インフラ老朽化問題とは?日本の現状とビジネスの新たな可能性

日本国内の近い将来の課題に、インフラ老朽化問題があります。現在の日本のインフラの多くは建設してから数十年が経過しており、今後20年間で製造してから50年を超える設備の割合が高まっていくためです。

企業やビジネスパーソンにとって、インフラの安定性は活動の基盤でもあります。そのため、インフラ老朽化問題はビジネスパーソンなら知っておくべき知識といえるでしょう。

そこで、本記事では日本のインフラ老朽化問題の概要や現状、対策などを紹介します。

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日本のインフラ老朽化問題とは

インフラ老朽化問題とは、インフラの老朽化により公共設備としての機能が低下し、人命やライフラインの安全性を脅かすことです。またインフラとは、道路やトンネル、道路橋、鉄道、上下水道、ダムなどを指します。

具体的なインフラ老朽化により起こった重大事故の事例は以下のとおりです。

  • 2012年:中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故
  • 2018年:広島県坂町・砂防ダム決壊事故
  • 2021年:和歌山県・六十谷水管橋破損事故
  • 2022年:愛知県・明治用水頭首工漏水事故

このようにすでに多くの事故が発生しており、今後20年でさらに深刻化すると予想されています。そのため、インフラ老朽化問題への対策の必要性が急速に高まっていく見込みです。

日本のインフラの現状

日本のインフラは、1960年代の高度経済成長期に整備されたものが多くあります。具体的なインフラの種類と数、2020年・2030年・2040年に建設後50年以上経過する割合は以下のとおりです。

 建設後50年以上経過した割合
2020年3月2030年3月2040年3月
道路橋:約73万橋約30%約55%約75%
トンネル:約1万1,000本約22%約36%約53%
河川管理施設:約4万6,000施設約10%約23%約38%
下水道管きょ:約48万km約5%約16%約35%
港湾施設:約6万1,000施設約21%約43%約66%

参考:国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来

つまり、2040年には道路橋の4本に3本、トンネルの2つに1つ、港湾施設の3つに2つが老朽化するとみられています。このような急速なインフラ老朽化で問題となるのは、インフラの維持管理・更新費の増大です。

国土交通省の「将来推計」によると、2018年度以降に必要な維持管理・更新費用は以下のように推計しています。

年度維持管理・更新費の推計
2018年度約5.2兆円
2023年度約5.5~6.0兆円
2028年度約5.8~6.4兆円
2033年度約6.0~6.6兆円
2048年度約5.9~6.5兆円

参考:国土交通省「将来推計

インフラ老朽化に伴い、2048年度では2018年度と比較して1.13倍~1.25倍の維持管理・更新費が発生すると見込んでいます。

日本のインフラ老朽化への対策

2012年の笹子トンネル崩落事故をきっかけにインフラ老朽化が注目されました。インフラ老朽化の問題が顕在化したことで、日本政府も対策に乗り出しています。ここでは、国が中心となり進めているインフラ老朽化対策を紹介します。

対策① インフラ長寿命化基本計画

笹子トンネル崩落事故の翌年である2013年、日本政府が閣議決定した「日本再興戦略」に基づき「インフラ長寿命化基本計画」が取りまとめられました。インフラ長寿命化基本計画では、基本的な考え方として「インフラ機能の確実かつ効率的な確保」「メンテナンス産業の育成」「多様な施策・主体との連携」を掲げています。

このインフラ長寿命化基本計画を基に、国土交通省では2014年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」を策定しています。

国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)の具体的な取り組みは以下のとおりです。

  • 相談窓口の機能の充実
  • 基準・マニュアル等の整備・提供
  • 研修・講習の充実
  • 交付金等による支援
  • 担い手確保に向けた入札契約制度等の見直し
  • 技術者の確保・育成
  • 管理者等の相互連携の強化
  • 国民等の利用者の理解と協働の推進
  • 担い手確保に向けた環境整備

このような取り組みにより、インフラの新設から撤去までのライフサイクルの延長、メンテナンスサイクルの構築と継続的な発展を目指しています。

対策② インフラメンテナンス国民会議

インフラメンテナンス国民会議は産学官民連携のためのプラットフォームです。以下の5つを目的に2016年に設立されました。

  • 革新的技術の発掘と社会実装
  • 企業等の連携の促進
  • 地方自治体への支援
  • インフラメンテナンスの理念の普及
  • インフラメンテナンスへの市民参画の推進

具体的には、自治体や地域の取り組みの発展に向けて以下の活動を行っています。

  • メンテナンスの課題を解決する新技術の活用
  • 地域一帯で取り組むメンテナンスへのサポート
  • 民間のノウハウの活用
  • 技術者の確保や育成に関する取り組みや支援
  • インフラメンテナンス市区町村長会議の開催

インフラ老朽化対策に貢献する技術

国土交通省ではインフラの効率的なメンテナンスのために、インフラのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。そのため、ビジネスにおいてもチャンスのある分野といえるでしょう。ここでは、インフラのDX化に役立つ技術を紹介します。

インフラ用ロボット・AI

2013年の道路法改正に伴い道路橋点検は、5年に1回の頻度、かつ適切な方法で実施することが定められました。しかし、道路橋だけでも全国に約73万橋があり、トンネルにおいては約1万1,000本あります。さらに人口減少により、今後は技術者などの労働力が減少すると予測されています。

このような状況を打破するために注目されているのはロボットやAI技術です。

効率的な点検方法の確立やメンテナンスの省人化により、インフラ老朽化問題に対応できると考えられているためです。実際にトンネルを走行しながら、トンネルの構造に問題がないかを測定するロボットや、道路橋の点検に使用するロボットの開発が複数の企業で進められています。

ドローン・水中カメラ

インフラのDXで注目されている技術は、ドローンや水中カメラです。ドローンや水中カメラは、危険が伴う高所や水中の作業を安全に行えるためです。また道路橋のメンテナンスでは、高所と水中の両方から点検が必要な場合もあります。そのようなケースにも対応できる水空合体ドローンなどの開発も進められています。

モニタリングシステム

モニタリングシステムはインフラの構造物のひずみや加速度、変位、温度を測定し、構造物に問題がないかなどを判断するシステムのことです。インフラの構造物にセンサを配置しておくことで、厳しい環境下にある構造物でも常時モニタリングできます。また、センサだけではなくドローンやロボットを併用したモニタリングシステムの構築も期待されています。

インフラ老朽化への対策がますます必要に

2040年になると既存のインフラである道路橋の4分の3、トンネルの2分の1、港湾施設の3分の2が建設から50年を超えます。これほど多くのインフラが老朽化することから、今後ますますインフラのDXの推進が必要となるでしょう。

新規事業のアイデアを探している経営者は、ドローンや水中カメラ、AIなどといった技術でインフラ問題への対策に乗り出してみてはいかがでしょうか。