに作業が滞るリスクを軽減できます。
メリット④ 従業員の満足度向上につながる
ECRSの原則を活用した業務改善は、従業員の満足度向上にも大きく貢献します。非効率な業務が見直されることで作業がスムーズになり、従業員のストレスが緩和されるためです。他にも残業時間を削減することで、ワークライフバランスが向上します。すると、従業員は充実した生活を送れるようになるでしょう。このようにして従業員の満足度が向上すると、離職を防ぐ効果も期待できます。
デメリット① 作業の洗い出しに時間がかかる
ECRSの原則を実践するには、作業の洗い出しが不可欠です。そのうえで、「無駄がないか?」「一緒にできないか?」などと見直す必要があるため、作業の洗い出しには時間がかかりがちです。長期間、改善のための業務にリソースを投入することが、困難な場合もあるでしょう。このような事態を防ぐには、日々の業務フローに負担にならないように取り入れる工夫が大切です。
デメリット② 従業員への周知と理解が必要となる
業務改善をスムーズに実施するには、従業員への周知と理解が必要です。ECRSの原則を実施する際も例外ではありません。そして、従業員に意義や目的などを理解してもらうには時間や労力がかかります。これを嫌い、周知活動をせずに実施しようとすると、従業員との関係が悪化する可能性もあるので注意が必要です。
ECRSの活用事例:トヨタ自動車株式会社
多くの企業はECRSの原則を活用して業務改善に取り組んでいます。その中でも有名なのは、トヨタ自動車株式会社の「7つのムダ」です。7つのムダはECRSの原則で最も効果的とされる「Eliminate」に特化した改善方法で、具体的に以下の無駄を取り除くことを指します。
- 加工のムダ:過剰な加工や無駄な加工時間
- 在庫のムダ:不要な在庫や備品
- 造りすぎのムダ:必要以上の生産
- 手持ちのムダ:やることがない状態
- 動作のムダ:不必要な動作
- 運搬のムダ:付加価値を生み出さないモノや情報の流れ
- 不良、手直しのムダ:不良品や手直しが必要な作業
トヨタグループでは、「7つのムダ」の頭文字から「か・ざ・つ・て・と・う・ふ(飾って豆腐)」と覚える方もいるそうです。
業務改善にフレームワークを活用しよう
ECRSの原則は、業務改善を効率的に進めるのに役立つフレームワークです。各要素に沿って業務を見直すことで、生産性向上やコスト削減、従業員の負担軽減につながります。企業の持続的な成長のために、業務改善にECRSの考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。