2021年、スリランカのモハン・ムナシンゲ教授がブループラネット賞を受賞しました。受賞理由は、「サステノミクス」の考え方を創出したことです。
サステノミクスは、持続可能な社会の実現に向けた開発目標のSDGsにつながる考え方です。つまり、近年注目されている持続可能性にスポットライトを当てたといえます。
本記事では世界の潮流を把握するために、サステノミクスの概要についてわかりやすく解説します。
※なおブループラネット賞とは、地球環境の課題解決に貢献した研究者や活動家に贈られる賞のことです。公益財団法人 旭硝子財団が主催しています。
Contents
サステノミクスとは
1992年、モハン・ムナシンゲ教授は「国連環境開発会議(リオ地球サミット)」において初めてサステノミクスの考え方を提唱しました。
サステノミクスの特徴は、先進国・発展途上国のどちらも実情に合わせた持続可能な開発を進めることの重要性を説いたことです。サステノミクスの考え方は、2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発のためのアジェンダ」におけるSDGsにつながっていきます。
サステノミクスは具体的に4原則に加えて、同教授が提唱した「公正で包括的なグリーン成長(BIGG)」と「ミレニアム消費目標(MCGs)」があります。
サステノミクスが生まれた背景
サステノミクスの内容について紹介するまえに、持続可能性を重視する考え方が生まれた3つの背景を考察します。
背景① 人類の活動による地球環境の負荷の増大
現在、人類の活動により地球環境の負荷が増大しています。環境汚染や気候変動、あるいは地球温暖化など、枚挙にいとまがありません。
人間が使っている資源は1年で地球が再生可能な資源の1.7倍を消費しています。さらに2030年には2倍に達する見込みで、このまま何も手を打たなければ、ますます地球環境への負荷が増大します。
つまり、改善に向けた早急な行動が必要なことから、サステノミクスが考えられたのです。
背景② 先進国の人々による資源の過剰消費
地球上の資源を消費しているのは、先進国の人々です。先進国の人口が全世界に占める割合は約20%ですが、先進国の人々は地球の資源の85%を消費しています。一人当たりの消費量は、貧困層の人々の約60倍にもなります。先進国の資源の過剰消費を抑制しなければ、貧困層の人々にまで資源が回らないのです。
背景③ 1948年以降の貧困撲滅の失敗
持続可能性に似た考え方はサステノミクスが提唱される以前にもありました。
具体的には、1948年に国連で採択された世界人権宣言です。世界人権宣言は30条で構成されており、「奴隷として扱わない」「健康で幸せな生活を送る権利」「教育を受ける権利」など人権侵害をなくし、貧困問題の解決を目指していました。
しかし、実際は1948年以降貧困の撲滅に成功したことはありません。つまり、従来の方法では持続可能な社会の実現ができなかったのです。そこで、従来の方法の課題を克服するために、考え出したのがサステノミクスなのです。
サステノミクスの4原則
サステノミクスの方法論は、以下の4つの原則から成り立っています。
・トライアングルの調和をとること
・自主的な行動をすること
・4つの壁を乗り越えること
・とにかく行動すること
4つの原則について詳しく解説します。
原則①トライアングルの調和をとること
サステノミクスで重視する観点は、社会・経済・環境の3つです。
社会:貧困や不平等のない、より良い社会のこと
経済:経済が持続的に成長すること
環境:地球環境や生物多様性などの資源保護のこと
そして1つ目の原則は、社会・経済・環境からなるトライアングルの調和をとることです。
社会・経済・環境のバランスが悪いと、問題が発生すると考えられています。例えば、経済が成長しても、環境が悪化しては持続可能な社会を実現できません。同様に環境保護が進んでも経済が悪化すると、貧困を生み出す原因となるでしょう。
このように持続可能な社会を実現するには、社会・経済・環境のトライアングルの調和をとることが重要なのです。
原則② 自主的な行動をすること
2つ目の原則は、個人が自主的に行動することです。
1948年の世界人権宣言では、多くの国がその考え方に賛同したため採択されました。宣言では「あらゆる人と国が達成すべき共通の基準」を定めています。
しかし、残念ながら現代でも貧困問題や人種差別などの問題は残っています。つまり、持続可能な社会の実現は、宣言するだけでは不十分で、個々が自主的に行動し大きなうねりを作り出す必要があるのです。
例えば、電気をこまめに消したり、ゴミ拾いをしたりといった具合です。このような個人の行動の積み重ねが大きな力となり、目指す社会の実現に近づくでしょう。
原則③ 4つの壁を乗り越えること
サステノミクスは、4つの壁を乗り越えることを原則としています。4つの壁は以下のとおりです。
・自分の中の壁
自分視点や利己的な考え方を優先するのではなく、より倫理的な価値観を持つこと
・人との間の壁
自分一人ではできることが限られているため、他の人と協力し、多くを成し遂げること
・空間的な壁
自宅や近所などの狭いエリアのことを考えるのではなく、町や国、地球規模の空間で考えること
・時間の壁
今日明日といった近未来のことを中心に考えるのではなく、10年後や100年後といった長いスパンで物事を考えること
4つの壁を乗り越えることで、日本人ではなく地球人として、より広い視点から物事を検討できるようになるでしょう。
原則④ とにかく行動すること
すでに地球の再生可能な資源の1.7倍を消費している状態です。検討や議論だけでは不十分で、とにかく行動することが重要です。行動を起こすことで、大なり小なり変容が期待できます。持続可能な社会の実現には、そのような変容の積み重ねが大切なのです。
公正な包括的グリーン成長(BIGG)
モハン・ムナシンゲ教授はサステノミクスの次に、「公正な包括的グリーン成長(BIGG)」を発表しました。
公正な包括的グリーン成長は、その国の開発レベルに合わせて、持続可能な開発を示した道筋です。
上記のグラフの富裕層Cは、先進国を意味しています。先進国はすでに温室効果ガスを多く排出しており、環境リスクが安全限界を超えている状態です。そこで、先進国はイノベーションなどにより生活の質を維持・向上しつつ、環境リスクも減らして持続可能なE地点に到達する必要性を訴えています。
一方、貧困層Aや中間層Bなどの発展途上国は、イノベーションを活用することで、安全限界を超えずに持続可能なE地点を目指せるとしています。
ミレニアム消費目標(MCGs)
2010年にモハン・ムナシンゲ教授は、国連で世界生産の85%を消費する富裕層に貢献を求めるミレニアム消費目標(MCGs)を提唱しました。先進国に持続可能な消費への転換を促すことで、何十億もの貧しい人々に資源を解放することが目的です。教授が提唱したMCGsは、SDGsの目標12の「つくる責任・つかう責任」に取り込まれています。
シンプルなサステノミクスを取り入れてみよう
近年、企業にはSDGsの達成のために、社会問題の解消に向けた取り組みが求められています。しかし、どのような取り組みをすれば良いのか迷っていませんか。そこで、よりシンプルな考え方のサステノミクスに注目した取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。