ビジョンドリブンとは?意味や重要性、実践する際のコツを紹介

変化の激しい現代において、事業を拡大するには組織全体のパフォーマンスを最大化することが重要です。そこで、注目されている考え方の一つがビジョンドリブンです。本記事では、ビジョンドリブンの意味やイシュードリブンとの違い、メリット、実践する際のコツをわかりやすく解説します。

ビジョンドリブンとは

ビジョンドリブンとは、企業や組織の理想像(ビジョン)の実現を最優先に意思決定や行動をする考え方です。ドリブンには、「~に駆り立てられる」という意味があり、ビジョンドリブンな組織とは、ビジョンに駆り立てられて行動する組織と言えます。

例えば、日本航空株式会社(JAL)が掲げるビジョンは次の2つです。

・安全・安心な社会を創る

・サステナブルな未来を創る

これらのビジョンを実現することで、同社はパーパス(存在意義)の実現を目指しています。

出典:日本航空株式会社「理念・ビジョン

同社の特徴は、ビジョンを実現するために経営戦略や各種基盤、フィロソフィ(理念)などが体系的に連なっている点です。つまり、同社の経営戦略や取り組みは、ビジョンを実現し、パーパスを達成するためにあるのです。まさに、ビジョンドリブンを実践している企業事例と言えます。

イシュードリブンとの違い

ビジョンドリブンとよく比較される概念に、イシュードリブンがあります。イシュードリブンとは、課題(イシュー)を起点に解決策を検討する考え方です。

例えば、「クレームが多い」という課題を発見した場合、カスタマーサポートの強化や製品の品質改善といった対応策を考えるのがイシュードリブンのアプローチです。一方、ビジョンドリブンは、将来どのような社会や組織を実現したいのかという理想像から逆算して行動を設計します。

両者の違いをまとめると、次の表のとおりです。

 ビジョンドリブンイシュードリブン
考え方理想像の実現を最優先に意思決定・行動をする現状の課題に対して解決策を検討する
起点理想像・長期的な目標直面している課題・問題点
目的組織を望ましい方向に導く現状の問題を解決し、業務の生産性を向上する
主なメリット組織の一体感や社員のエンゲージメントが高まる課題の早期発見で迅速に対応できる
主なデメリット理想と現実とのギャップが生じやすい問題解決が成長につながるとは限らない

イシュードリブンの詳細については、「イシュードリブンとは?」の記事をご参照ください。

ビジョンドリブンが注目される背景

企業経営や組織運営において、ビジョンドリブンの考え方は注目を集めています。ここではその背景について解説します。

市場の激しい変化

現代の市場はテクノロジーの進化、製品やサービスのライフサイクルの短縮化、地政学リスクの高まりなどにより、変化のスピードが極めて速くなっています。このような予測が難しい環境では、従来のビジネスモデルや短期的な戦略だけでは、適切な対応が難しい場合があります。こうした状況で有効なのは、ビジョンドリブンです。ビジョンを軸に意思決定を行うことで、外部環境の変化に柔軟に対応しつつ、組織全体の方向性を見失わずに済むためです。

組織の多様化

近年のビジネス環境は価値観やライフスタイル、人材構成、働き方などにおいて多様化が進んでいます。多様化は新しい発想やイノベーションを生み出す力となりますが、メンバーがばらばらに行動すると、組織のまとまりが失われるという課題もあります。そこで注目されているのがビジョンドリブンです。ビジョンを共通の目標として示すことで、組織全体の一体感やモチベーションが高まり、事業推進力が向上するためです。

ビジョンドリブンを推進するメリット

ビジョンドリブンは、変化の激しい時代を乗り越えるために有効な考え方であると同時に、組織の成長を後押しするメリットもあります。ここでは、その中でも特に重要な3つのメリットを紹介します。

メリット① 社員のエンゲージメントが高まる

社員が共感できるビジョンを掲げることで、組織へのエンゲージメントを高められるのがメリットです。例えば、社会貢献や環境保護など、社会的意義を感じられるビジョンは、社員に「この会社で働いていることが誇らしい」という気持ちを芽生えさせます。その結果、仕事への意欲が高まり、離職率の低下やモチベーションの向上といった効果が期待できます。

メリット② 意思決定のスピードが上がる

ビジョンを組織全体で共有することで、日々の意思決定を迅速に行えます。「この選択はビジョンの実現につながるか」という明確な基準を持つことで、迷いや不要な議論が減るためです。その結果、意思決定のスピードが上がり、市場の変化にも素早く対応できます。

メリット③ 自律的な行動を促進できる

ビジョンが浸透した組織では、社員が上司の指示を待つのではなく、自ら考えて行動できる状態が生まれます。ビジョンをもとに自分で判断できるためです。このような自律的な行動が増えると、上司も自分の業務に充てられる時間が増えることから、チーム全体の生産性が向上します。

ビジョンドリブンを推進する際のコツ

ビジョンドリブンではどのようなビジョンを掲げるのか、どのようにして社員に浸透するのかが重要なポイントです。ここでは推進する際の4つのコツを紹介します。

コツ① 様々な手法を使い社員の認知度を高める

どれほど優れたビジョンを掲げていても、社員に浸透していなければその効果は発揮されません。社員が日常の業務の中でビジョンを意識できるよう、様々な手法を組み合わせて認知度を高めることが重要です。

・社内報の活用:ビジョンに込めた経営陣の思いや背景を伝える

・表彰制度の導入:ビジョンに沿った行動を取った社員を評価・表彰する

・研修の実施:新入社員研修やマネジメント研修でビジョンの意義を解説する

このように、複数のアプローチを継続的に行うことが大切です。

コツ② 実現性があり、共感できるビジョンを設定する

ビジョンを設定する際は、実現可能な内容にすることが重要です。あまりに理想が高すぎると、社員が「自分たちには達成できない」と感じ、かえってモチベーションを下げてしまう恐れがあります。さらに、社員一人ひとりが共感できるストーリーや価値観を盛り込むことで、エンゲージメントの向上にもつながります。

コツ③ 経営方針や戦略と結びつける

ビジョンは、経営方針や戦略と結びついてこそ力を発揮します。例えば、中期経営計画や人材育成方針、評価制度などとビジョンを連動させることで、組織全体が一貫した方向で動けます。

コツ④ 時間をかけて取り組む

ビジョンを組織全体に浸透させるには、時間をかけて取り組むことが大切です。また、社員一人ひとりの理解や行動の変化には個人差があり、すぐに効果が現れるとは限りません。粘り強く発信を続けることで、次第に企業文化として根づき、日常的な意思決定や行動に反映されます。

ビジョンドリブンで事業推進力を高めよう

ビジョンドリブンは、組織の方向性を明確にし、社員のエンゲージメントの向上や意思決定の迅速化に役立ちます。明確なビジョンを基準に意思決定することで、業務効率や生産性の向上にもつながります。組織の事業推進力を高めたい経営者様は、この機会にビジョンドリブンの推進を検討してみてはいかがでしょうか。