新規事業開発を推進するためには、ワークショップの開催は有効です。その理由は、ワークショップがコンセンサスの形成に役立つためです。
それでは、コンセンサスが形成されていない状態で新規事業開発を推進すると、どのようになるのでしょうか。
本コラムは、弊社で開催させていただきましたラジオ風ウェビナー
『コンセンサスを伴う新規事業推進のためのワークショップデザインとは?』
の一部内容を編集して、全5回のシリーズに分けてお届けいたします。
3回目の今回は、コンセンサス形成の重要性について失敗事例を交えながら解説します。
Contents
新規事業開発の定義とは?

まずは「新規事業開発って何?」と聞かれると、どのようなイメージが湧くでしょうか。
- これまでにはない新たなサービスや商材の創出
- 自社が挑戦していない他分野への進出
- 新たなアイデアで、既存事業の付加価値の向上
というように、漠然としたイメージを持たれているかもしれません。
そこで「新規事業開発」のイメージを固定するために、本コラムでは新規事業開発を、「既存の事業枠を超え、現在の業務プロセスにない新しいビジネスの営みを社内に発明すること」と定義します。
新規事業開発のフローから見てわかること
本シリーズの第1回に紹介した、新規事業開発のフロー図は以下のとおりです。

新規事業開発のフローは大きく分類すると、「施策の設計」「事業アイデアの発散と収束、検証」「事業案の具体化・判断」に分けられます。これらのステップでは、いつ・どこで・だれが・何を・なぜ・どのようにといった、5W1Hを組み直す必要があります。
例えば施策の設計では、どのような目的でだれが担当するのか、いつまでにするのか、なぜ新規事業を開発するのかといった具合です。
つまり新規事業開発は、「事業の5W1Hをリセットすること」といえるでしょう。
新規事業のスタート時点では5W1Hが未定
新規事業の最終段階である「投資・撤退の判断」まで到達すれば、すべての5W1Hがリセットされ、組み直されているはずです。しかし、新規事業のスタート時点では、各ステップの5W1Hが未定の状態で始まります。
例えば新規事業のテーマ出しをしている時点では、これから生まれる事業が何を目的としているのか、だれがどのように関わるのか、いつ実現するのかがわかりません。
新規事業は、この5W1Hがわからない状態であるからこそ、コンセンサス形成が重要なのです。
新規事業を登山に例えてみると…。

5W1Hを決めるのにコンセンサス形成が重要な理由を、新規事業を登山に例えて、わかりやすく解説してみます。
ある上司より、これまでに登ったことがない山への挑戦を、以下のように命じられたとしましょう。
上司:「我々も他社にならって前人未踏の山に登ってみようと思います。とりあえずいつものメンバーがそれぞれの仕事をしながら、登頂を目指してください。商品企画部・新規事業企画部兼任の田中さんと、山に詳しいわけではなくとも興味があるメンバーで構成されたチームの皆さん、あとは頼みますね。」
このように、前人未踏の山への挑戦を新規事業と見立ててみます。
コンセンサスがない状態
5W1Hが決まっておらず、コンセンサスが形成できなければ、登山者たちは以下のように考えるでしょう。
「どこの山に登るの?」
「いつまでに登る予定ですか?」
「なんで山に登るのかわからない。意味ありますか?」
「優秀なガイドさんを雇いたいです」
このように様々な意見や考え方が乱立してしまい、統率が取れなくなります。登山で自分勝手な行動をしてしまうと、登山が失敗するだけではなく、他の登山者の迷惑や危険になることさえあります。
新規事業に当てはめて考えてみると、コンセンサスがなければ事業を失敗するだけではなく、社員のモチベーションの低下や離職につながることさえあるでしょう。
コンセンサスが取れている状態
コンセンサスがあるチームの場合は、登山を開始する前に、以下のような5W1Hを検討します。
目的・ゴール:なぜ山に登るのか
判断基準:どのような山に登ると成功なのか
期限:いつまでに登るのか
予算:いくら資金が必要なのか
リソース:何が使えて、何が足りないのか、だれがどのような役割で参加するのか
戦略:どのようにルートを決めるのか
これらの5W1Hを決定することで、チームメンバー各自の求められる役割が明確となります。例えば、資金調達やルートの検討、スケジュールの調整などです。コンセンサスが形成されることで、チーム一丸となって前人未踏の山への登頂が目指せるでしょう。
新規事業の場合も、前人未踏の山への挑戦と同様に、5W1Hを決めるためにコンセンサスの醸成が重要となるのです。
コンセンサスの有無が協力されやすい体制を作れるかのカギ

新規事業のスタート時点では、5W1Hが定まっていません。加えて新規事業は、リソースが限られやすいのも特徴です。例えば、既存事業に支障が出ない範囲で人員を割こうとすると、使えるリソースが限定的となるためです。
つまり5W1Hが定まっておらず、リソースも不足しがちなのが新規事業といえるでしょう。
新規事業開発の担当者は会社全体のリソースを捉えながら、メンバーそれぞれを必要に応じて最大限の効果を発揮するように活用することが求められます。
言葉にしても、簡単ではないことが伝わるはずです。
そのため新規事業担当者は、「関係部署にいかに事情をわかって協力してもらうか」が重要となります。設計した業務プロセスが有効なのかを判断してもらうだけではなく、否だった場合に全体を見て目的に応じた代替案を出してもらうといった具合です。
新規事業担当者がこの状況を作れるかどうかは、コンセンサスの有無にかかっているのです。
コンセンサス形成に失敗した事例

セルウェルでは、様々な企業様の新規事業開発に携わってきました。その経験をもとに、よくあるコンセンサス形成の失敗事例は以下の4つです。
- 社内における新規事業の立ち位置が不明確
- 事業開発のメンバー間での共有不足
- 事業の条件や要件の認識のズレ
- 新規事業の目的や手段の共有不足
これら4つの失敗事例では、どのような部分に問題があったのかについて解説します。
社内における新規事業の立ち位置が不明確
新規事業を立ち上げても「この事業をやる必要があるの?」や「既存事業に迷惑をかけてまでやることなの?」など、新規事業担当者は批判を受けることもあります。
なかには、新規事業が金食い虫だと思われていて、社内で肩身の狭い思いをしている担当者もいるでしょう。
この問題の面倒な点は、全フローにわたって起こることです。最初の立ち上げ段階だけではなく、最終のステップでも、後ろ指をさされることもあります。新規事業担当者からすると、大きくモチベーションを下げる要因ともなります。新規事業担当者がモチベーションを下げてしまっては、推進力を失い成功確率も下がってしまうでしょう。
この問題はなぜ起こるのかといえば、「新規事業立ち上げの重要性が浸透していない」があげられます。具体的には上層部がなぜ新規事業を立ち上げたのか、新規事業でどのような成果を目指しているのかなどが共有できていないなどです。
ありがちな失敗としては、新規事業者に関わるメンバーだけに伝わっており、他の社員が知らずに、全社的な共有ができていないケースです。
この失敗事例に対しては、社内における新規事業と部門の立ち位置を明確にして、社内全体に必要性を理解してもらうための機会を作ることが有効な対策方法となります。
事業開発のメンバー間での共有不足
新規事業を立ち上げるうえで、企画出し会議の際に、「何がしたいのかわからない」といわれたことや、「自分が出したアイデアを嘲笑されてしまった」などの経験がある方もいるでしょう。
アイデア量産のステップでは、多角的な視点から案を洗い出すことが重要です。そのため、グラウンドルールなどが採用されているはずで、余程のことがない限りアイデアについては批判されないはずです。
それなのにアイデアについて批判されてしまうのは、コンセンサスの形成に失敗しているといえるでしょう。
具体的には、新規事業担当者に事業の目的や成功条件、フローを共有できていないのが原因です。ゴールや目的が共有されていないため、会議をしてもチグハグなアイデアが出てしまい、アイデアを出した担当者が批判されるのです。
この問題を解決するためには新規事業開発の目的や進め方、当該ステップで全体のどこまで、何を目指すかを事前に決定し、全体共有することが有効となります。
また、グラウンドルールが設定されていない場合や、話しやすい雰囲気作りに取り組んでいない場合も、アイデア出しの妨げとなります。「アイデア量産」のステップでは、とくに意見しやすい雰囲気作りが大切です。
事業の条件や要件の認識のズレ
新規事業担当者間での決定事項を、上層部に報告すると「思っていたのと違う」や「こんなことを頼んでいない」といわれた経験はありませんか。
新規事業担当者間での合意を取り付けたのに、上層部が望んでいた内容とは異なることで、最初からやり直すはめになるでしょう。これまでに費やしてきた時間が長いほど、損失も大きくなります。
なぜ新規事業担当者間と上層部にこのような意見の食い違いが起こるかといえば、事業の条件や新規事業の要件の認識にズレがあるためです。言い換えると上層部が望む新規事業の目的と、担当者の事業の目的が異なっているのです。
つまり、上層部と担当者とのコンセンサスが取れていない失敗事例といえるでしょう。この問題は上層部と担当者の間だけではなく、担当者間でも起こります。このような失敗事例の対応策は、事業推進のステップや判断基準を事前に決めて、全体で共有することです。常にコンセンサスを取るように、意識する必要があるでしょう。
新規事業の目的や手段の共有不足
新規事業の企画設計をする段階で、事業プランを現場に説明してもうまく伝わらず、快い返事がもらえない場合はありませんか。
現場では「どのようにすれば良いのか」や「だれが実施するのか」、あるいは「新規事業はどのように評価されるのか」などといった不安や疑問があります。
これらを解決していなければ、現場にうまく伝わらず、協力を得るのも難しくなるでしょう。
そこで、重要なのは新規事業の目的や手段を共有してコンセンサスを醸成させることです。
現場の社員も新規事業推進部と同じ視点で状況が把握できるようにしましょう。そのためには、常に情報を共有化する機会や、関連部門が主体的に関わるステップを入れてください。
結論:新規事業にはコンセンサスを作ることが重要

登山の例えや、4つの失敗事例などから新規事業におけるコンセンサスの重要性が理解できたでしょう。また新規事業のフローにおいて、単発のステップだけではなく、全フローでコンセンサスが影響します。
しかしコンセンサスで問題が発生すると、1つの原因をどこかのタイミングで取り除くというようなことでは解決できません。そのため、常にコンセンサスを意識して動く必要があるのです。
つまり、新規事業推進の担当者は常に会話をして、理解を促し続けなければなりません。ただし限られたリソースで、闇雲に全員と会話をし続けるのは並大抵なことではないでしょう。そこで、セルウェルが新規事業の推進をサポートします。
セルウェルが新規事業を支援
コンセンサスの醸成をしたくても、「上層部と話しを持つ機会をなかなか創出できない」や「リソースが足りずに社内への共有が不十分になる」などの課題はセルウェルが解決します。
また新規事業でありがちな「アイデアが出てこない」や「プロジェクトが計画通りに進まない」といった悩みについても、セルウェルにお任せください。
セルウェルの新規事業における支援内容には、以下の3つの型があります。
- 点型支援
リサーチや検証支援といったスポットの支援
- 線型支援
特定の事業部や担当者に伴走するマーケティング支援
- パルス型支援
コンセンサス形成にフォーカスした支援
新規事業の担当者の方で、まだぼんやりとしたお悩み事でも、整理のお手伝いができるかもしれません。お気軽にご相談ください。