ワークショップの有効性や、新規事業におけるコンセンサスの重要性などについて前回までに紹介してきました。しかし、「そもそもコンセンサスって何?」と感じている方もいるかもしれません。
そこで4回目の本コラムでは、そのような方に向けてコンセンサスの基本的知識から、新規事業に役立つコンセンサス形成のプロセスについて紹介します。
本コラムは、弊社で開催させていただきましたラジオ風ウェビナー
『コンセンサスを伴う新規事業推進のためのワークショップデザインとは?』
の一部内容を編集して、全4回のシリーズに分けてお届けいたします。
Contents
そもそもコンセンサスとは?
コンセンサス(consensus)とは、英語でもともと「意見の一致」「合意」「同意」を意味します。その意味から日本のビジネスシーンで使われる際は、「グループ全員が同意する意見」のことです。
つまり、コンセンサスが形成された状態というのは、グループ全員が納得・理解できている状態を指します。新規事業に関わらず、ビジネスシーンでコンセンサス形成が重要な場面は多くみられます。そのため、ビジネスシーンでもよく利用される用語といえるでしょう。
アグリーメントとの違い
コンセンサスと混同しやすい言葉にアグリーメントがあります。アグリーメント(agreement)とは、「同意」や「合意」という意味です。
これだけを聞くと、コンセンサスとアグリーメントは同じと感じるかもしれません。しかし、コンセンサスには「意見の一致」というニュアンスが含まれています。
つまり、コンセンサスはグループ間全員の意見の同意・合意を指す言葉なのに対して、アグリーメントは1対1の同意・合意を指す言葉です。
また、複数のアグリーメントを積み上げることでコンセンサスが形成されると思うかもしれません。しかし、アグリーメントを複数積み上げても個人間の同意・合意となるため、コンセンサスとは微妙にニュアンスが異なります。
それぞれを簡単に解説すると、以下のようになります。
グループでの同意・合意:コンセンサス
個人間での同意・合意:アグリーメント
このことから、新規事業開発を推進するために重要なのはコンセンサスです。
コンセンサスには3つの性質がある
コンセンサス形成はグループ間の同意・合意を意味します。しかしその内容は、以下の3つの性質により質・程度に差があります。
- 広がり
- 深さ
- 持続性
これら3つの性質は、新規事業に有効なコンセンサス形成に重要なポイントです。それぞれの性質の質・程度を向上させることで、よりよい同意が得られるためです。
コンセンサスの性質「広がり」
コンセンサスの「広がり」は、担当者の関係性に関する性質です。例えば、上司と部下の関係性は上下の広がり、実務担当者同士の関係性は左右の広がりです。
そのため、「何がしたいのかわからない」とアイデア出しの際に批判されてしまうような場合は、左右の広がりが不十分であるといえます。また、「新規事業をする意味がわからない」と聞こえる場合は、上下の広がりが不十分です。
アグリーメントでは、個々の関係を強化することで同意・合意は可能ですが、コンセンサスを形成するためには、関係性を上下・左右に広げなければなりません。
つまりトップダウン・ボトムアップといったような一方向の関係性ではなく、縦横無尽に双方向の関係性を構築し、お互いがそれぞれの関係を認識できる必要があります。広がりやすい状況を作れるかが、新規事業におけるコンセンサス形成のカギとなるでしょう。
コンセンサスの性質「深さ」
コンセンサスの性質には深さがあります。深さとはメンバーの理解のことです。理解度が深いほど高いパフォーマンスが期待できます。
ここではコンセンサスの深さを「浅い」「中程度」「深い」の3つに分けて解説します。
- 浅い
新規事業開発における理解が浅い場合、関わる人員は協力的でなかったり、主体的でなかったりとリソースをうまく活用できません。
- 中程度
理解度が中程度に深まると、関わる人員は肯定的です。しかし全体像を理解していないため、自身の志向に基づく改善案を提示したり、目的とずれた代替案を提示したりとチグハグになることもあります。
- 深い
新規事業に関わる人員が理解度を深めると、肯定的に協力してくれます。加えて全体像も理解しているため、的を射た案も提示してくれるでしょう。例えば、事業案に応じた改善や目的に合った代替案の提示といった具合です。
新規事業の業務内容は、複数の人員や部署にまたがることも多いため、コンセンサスの質を深めることがリソース活用の効率を最大限高めることにつながります。
コンセンサスの性質「持続性」
コンセンサスの性質には持続性があります。なぜなら、コンセンサスは一度で形成されるものでもありませんし、一度形成されたからといって永続するわけでもありません。
人間関係に置き換えるとわかりやすいでしょう。1日、2日で、すべての人とわかり合える人はいません。ただでさえ、新規事業開発の場合は人の入れ替わりが激しかったり、今やっていることが1つ変わるだけで、何をやっているのか周りから見えなくなったりします。
そのような状況のなかでコンセンサスを形成し、維持するためには、以下の4つの項目について気を配らなければなりません。
- 関わるセクション全体の理解度を高める
- 一度では正しく伝わらない
- 人が入れ替わる
- フェーズが変わると状況が変わる
つまり、常にコミュニケーションをとれる環境・機会を創出する工夫が必要となります。コンセンサスは1日で形成できないことを理解しましょう。
コンセンサスを生む環境を目指すには
コンセンサスを生む環境を目指すためには、いろいろな役職者が一堂に集まり、新規事業推進のための理解や現状把握、議論を行っていくことが大切です。これらを実現するのに有効な手法は、ワークショップとなります。
コンセンサス形成のプロセス
新規事業のフローは以下の図のように、現状整理から投資・徹底の判断までが一連の流れです。
この新規事業のフローのなかで、どのようにコンセンサス形成を図れば良いのか疑問がある方もいるでしょう。
よくある失敗は、アイデア量産のステップでコンセンサス形成を目指すことです。しかし、1日でコンセンサスを形成するのは困難なため、アイデア量産のステップよりも前段階から取り組む必要があります。
そこでコンセンサス形成は、以下のプロセスに分けて進めましょう。
- なぜやるのか理解を深める
- 価値観を理解・共感できるプラットフォームを作る
- アイデア出し
- 事業の検証+新しい価値観の浸透
それぞれのプロセスと、新規事業のフローですべきタイミングについて紹介します。
なぜやるのか理解を深める
新規事業開発を推進するためには、はじめのステップである「現状整理」からコンセンサス形成のための取り組みを行う必要があります。
このプロセスでは関係するメンバーに「なぜ新規事業をやるのか」を理解してもらうことが重要です。新規事業開発の目的、やらないとダメな理由、実現方法などを共有しましょう。
このステップで理解を深めておくことで、「新規事業をやる必要があるのか」という不安や不満を抑制できます。
価値観を理解・共感できるプラットフォームを作る
次に「プロセス設計」の段階で、新規事業の価値観を理解・共感できるプラットフォームを作ります。
プラットフォームは、例えば「部門横断型プロジェクト」などです。このようなプラットフォームを作ることで、会社や自分の立場を俯瞰し、客観的な視点から新規事業を把握できます。
また他部署との交流をあえて生み出すことで、全社的な価値観の共有を促せます。
アイデア出し
先の2つのプロセスをこなすことで、この段階でコンセンサスが形成されているはずです。コンセンサスが形成されていることで、各メンバーの視点がそろうため、アイデア出しもスムーズに進むでしょう。
ただし「アイデア量産」のステップでは、メンバーの意見を否定せずに活発な意見交換が行われることに注意してください。意見を否定してしまうと、せっかく構築した関係性が崩れてしまうかもしれないためです。
事業の検証+新しい価値観の浸透
「事業モデルの仮構築」のステップでは、事業推進のための評価基準を共有しながら、業務の落とし込みや調整をします。このプロセスで重要なことは、事業の検証や新しい価値観を浸透させることです。
なぜならコンセンサスを維持しながら、新規事業のサイクルを回すためです。また新規事業のサイクルは、1回で終わるわけではありません。推進力を失わないためにも、コンセンサス形成を維持し続けることが大切なポイントとなります。
コンセンサス視点での新規事業開発のサイクル
新規事業のフローについて紹介してきましたが、ここではコンセンサス視点での新規事業開発のサイクルを紹介します。コンセンサスでは以下の3つの視点で、サイクルを回転させることが重要です。
- 各メンバーがなぜやるかを理解してもらう
- 事業を俯瞰+価値観共有の場を作る
- コンセンサスを維持しながら事業を具体化する
しかし、このサイクルを回すのが難しいと感じている方もいるでしょう。
- 規模が大き過ぎて、枠組みの外に出て俯瞰するのが困難
- 企業ミッションが壮大過ぎて、共感まで得られない
- いろいろなことが既存のコンセンサスに守られて、メンバーを動かせない
このような悩みを持つ企業様では、状況を打開して、柔軟にチームを動かしていく必要があります。このような状況を打開するのにおすすめの方法は、社内とは別の視点を持つ人を事業開発に組み入れることです。
つまり、外部の風を入れるためにもセルウェルの支援をご検討ください。
セルウェルの考えるワークショップの役割・目的
セルウェルをご利用いただけるメリットとして、外部の視点を取り入れられることや、コンセンサス形成に役立つワークショップが挙げられます。
ここでは、セルウェルの考えるワークショップの役割や目的について紹介します。
ワークショップの役割・目的
一般的にワークショップの目的は、新規事業が完成することでしょう。しかし、それは目的の1つの側面にすぎません。
セルウェルではワークショップの役割は、基本的にコンセンサスの形成を目指す場所と定めています。
コンセンサスの形成で理想の状態は、ワークショップを終えると、関わる人たちの間で、新規事業の意味や価値が伝わっている状況や関係性が構築できていることです。
この理想の状態を目指し、ワークショップが新規事業を営みとして組織に根付かせるための、土壌改良のような行為であると考えています。言い換えれば、自分たちを変えていくための場所がワークショップなのです。
ワークショップでセルウェルが関わるメリット
セルウェルがワークショップに関わることで、以下のようなメリットがあります。
- 外部の事例をみつけてくる
- 内部のコミュニケーションエラーの原因を捉える
- 客観的な意見を述べられる
- 上層部と実務担当者をつなぐ架け橋となる
- 活発な意見交換をしやすい雰囲気作りができる
などなど、このようにワークショップの進行に悩んでいる方を強力にサポートします。
またこれまで新規事業でありがちな、「新規事業をやりたい」という経営者に対して、部下が「また気まぐれが始まった」「気持ちはわかるけど今の安定を壊したくない」といった考えのズレを埋めることもできます。
新たな考え方の注入や、今まで当たり前すぎて気づかなかった点を指摘できるのもセルウェルの強みです。
セルウェルの新規事業における3つの支援内容
セルウェルの新規事業における支援内容には、以下の3つの型があります。
- 点型支援
リサーチや検証支援といったスポットの支援
- 線型支援
特定の事業部や担当者に伴走するマーケティング支援
- パルス型支援
コンセンサス形成にフォーカスした支援
新規事業の担当者の方で、まだぼんやりとしたお悩み事でも、整理のお手伝いができるかもしれません。お気軽にご相談ください。