ネイチャーポジティブとは?意味や注目される背景、取り組み事例を紹介 

現代は過去1,000万年間の平均と比較すると、10倍から100倍のスピードで生物が絶滅しています。2023年にIUCN(国際自然保護連合)が発表したレッドリストによると、44,000種類以上の生物が絶滅に瀕しているとのことです。 

このような状況を反転させ、自然を回復軌道に乗せることをネイチャーポジティブと呼びます。本記事ではネイチャーポジティブの意味や注目される背景、取り組み事例をわかりやすく紹介します。 

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ネイチャーポジティブとは 

ネイチャーポジティブとは、「自然再興」を意味する言葉です。簡単にいえば、生物が絶滅して種の数を減らす「ネガティブ」な状態から、生物の種の数が回復する「ポジティブ」な状態にすることを指します。 

ネイチャーポジティブが注目される背景 

近年、気候変動や地球温暖化などの社会的な課題を解決するために、持続可能な社会の実現に対する意識が高まっています。そのようななか、ネイチャーポジティブは次のメガトレンドとして注目されるキーワードです。ここでは、ネイチャーポジティブが注目される背景を紹介します。 

昆明・モントリオール生物多様性枠組 

注目される大きなきっかけは、2022年12月に開催されたCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で、生物多様性の世界目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されたことです。「昆明・モントリオール生物多様性枠組」は、2030年にネイチャーポジティブを実現するための23のグローバルターゲットを提示しています。 

グローバルターゲットのなかでも特徴的なのは、「30by30(サーティー・バイ・サーティー)」です。 

30by30とは、2030年までに陸地および内陸水域、海域、沿岸域の30%以上を保護地域として保全することです。自然環境を保全することで、生物多様性の保護や地球温暖化の抑制につながると期待されています。なお日本は、2020年までに陸域20.5%と海域13.3%を保護地域としています。 

環境省では、生物多様性の保全に貢献する場所を「自然共生サイト」に認定する仕組みを開始し、2023年には全国で184カ所が認定されました。「自然共生サイト」は企業や地域が管理する土地を認定できる仕組みです。30by30の達成に直接貢献できるため、企業においては管理する土地が認定されることで、ネイチャーポジティブの取り組みをPRできるというメリットがあります。 

世界のGDPの半分に相当する44兆ドルを失うリスク 

ネイチャーポジティブが注目される背景は、WEF(世界経済フォーラム)が2020年に発表した「New Nature Economy Report II: The Future of Nature and Business」で、自然の損失により世界のGDP(国内総生産)の半分に相当する44兆ドル(約4,700兆円)を失うリスクが指摘されたためです。 

また同報告書では、2030年までにネイチャーポジティブに移行することで、年間10兆ドル(約1,150兆円)の経済効果や年間4億人の雇用を生み出せるとしています。 

つまり、このまま生物多様性を損失し続けることは世界経済に大きなダメージを与え、反対に対策を実施することは新たなビジネスチャンスになることを示しています。 

さらに同報告書のポイントは、中国がより影響が大きいと見積もられていることです。中国のGDPの65%が自然の損失により失うリスクがあるとする一方で、ネイチャーポジティブへの移行により年間1.9兆ドル(約218兆円)のビジネスチャンスがあるともしています。 

「生物多様性国家戦略2023-2030」の閣議決定 

日本は「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択をうけて、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定しました。「生物多様性国家戦略2023-2030」は以下の5つの基本戦略により、2030年にネイチャーポジティブの実現を目指しています。 

  • 生態系の健全性の回復 
  • 自然を活用した社会課題の解決 
  • ネイチャーポジティブ経済の実現 
  • 生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動 
  • 生物多様性に係る取り組みを支える基盤整備と国際連携の推進 

ほかにも、環境省が「2030生物多様性枠組実現日本会議(J-GBF )」や「ネイチャーポジティブ経済研究会」などを設立し、ネイチャーポジティブの実現を推進しています。 

このような国を挙げた取り組みが活発化しているのも注目される背景です。 

企業がネイチャーポジティブに取り組むメリット 

ネイチャーポジティブの注目が高まるなか、取り組む企業が増えています。生物多様性の保護の取り組みは、企業にもメリットがあるためです。 

例えば、ESG投資により企業価値を高められることです。企業価値を高めることで、ステークホルダーとの関係性を強化できるというメリットもあります。 

また、活動に取り組むことで新たなビジネスチャンスを創出できるのもメリットです。ほかにも観光業や農業などでは、自然を保護することで事業の持続可能性を高めるのに貢献します。 

このように、ネイチャーポジティブには企業にもメリットがあります。 

※ESG投資とは、社会的な課題への取り組みを評価して投資対象を選択する投資手法です。 

ネイチャーポジティブの取り組み事例 

すでにネイチャーポジティブに取り組んでいる企業は多くあります。そのなかから2社の取り組みについて紹介します。 

キリンホールディングス:キリングループ環境ビジョン2050 

出典:キリンホールディングス 

キリングループのネイチャーポジティブの取り組みは、「キリングループ環境ビジョン2050」です。同ビジョンでは、生物資源・水資源・容器包装・気候変動の各項目ですべき行動を示し、持続可能な資源の活用や社会の実現を目指しています。 

例えば、生物資源の項目ですべき行動は以下の2つです。 

  • 持続可能な原料農産物の育種・展開および調達をする 
  • 農園に寄り添い原料生産地を持続可能にする 

具体的な取り組みは、レインフォレスト・アライアンス認証の取得支援です。レインフォレスト・アライアンス認証とは、森林保護・労働者の生活向上・気候変動の抑制などに関する厳しい基準要件で、持続可能な農業を推進するための認証制度です。キリングループは、現地農場の取得支援を拡大することで、生産地域における環境や労働者の課題解決を目指しています。 

また、ケミカルリサイクルの商業化技術の開発により、「プラスチックが巡回し続ける社会」を実現してネイチャーポジティブへの貢献を目指しています。 

参考:キリンホールディングス「キリングループ環境ビジョン2050」 

積水ハウス:5本の樹 

出典:積水ハウス 

ネイチャーポジティブの2社目の事例は、積水ハウスの「5つの樹」計画です。 

「5つの樹」計画のモットーは、「3本は鳥のため、2本は蝶のために、地域の在来樹種を」です。具体的に日本の気候風土に合わせ、地域に適した庭木を植える活動をしています。日本の原種や地域の在来種を庭木に植えることで、庭そのものが地域の生態系の1つに成長します。 

2001年から実施している「5つの樹」計画は、20年間で1,709万本を植栽しました。実際にこの取り組みにより鳥や蝶の種類、在来種の樹種数が増えており、各地域の生物多様性の保全に貢献しています。 

参考:積水ハウス「ネイチャー・ポジティブ方法論」 

ネイチャーポジティブで新たなビジネスチャンスを模索しよう 

WEFの報告書によると、ネイチャーポジティブに移行することで、年間10兆ドルの経済効果があると考えられています。そのため、生物多様性の保護は持続可能な社会の取り組みにつながるだけではなく、ビジネスチャンスの多い分野といえます。新規事業のアイデアに悩んでいる方は、ネイチャーポジティブの実現に貢献する事業を検討してみてはいかがでしょうか。