プラネタリーヘルスとは?意味や具体例をわかりやすく解説 

プラネタリーヘルスは、次に注目されているサステナブル関連のキーワードです。地球温暖化や環境汚染、異常気象などの地球環境の悪化が人類の生活に大きな影響を与えているためです。 

しかし、「どのような意味なの?」や「地球環境の変化で人類にどのような影響があるの?」と疑問に感じる方もいるでしょう。 

そこで本記事では、プラネタリーヘルスの概要や具体例をわかりやすく紹介します。 

Contents

プラネタリーヘルス(地球の健康)とは 

プラネタリーヘルス(地球の健康)とは、地球環境と人類の健全性が相互に影響する状態を指します。人類の活動による地球環境への影響だけではなく、地球環境の変化が人類の生活や文化に影響を与えることにも注目しているのがプラネタリーヘルスの特徴です。 

2015年にロックフェラー財団とランセット誌が「Rockefeller Foundation-Lancet Commission on Planetary Health」を発表したことで、概念が世界に広まりました。 

プラネタリーヘルスとSDGsの違い 

プラネタリーヘルスは、持続可能な社会の実現を目指すための考え方です。「持続可能」と聞くとSDGsを思い浮かべる方も多いでしょう。 

SDGsは、持続可能な社会の実現のために2030年までに達成すべき開発目標のことです。17のテーマがあり、各項目で細かな目標が設定されています。これらのSDGsの目標には「人類の持続性に役立つ目標」と「地球環境の持続性に役立つ目標」があります。 

プラネタリーヘルスは、いずれかの目標だけを達成しても実現できません。17のテーマにバランスよく取り組むことが重要視されています。つまり、SDGsの一歩先を行く概念がプラネタリーヘルスといえます。 

プラネタリーバウンダリーの9項目 

地球では、人類が安全に生活できる範囲に上限があります。人口が増え続けると水や食糧の確保が困難になったり、化石燃料を使いすぎると枯渇したりするため、無制限に人類の生活を拡張することは不可能です。 

そこで、人類が地球で安全に生活できる範囲を以下の9項目で示したのがプラネタリーバウンダリーです。 

  • Novel entities(新規物質) 
  • Stratospheric ozone depletion(オゾン層破壊) 
  • Atmospheric aerosol loading(大気中エアロゾル) 
  • Ocean acidification(海洋の酸性化) 
  • Biochemical flows(生物化学的フロー) 
  • Freshwater use(淡水利用) 
  • Land-system change(土地利用) 
  • Biosphere integrity(生物圏の統合性) 
  • Climate change(気候変動) 

出典:Azote for Stockholm Resilience Centre, based on analysis in Richardson et al 2023 

上記のグラフは2023年の各項目における地球の持続可能性を表しており、赤が濃くなるほど地球の持続可能性が不安定になっている可能性が高いことを示しています。一方、緑で収まっている場合は、境界線以下を維持していることになります。 

グラフからわかるように、すでに地球の限界値を超えている項目が複数あり、人類の活動による地球への影響を抑える努力が必要な状態です。 

プラネタリーヘルスが注目される背景 

次世代の取り組みとしてプラネタリーヘルスが注目される背景は、以下の2つが考えられます。 

  • SDGsの単一の目標に対する取り組みの増加 
  • 地球の限界の接近 

地球環境を取り巻く課題を把握するために、この章では現在のSDGsの問題点を押さえておきましょう。 

SDGsの単一の目標に対する取り組みの増加 

現代では持続可能性への意識の高まりから、SDGsの達成に向けたさまざまな取り組みが行われています。しかし、1つのテーマに絞った取り組みの増加が問題となっています。 

なぜなら1つのテーマの目標を達成しても、他のテーマが悪化すればプラネタリーヘルスの改善は難しいためです。例えば、食品ロスの軽減に注力しても貧困が加速したり、環境汚染が深刻化したりしては地球規模や人類全体の視点で考えると良いとはいえないでしょう。 

つまり、SDGsの17のテーマをバランスよく取り組むためにプラネタリーヘルスが注目されているのです。 

地球の限界の接近 

科学や技術の進歩により人類の生活は豊かになりました。一方で地球環境の悪化が深刻になり、このままでは人類が生活できる限界を超えると予測されています。 

地球の限界に急速に近づいていることは、プラネタリーバウンダリーの推移からみても明らかです。 

出典:Azote for Stockholm Resilience Centre, based on analysis in Richardson et al 2023 

2023年の調査によると、9項目のうち6項目で地球の限界を超えました。また、オゾン層の破壊以外のすべての項目で地球環境への圧力が高まっている状態です。 

プラネタリーヘルスの具体例3選 

プラネタリーヘルスが注目されていますが、地球環境の変化により人類にどのような影響が出ているのか知りたいという方もいるでしょう。そこでプラネタリーヘルスの具体例として、地球環境の変化と人類の生活の相互関係を示す3つの事例を紹介します。 

地球温暖化による山火事の増加 

地球温暖化は地球環境の問題を考えるうえで外せない課題です。人類の活動による二酸化炭素の排出などが主な要因と考えられているためです。 

その地球温暖化の影響の1つとして、世界中で山火事が頻発しています。ある調査によると森林火災の発生確率は、地球温暖化の影響により2倍に増加しているとのことです。 

山火事が起こると考えられる人類への影響は以下のとおりです。 

  • 煙に含まれる有害物質や大気汚染による呼吸器官への悪影響 
  • 住宅や家財などの消失 
  • 生態系の破壊 
  • 二酸化炭素の発生と森林の消失による地球温暖化の加速 

このように地球温暖化による山火事は、人類の命や住まい、健康に悪影響を与えています。いいかえると地球温暖化の対策をすることは、山火事の発生を抑制し、人類の持続可能な生活の実現に役立つのです。 

参考:NHK「“少なくとも2倍 山火事が発生しやすい状況に”国際研究G」 

生物多様性の喪失の影響 

WWF(世界自然保護基金)の「生きている地球レポート2018」によると、世界の生物多様性の豊かさは過去40年間で60%が消失したとのことです。このような生物多様性の喪失は、人類にとって以下のような影響が考えられます。 

  • 医薬品となりえる未知の物質の消失 
  • 光合成による酸素の供給の減少 
  • 土壌がやせることによる食物の不作 
  • 地球温暖化の加速 

人類の生活は動植物や昆虫、ウイルスなどの活動により支えられています。生物多様性の保護は多くの種を維持するだけではなく、人類の持続可能な生活のためにも必要な取り組みです。 

マイクロプラスチックの汚染 

環境汚染の代表的な問題はマイクロプラスチックによる汚染です。マイクロプラスチックは微小なプラスチックのことで、海洋や大気などを漂うことで生態系や人類にさまざまな悪影響をおよぼします。プラスチックには有害性のある物質が含まれていることもあり、体内に取り込まれることで悪影響が出る可能性があるためです。 

マイクロプラスチックの汚染を抑制するには、プラスチックごみの排出量を抑える取り組みが有効です。 

多角的な視点で持続可能性に取り組む必要がある 

SDGsの意識の高まりにより、持続可能な社会に向けた取り組みを実践しようとしている企業もいるでしょう。そのような企業は、プラネタリーヘルスにも配慮した取り組みを検討しましょう。地球環境の改善や人類の生活の質向上に役立つ取り組みにつながりやすいためです。 

また、プラネタリーヘルスを意識することで、グリーンウォッシングと批判されるのを防ぐ効果も期待できます。 

グリーンウォッシングとは、環境に配慮しているように見せかけた取り組みのことです。とくにSDGsの1つのテーマに絞った取り組みをすると、他のテーマへの悪影響が無視できなくなり、グリーンウォッシングと批判される可能性があります。 

つまり、今後の環境対策で求められているのは、地球規模や人類全体に良い影響を与える取り組みといえそうです。