答え無き問 | FILE.008
企業の想いを、社会へ、社員へ、投資家へ——。その発信を担う部署は、多くの会社で「広告と広報」の一角に置かれてきた。だが、ある大手グループは違和感を抱いていた。この機能は、本当に今の置き場所で正しいのか。答えを探すため、私たちは業界を代表する先進企業たちの"組織のかたち"を、10年分さかのぼって解剖した。
クライアントは、誰もが知る大手グループ。事業は強く、ブランドも愛されている。だが社内には、静かな課題があった。「会社としての発信」の責任が、どこにあるのか曖昧だったのだ。
製品の広告は事業部門が、広報は広報部が、サステナビリティは別の部署が——それぞれに一生懸命だった。しかし、グループ全体として「私たちは何者で、どこへ向かうのか」を一貫して語る仕組みは、はっきりしていなかった。持株会社と事業会社の間でも、メッセージの温度差が生まれる。声はたくさんあるのに、"会社の声"が一つに束ねられていない。 この状態をどう設計し直すべきか——それが問いだった。
発信の巧拙を語る前に、問うべきことがある。「その発信は、そもそも誰の責任なのか」だ。
私たちが取ったのは、キャッチコピーの巧さを比べる方法ではなかった。業界を代表する先進企業を複数選び、そのコーポレートコミュニケーション機能が「どの部署に、どう置かれ、10年でどう動いてきたか」を、組織の変遷として時系列で解剖することだった。
組織図は、その会社が「何を大事だと考えているか」の地図だ。どの機能を経営に近づけ、どの機能を統合し、どこに責任を集めたか——その動きを追えば、成功している会社が共通してたどった"道筋"が見えてくる。公開情報で骨格を描き、当事者へのヒアリングで、変更の背景にあった課題認識まで踏み込んだ。
会社ごとに事情は違う。それでも、うまくいっている企業の組織は、驚くほど同じ方向へ動いていた。
① 「広報」から「経営の伝達装置」へ、格上げしていた
先進企業はこぞって、コミュニケーション機能を事業部門の配下から引き上げ、経営に近い位置へ再編していた。製品を売るための広報から、"会社そのもの"の意志を伝える機能へ——役割の定義が、一段引き上げられていた。
② バラバラだった機能を、一つに束ねていた
広報、ブランド、サステナビリティ、お客様対応……機能ごとに散っていた機能を、統合された部門へまとめ直す動きが共通していた。狙いは明快で、「グループとして一貫したメッセージ」を発する土台をつくること。声を一つに束ねるための、意図的な組織設計だった。
③ 「パーパス/ESG」を、発信の芯に据えていた
束ねた発信の中心には、製品の機能ではなく、企業の存在意義や社会との約束(パーパス・ESG)が置かれていた。個々の商品を語る前に、「この会社は何のためにあるのか」を語る——企業像主導のコミュニケーションへと、軸足が移っていた。
成功企業がやっていたのは、上手な発信ではなかった。「発信の責任を経営に引き上げ、機能を束ね、芯を通す」——組織そのものの作り替えだった。
このプロジェクトが残したのは、良いメッセージ例集ではない。先進企業がたどった組織進化の"共通の型"を、自社の設計判断に使える地図に落とし込んだものだ。コーポレートコミュニケーションの巧拙は、コピーの才能ではなく、「その機能を組織のどこに、どう持つか」で決まる。そう捉え直せたことが、いちばんの成果だった。コーポレートコミュニケーションの相談を受けるとき、私たちはまず「それは、言い方の問題ですか。それとも、持ち方の問題ですか」と問う。多くの場合、変えるべきは言葉ではなく、その機能の"持ち方"——組織の設計の方だ。 会社の声を一つにするのは、名コピーではなく、覚悟をもった組織の作り替えである。先進企業の背中が、それを教えてくれた。
※ 本稿は実際のご支援案件の記録です。守秘義務のため、社名・分析対象企業名・部門名・人数など、本質を損なわない範囲で加工しています。

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