答え無き問 | FILE.002

「この事業は、
山あいの村で成立するのか。」

あるインフラ関連企業、新領域参入の記録。人口約800人の山間地域に、災害時にも地域の機能を支える自立型電力システムが整備された。問題はその先——防災のための設備を、平時にも価値を生み続ける「事業」にできるか、だった。

CLIENTインフラ関連企業(守秘のため匿名)
THEME地域インフラ×新領域の事業性見極めと構想設計
PERIOD約3ヶ月(事業性検証+構想・協議設計)
第一章

防災の装置を、続く事業に

舞台は、人口約800人の小規模な中山間地域。高齢化率は55%を超え、人口減少や生活インフラの維持が大きな課題になっていた。だがこの地域は、ただの過疎地域ではなかった。立地特性を生かした再生可能エネルギーで、エネルギーの地産地消を進め、国の先進事例としても選出された——「小さくても自立する」を実践してきた、知る人ぞ知る先進地だった。

クライアントは、この地域で自立型電力システムの整備に関わってきたインフラ関連企業。だが、社内にはひとつの問いが残っていた。防災設備は、非常時のためのもの。平時に価値を生み続けなければ、地域のインフラは事業として持続しない。手元には、公共施設のレジリエンス強化、地域産品の加工・保管機能、企業研修・合宿型プログラム、小規模事業者向けの共同利用設備、生活支援拠点との連携、空き施設を活用した交流拠点など、6つの複層事業アイデアがあった。どれが本当にこの地域で成立するのか。誰も確信を持てないまま、候補だけが並んでいた。

6つの候補を、夢を壊さず、しかし容赦なく検証する。「やれること」の列挙から、「やるべきこと」の見極めへ——それが私たちに課された仕事だった。

第二章

地域を「市場」として解剖する

最初にやったのは、地域を徹底的に知ることだった。総合計画、人口動態、行政施策の変遷、産業構造、エネルギー利用の実態、さらに過去15年分・1万件超の公開情報や報道情報をデータベースで解析し、この地域が何に取り組み、何を大切にしてきたかを構造化した。地域事業の成否は、技術だけでは決まらない。「その土地の文脈に合うか」で決まる——だから市場調査と同じ精度で、地域を解剖した。

そのうえで、6つの候補を「事業性」と「実現に向けて何を足すべきか」の両面から評価した。結果は、忖度のないものになった。

複層事業の候補評価判定の根拠(抜粋)
再生可能エネルギーを活用した公共施設・避難拠点の機能強化既存設備との接続性が高く、地域側の受容性も高い。防災価値と平時利用を両立しやすい
地域産品の加工・保管機能の高度化地域資源の活用余地があり、産業振興との接続が見込める。一方で、運営主体と販路設計が課題
企業研修・合宿型プログラムの受け入れ地域の先進的な取り組みを学習資源として活用できる。単独事業ではなく、他施策との組み合わせが鍵
小規模事業者向けの共同利用設備地域内需要だけでは投資回収に限界がある。周辺地域や外部事業者を含めた利用設計が必要
生活支援拠点との連携サービス最大受益は315世帯にとどまり、地域単体では採算性に課題がある。モデルケースとしての価値が中心
空き施設を活用した交流拠点遊休資産の活用余地があり、関係人口創出との相性がよい。ただし、継続運営の体制設計が不可欠

注目してほしいのは「△」だ。成立しないものは、成立しないと言う。期待に沿う結論だけを並べた検証は、後で必ず事業を裏切る。この率直な判定があったからこそ、「◎」や「○」の説得力が生まれた。

この局面で使った道具

  • 地域の解剖総合計画・統計・行政施策・公開情報・報道情報の解析により、「土地の文脈」を構造化
  • 事業性評価候補ごとに◎○△判定を行い、「実現に向けて付加すべき方向性」とセットで提示
  • 制度条件の読み込み各種補助金の交付・取り消しリスクまで読み込み、事業計画上の制約条件として整理
第三章

個別の事業案から、「小規模地域の自立分散型インフラ構想」へ

検証を進めるほど、個別の◎○△の先にあるものが見えてきた。公共施設の機能強化も、地域産品の加工・保管も、企業研修も、バラバラに提案すれば「個別施策の寄せ集め」になる。だが束ねれば、話は変わる。私たちはすべての候補を貫くコンセプトを立てた——「小規模地域の自立分散型インフラ構想」

人口約800人の地域だからこそ、エネルギー、地域産業、生活支援、防災、交流人口創出を、地域全体で一体的に設計できる。クライアントが優位性を持つインフラ領域から段階的に始め、地域資源を活かした産業・生活機能へ広げていく。さらに、地域側の視点に立った提案材料まで設計した。企業が実現したいことを、そのまま企業の言葉で語っても地域は動かない。必要なのは、「企業がやりたいこと」を「地域が望む未来」の言葉で語り直すことだった。

終章

生まれた価値 — 協議のテーブルに載る「構想」

忖度のない事業性判定6候補を◎○△で見極め。成立しない案は根拠とともに棄却し、注力先を明確化
統合コンセプト個別案の寄せ集めを、「小規模地域の自立分散型インフラ構想」へ再編集。段階的な実現の設計図を提示
協議への装備一式地域側メリットの言語化・提示アプローチ・マイルストーン・制度条件の整理まで、交渉のテーブルに載る形で納品

この記録の「実現」も、正直に書く。納品したのは、稼働する事業そのものではない。地域との協議のテーブルに載せられる構想と、その根拠、そして進め方の設計図だ。地域×エネルギーの新領域は、企業の論理だけでは一歩も進まない。土地の文脈を解剖し、成立しないものを成立しないと言い、相手の望む未来の言葉で構想を語り直す——答え無き問を前に進めるとは、そういう仕事だと私たちは考えている。

※ 本稿は実際のご支援案件の記録です。守秘義務のため、社名・地名・固有名詞は本質を損なわない範囲で加工しています。

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「技術はある。次の柱は、どこにある。」— ある中堅電機メーカー、新規事業創出の記録

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