
従来の経営戦略では、マーケティング・営業・カスタマーサポートなどの各部門が、それぞれの目標に向かって個別に活動するのが一般的でした。しかし、このような分業体制では、顧客体験が分断されたり、部門間の連携が不十分になったりするという課題がありました。
こうした問題を解決する新たなアプローチとして、近年注目されているのが「RevOps(レベニューオペレーション)」です。本記事ではビジネスパーソンに向けて、RevOpsの定義や注目される背景、導入によるメリット・デメリット、成功事例を紹介します。
RevOps(レベニューオペレーション)とは何?
RevOpsとは、マーケティング・営業・カスタマーサポートなどの部門の連携を強化し、収益の最大化を目指す経営戦略です。「Revenue Operations」の略語で、日本語での読み方は「レブオプス」または「レベニューオペレーション」です。
この考え方はアメリカで生まれ、近年日本でも注目が高まっています。特に、川上エリカ氏の著書「レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識」の影響が大きいです。同書はAmazonの売れ筋ランキングで1位を獲得するなど、多くのビジネスパーソンに支持されています。
RevOpsが注目される背景

RevOpsが注目される背景は、ビジネス環境の変化により、従来の戦略に弊害が出てきているためです。具体的には、「顧客体験の分断」「デジタル技術の発展」「サイロ化の限界」が挙げられます。これらの背景について解説します。
顧客体験の分断
従来の経営戦略では、複数の部門がそれぞれに顧客と接点があります。しかし、部門ごとに目標や評価基準が異なるため、顧客対応に一貫性がなく、顧客体験が分断されやすいのが課題でした。実際、以下のような部門間の連携ミスが発生すると、顧客は統一された対応を受けられず、満足度の低下を招いてしまいます。
- マーケティング部門が獲得したリード情報を、営業部門にうまく引き継げない
- カスタマーサポート部門が、営業部門と顧客のやり取りを把握していない
このようなミスを解消するには、部門間のデータや業務プロセスを統合し、顧客視点で一貫性のある体験を提供することが重要です。RevOpsはこうした顧客体験の分断を防ぎ、組織全体を最適化できるとして注目されています。
デジタル技術の発展
デジタル技術の発展により、ビジネスのデジタル化が進んでいます。例えば、企業はCRM(顧客管理システム)、MA(マーケティングオートメーション)、SFA(営業支援ツール)などを活用して業務を効率化するのが一般的になりました。そして、これらのツールにより蓄積したデータを活用することで、企業の競争力を強化することが可能です。しかし、現実には次のような課題を抱える企業が多くあります。
- 部門ごとに異なるツールを利用しており、データを統合できない
- データのフォーマットが異なるため、別の部門のデータを活用できない
RevOpsはこのようなデータやシステムを統合し、企業全体で活用できるデジタル基盤を整備する手法としても注目されています。
サイロ化の限界
サイロ化とは、部門ごとにデータやシステムが孤立し、連携できない状態を指します。従来の経営戦略では、各部門が独自の目標やシステムを持つことが多く、サイロ化が自然に発生しやすい構造になっていました。そして、サイロ化が発生すると、企業には以下のようなリスクが生じます。
- 部門間の対立
- 情報の断絶による業務効率の低下
- 顧客体験の質の低下
こうした問題が起こる根本的な原因は、部門ごとに目標設定や評価制度、業務プロセスが存在していることにあります。この問題を解決する手段として、RevOpsが注目されているのです。
RevOpsを導入するメリット・デメリット

この章では、企業がRevOpsを導入することで得られるメリットと、事前に押さえておきたいデメリットをわかりやすく解説します。
メリット① 顧客体験が向上する
RevOpsのメリットの一つは、部門間の連携強化により顧客体験が向上することです。データやシステムを統合することで、顧客は一貫性のある対応を受けられるためです。これにより、顧客満足度や顧客ロイヤリティの向上が期待できます。
メリット② データに基づく意思決定を促進する
従来の経営戦略では様々なツールが利用されており、膨大なデータが部門ごとに管理されていました。RevOpsを導入することで、これらのデータを統合・分析できるようになります。すると、データに基づいた意思決定ができるようになり、事業戦略の精度とスピードの向上が期待できます。
メリット③ 収益の最大化が期待できる
RevOpsの導入は、プロセスの無駄の削減や生産性の向上に役立ちます。複数の部門の連携を強化することで、一貫した対応が可能になるためです。その結果、組織全体の最適化が進み、最終的には収益の最大化が期待できます。
デメリット① 導入のハードルが高い
RevOpsの導入には、システムの統合や部門間の調整、データ基盤の整備など、多くのステップが必要です。また、既存の部門構造や業務プロセスを根本的に見直す必要があるため、社内で混乱が生じたり、関係者から抵抗を受けたりする可能性もあります。さらに、ツールの導入にかかる初期コストも軽視できません。このように、RevOpsの導入は組織全体に大きな影響を及ぼすため、ハードルが高いと言わざるを得ません。
デメリット② 専門人材の確保が難しい
RevOpsの導入には、データの活用、業務設計、ITツールの理解、そして各部門の業務知識など、幅広いスキルと高度な専門性が求められます。しかし、これらの知見をバランスよく備えた専門人材は希少で、確保が困難です。そのため、自社内での人材育成や外部のコンサルタントへの依頼といった方法も検討する必要があります。
RevOpsの成功事例:Okta
ここではRevOpsの成功事例として、Oktaの取り組みを紹介します。
Oktaはアメリカのサンフランシスコに本社を置く企業です。IDやパスワードの管理、認証を行うクラウドサービスを展開しています。2009年に創業し、RevOpsを早期に導入しました。
同社の特徴的な取り組みは、マーケティング・営業・カスタマーサポートの各部門のリーダーを一人に一元化したことです。これによりサイロ化を解消し、市場開拓における戦略の立案や実行、効果測定を統合しました。その結果、Oktaは創業から11年で5億ドル以上の上場企業へと成長を遂げました。
参考:Demand Gen Report「Okta Achieves 50%+ YoY Revenue Growth Through Operational Alignment」
RevOpsの導入を検討しよう
RevOpsは、マーケティング・営業・カスタマーサポートなどの各部門の連携を強化し、顧客体験の向上と収益の最大化を図る経営戦略です。組織全体のデータを統合し、一貫した顧客対応を実現することで、変化の激しい市場環境にも柔軟に対応できるようになります。組織や企業の競争力を高める上で、注目すべき考え方と言えるでしょう。