医療ツーリズムとは!意味や問題点、事例をわかりやすく解説

2024年の1月から3月にかけての訪日外国人による消費額は、年間換算で約7.2兆円に達しました。これは日本の住宅リフォーム市場や自動車輸出額に匹敵する規模で、過去10年間で5倍に増加しています。

この訪日客の増加によるインバウンド需要の拡大は、様々な業界に新たなビジネスチャンスを生んでいます。その一例が、観光と医療を組み合わせた「医療ツーリズム」です。医療ツーリズムは新型コロナウイルス流行以前にも注目されていましたが、現在、インバウンド需要の再拡大とともに再び注目を集めています。

この記事では、新規事業のアイデアを探しているビジネスパーソンに向けて、医療ツーリズムの意味や注目される背景、事例をわかりやすく解説します。

参考:日本経済新聞「訪日客消費、年7兆円に拡大 自動車に次ぐ「輸出産業」に

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医療ツーリズムとは

医療ツーリズムとは、健康診断や治療など、医療サービスを受ける目的で外国に行くことです。

なぜ、わざわざ外国に行って治療を受けるのかと思うかもしれません。それは国ごとに医療制度や技術、設備に差があり、自国で医療を受けるよりも外国で医療を受けたほうがメリットの多い場合があるためです。例えば、医療体制が整っていない発展途上国に住んでいると仮定するとイメージしやすいでしょう。多くの人は、高品質の医療を受けるために医療体制が整った先進国で治療したいと感じるはずです。

ただし、医療ツーリズムは発展途上国の人々が先進国の高度な医療を求めるケースだけではありません。医療費の安い国や自国では提供されていない特定の治療、治療までの期間の短縮などを理由に外国で医療を受けることを希望する人もいます。

医療ツーリズムを利用する人々の目的をまとめると、以下のとおりです。

  • 高度な医療を受けるため
  • 医療費を抑えるため
  • 自国にはない治療を受けるため
  • 治療までの待ち時間を短縮するため

医療ツーリズムが注目される背景

医療ツーリズムは患者だけではなく、ビジネスとして企業からも注目されています。この章では、企業から医療ツーリズムが注目される背景を解説します。

インバウンド需要の拡大

医療ツーリズムが注目される背景の1つは、インバウンド需要を拡大できることです。日本の高品質な医療を観光資源とすることで、さらなる訪日外国人観光客の増加が見込まれるためです。また、日本政府は2030年の訪日客消費15兆円を目標に掲げています。2024年時点で7兆円規模であることから、目標の達成のためには新たなニーズに訴求できる医療ツーリズムの推進が必要と言えます。

医療業界の活性化

医療ツーリズムが注目される背景は、医療業界の活性化につながることです。日本は少子高齢化・人口減少の影響により、このままの状態だと医療需要が減少すると考えられています。すると、高品質な医療体制を維持できなくなったり、空床が増えることで医療機関の経営を圧迫したりするでしょう。医療ツーリズムを受け入れることで、医療機関が利益を得ると同時に、持続的な医療の確保にもつながると期待されています。

経済成長の促進

医療ツーリズムの拡大は医療機関だけではなく、多くの産業にも良い影響を与えます。なぜなら、医療ツーリズムで訪日する外国人は、患者の家族も同行するケースが多く、加えて長期間滞在する可能性が高いためです。すると、その地域は宿泊費用や飲食費用などにより経済が活性化され、ひいては日本の経済成長につながるでしょう。

医療ツーリズムの市場規模

株式会社グローバルインフォメーションの「医療ツーリズム市場レポート」によると、2023年の医療ツーリズムの世界市場規模は1,197億ドル(17兆9,550億円)でした。同レポートでは、2024年から2032年まで年平均成長率20.1%を予想しており、2032年には6,508億ドル(97兆6,200億円)で2023年の5.4倍に拡大する見込みです。※1ドル=150円換算

このように世界の市場規模が急拡大することも、医療ツーリズムが注目される背景の1つと言えるでしょう。

日本の現状

日本政策投資銀行が2010年に発表した予測では、日本の医療ツーリズムは2020年時点で年間43万人程度の潜在需要があると試算されていました。また、その際の市場規模は約5,500億円、経済波及効果は約2,800億円に達する見込みでした。

しかし、2023年の医療滞在ビザの発給件数は2,295件で、2010年の日本政策投資銀行の予想には達していないのが現状です。※医療滞在ビザとは、日本で治療を受けることを目的に訪日する外国人患者及び同伴者に対して発給されるビザのことです。医療ツーリズムの推進を目的に2011年に創設されました。

出典:日本政策投資銀行「進む医療の国際化~医療ツーリズムの動向~

出典:e-Stat「ビザ(査証)発給統計

医療ツーリズムの問題点

日本の医療ツーリズムは、訪日外国人患者が想定されたように増えていません。その要因として、2つの問題点が考えられます。この章では、日本の医療ツーリズムの推進における問題点を詳しく解説します。

医療現場の外国語対応

医療機関が医療ツーリズムに対応するには、医療現場において外国語対応が不可欠です。しかし、医療従事者が英語などの外国語に堪能でないことも多く、外国人患者とどのようにしてコミュニケーションを図るかが問題となります。外国語対応が不十分だと、患者は自分の健康状態を正確に把握できないため、日本の医療機関で受診や治療するのをためらう原因となります。

情報提供の不足

医療ツーリズムのもう1つの問題点は、外国人向けの情報提供が不足している点です。日本の医療施設が提供している医療サービスの情報は、多くの場合で国内向けに発信されており、海外の患者向けに発信されていないためです。例えば、日本の多くの医療機関では、多言語に対応したウェブサイトやパンフレットを用意していません。そのため、外国人患者にとっては、費用や治療内容、受け入れ体制といった事前に確認したい情報を得ることが難しくなっています。

医療ツーリズムの事例:あいち医療ツーリズム推進協議会

出典:愛知の医療ツーリズムナビ

医療ツーリズムの事例として、愛知県の「あいち医療ツーリズム推進協議会」の取り組みを紹介します。あいち医療ツーリズム推進協議会は、外国人患者に対して先進的な医療や最先端医療機器による検診の実施を目的として、2017年に創設された愛知県の委員会です。

直近の取り組みは、2024年2月からWebサイトの「愛知の医療ツーリズムナビ」の運用を開始したことです。同サイトは日本語・中国語・英語に対応し、外国人患者に向けて、愛知県の観光エリアや医療ツーリズムの流れを紹介しています。さらに、最も患者数の多い中国の50媒体でニュースリリースを配信し、広報活動にも取り組んでいます。

このような様々な取り組みの結果、2023年度に愛知県に医療ツーリズムで訪れた外国人患者数は、検診が103人、治療が305人でした。2022年度と比較すると3倍以上に増加しています。また、新型コロナウイルスが流行する前の2019年度より増えつつあるとのことです。

医療ツーリズムへの参入を検討しよう

日本の医療ツーリズムは、高品質の医療があるにもかかわらず、外国語対応や情報提供の不足が課題です。しかし、訪日外国人の増加や医療ツーリズム市場の拡大が進む中、この分野には多くのビジネスチャンスがあります。新規事業のアイデアを探している経営者様は、この成長分野への参入を検討してみてはいかがでしょうか。