マイナス金利解除でどうなる?解除した背景や個人・企業への影響を解説  

2024年3月19日、日本銀行は8年間続けていた「マイナス金利政策」を解除しました。

どのような影響が出るのか不安に感じている方も多いでしょう。

そこで本記事では、マイナス金利解除の背景や考えられる個人・企業への影響についてわかりやすく解説します。

Contents

マイナス金利政策とは

「そもそもマイナス金利政策って何?」という方に向けて、まずは簡単にマイナス金利政策について解説します。

マイナス金利政策とは、日本銀行が民間の金融機関の当座預金に対して金利をマイナスにする政策です。簡単にいえば、民間の金融機関が日本銀行にお金を預けると金利の支払いが必要になることです。

デフレ脱却や経済の活性化などを目的に、日本では2016年1月に金融緩和政策として初めて導入されました。民間の金融機関が日本銀行への金利の支払いを避けるために、投資や融資などで市場に資金が流出すると考えられたためです。

マイナス金利解除の背景

2016年から8年続いたマイナス金利政策ですが、日本銀行は2024年3月19日に解除しました。解除に至った主な背景は以下の3つです。

  • 賃金の上昇
  • 物価の上昇
  • 円安の加速

賃金の上昇

マイナス金利政策を解除した背景は、賃金上昇の実現により経済の好循環が期待できることです。実際に2024年の春闘における賃上げ率は5.28%で、33年ぶりに5%を超えました。つまり、マイナス金利政策の目的の1つである経済活性化を達成できたといえます。

参考:NHK「春闘での賃上げ率 33年ぶり5%超 “よい傾向” 日商 小林会頭

物価の上昇

近年、物価が2%を超える水準で上昇しているのもマイナス金利政策を解除した背景です。

なぜならマイナス金利政策は、デフレ脱却を目的に実施されたためです。具体的に日本銀行ではデフレ脱却を示す指標として、消費者物価の前年比上昇率が2%と定めていました。

消費者物価指数の推移は以下のとおりです。

出典:総務省統計局「消費者物価指数(全国4月)

このように直近では、物価指数が2%を超える状態が続いています。

円安の加速

円安が加速したこともマイナス金利政策を解除した背景と考えられています。なぜなら、日本のマイナス金利政策と利上げを繰り返すアメリカの金利政策の違いにより、日米金利差が大きく拡大したためです。

日米金利差が大きく拡大すると、低金利の通貨が売られ、高金利の通貨が買われるようになります。つまり円が売られ、ドルが買われたことで、円安が加速しました。

円安の加速は物価の高騰につながり、消費者の負担になっています。このことから、日米金利差を縮小するために、マイナス金利政策が解除されたのです。

マイナス金利解除による影響

多くの方がマイナス金利解除で気になるのは、個人や企業にどのような影響が出るのかでしょう。そこで、ここでは個人・企業の双方で考えられる良い影響・悪影響について紹介します。

個人への影響

マイナス金利解除による個人への影響は以下のとおりです。

良い影響・預金や国債の金利が増える
・生命保険料が安くなる
悪影響・住宅ローンの金利が高くなる

良い影響① 預金や国債の金利が増える

個人への良い影響は、銀行への預金や国債の金利が増えることです。例えば、株式会社三菱UFJ銀行は円普通預金金利を2024年3月21日に、0.001%から20倍の0.02%に改定しました。これまでよりも多くの利子を得られるため、金融機関にお金を預けている方にとってはメリットといえます。

参考:株式会社三菱UFJ銀行「円普通預金金利および円定期預金金利の改定について

良い影響② 生命保険料が安くなる

マイナス金利解除の影響として、生命保険料が安くなることです。

生命保険会社では保険料の一部を株式や債券などで運用しており、運用の成果により保険料が増減します。その運用により利益が増えると保険料が下がり、反対に損失が出ると保険料が上がる仕組みになっています。

そして、金利が上昇すると運用で利益を上げやすくなるため、保険料が安くなるのです。反対に金利が低いと運用で利益を上げにくいため、保険料が高くなる傾向にあります。

悪影響① 住宅ローンの金利が高くなる

住宅ローンは借入金額が大きいため、金利が高まると支払いが増えて生活に大きな影響を及ぼします。

住宅ローンの種類は金利が一定の固定金利型住宅ローンと、金利が変動する変動金利型住宅ローンの2つです。

マイナス金利解除を受けて、すでに固定金利型住宅ローンの金利は上昇しています。そのため、これから固定金利型住宅ローンを利用して住宅を購入する場合は、以前よりも高い金利を支払う必要があります。※すでに固定金利型住宅ローンを契約している方は影響ありません。

変動金利型住宅ローンの金利については、「短期プライムレート」と呼ばれる金融機関が企業向けに貸し出す際の金利を参考に決定します。マイナス金利を解除したからといって、すぐに上昇するわけではありません。しかし、金融機関によっては金利を引き上げる可能性があります。

企業への影響

マイナス金利解除による企業への影響は以下のとおりです。

良い影響・円安の流れを止める可能性がある
悪影響・不動産業界の不振につながる
・金利上昇で利益が圧迫される
・倒産が増える恐れがある

良い影響① 円安の流れを止める可能性がある

マイナス金利解除は日米金利差を縮小し、円安の流れを止める可能性があります。企業にとって急激な円安は、海外からの仕入れのコスト増につながるため、大きなリスクです。企業にとって、円安の流れを止められることは良い影響といえるでしょう。

ただし、実際はマイナス金利解除後に一層円安の流れが加速しています。

長期的には円安傾向を止める可能性があるものの、現時点では日米金利差が大きすぎるために、成果が出ていない状態です。そのため、今後はさらなる日米金利差の縮小に向けて、追加利上げをするのかに注目が集まっています。

悪影響① 不動産業界の不振につながる

企業にとってマイナス金利解除の悪影響は、不動産業界の不振につながることです。なぜなら、住宅ローンの金利が高くなることで、不動産の販売数が減少するためです。他にもリフォームや増築などの需要も減少する可能性があります。

悪影響② 金利上昇で利益が圧迫される

マイナス金利解除後、企業の借入金の金利も高くなる可能性があります。

株式会社帝国データバンクの試算によると、借入金の金利が0.5%上昇した場合、1社あたり年間平均で136万円の支出が増えるそうです。これは経常利益を平均で4.6%下げることに相当し、3.8%の企業が赤字に転落するとのことです。

このように金利が上昇することで、経営が圧迫されるかもしれません。

参考:株式会社帝国データバンク「借入金利「1%上昇」で企業の 7%が「赤字」に

悪影響③ 倒産が増える恐れがある

人件費や物価の高騰に加えて、金利が上昇することで、経営に行き詰まり倒産が増える可能性が指摘されています。

経営の見直しにより利上げに備えよう

2024年3月19日にマイナス金利政策を解除したことで、日本銀行は長らく続けていた金融緩和政策から転換を目指していることが伺えます。日米金利差も依然として大きいため、今後は追加利上げにも注意しなければなりません。

賃金や物価の高騰に加えて、金利の上昇は企業にとって大きな負担となるでしょう。この機会に経営を見直し、さらなる利上げに備えましょう。