リテールメディアは、日本であまり聞き慣れないかもしれませんが、世界では新たなマーケティング手法として注目されています。現にアメリカのスーパーマーケットチェーンのウォルマートは、2021年にリテールメディア事業により21億ドルの収益を上げるのに成功しました。
本記事では世界のトレンドであるリテールメディアについて、事例を紹介しながらわかりやすく解説します。
Contents
リテールメディアとは
リテールメディアとは、リテールが小売を意味するように、小売販売店やECサイトが持つ広告媒体のことです。小売販売店であれば店頭にあるデジタルサイネージ(情報発信用の液晶ディスプレイ)、ECサイトであればサイト内やアプリの広告枠などを利用したマーケティング手法となります。
リテールメディアが注目される背景
リテールメディアは海外で注目されているマーケティング手法です。しかし、なぜ注目されているのか疑問に思う方もいるでしょう。ここでは注目される背景をわかりやすく解説します。
規制が従来のターゲティング広告の精度に影響
リテールメディアが注目されている大きな要因は、個人情報保護を目的としてCookieによる情報収集に規制がかけられたためです。具体的には、欧州のGDPR(一般データ保護規則)やアメリカのCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などがあります。
従来のWeb広告は、Googleなどが収集したユーザーのWeb上の行動データ(3rd Party Data)をもとに、ターゲティング広告を配信し効果を高めていました。ユーザーがアパレルブランドのサイトを閲覧していればアパレル関係の広告を表示したり、車関係のサイトをよくチェックしていれば車のパーツの広告を表示したりといった具合です。
しかし、Cookieによる情報収集が規制されたことで、このようなターゲティング広告の精度を維持するのが困難になっています。そこで注目されたのは小売販売店やECサイトが持つ顧客情報(1st Party Data)です。リテールメディアは1st Party Dataの代表的な活用例といえます。
拡大するリテールメディアの市場規模
アメリカのリテールメディアの市場規模は6兆円といわれ、すでに巨大な広告市場に成長しています。Amazonはそのうち4兆円を占めており、スーパーマーケットチェーンのウォルマートが約3,000億円で続いています。これらの企業のように、新たな収入源としてリテールメディアを活用しようと注目が集まっているのです。
また株式会社CARTA HOLDINGSの「リテールメディア広告市場調査」によると、2022年の国内のリテールメディア市場規模は135億円でした。そして、2026年には6倍の805億円に急拡大すると予測されています。国内の市場規模の拡大も注目を集めている理由です。
リテールメディアのメリット
リテールメディアが注目されている理由の1つは、小売販売店・広告主・消費者のそれぞれにメリットがあることです。つまり、リテールメディアは「三方良し」の広告手法といえます。ここでは、立場の異なる3者のメリットについて解説します。
小売販売店・ECサイトのメリット
小売販売店・ECサイトのメリットは、リテールメディアにより広告収入を得られることです。自社の持つ顧客データや広告枠を活用し、新たな収入源を創出することで、経営の安定化や競争力の強化が図れます。また小売販売店では、店内のデジタルサイネージによる効果的なプロモーションで、消費者に購買を促せるので売上アップも期待できます。
広告主のメリット
広告主がリテールメディアを利用するメリットは、小売販売店が持つ顧客データ(1st Party Data)を活用できる点です。Cookieの規制強化により3rd Party Dataを収集するのが困難になっているなか、1st Party Dataを利用することで質の高いターゲティングを実現できるためです。
例えば、ECサイトであれば顧客の行動履歴や購入履歴などに基づき、ターゲティングができます。小売販売店であれば、売り場と関連した広告を表示することで、購買意欲の高い顧客に訴求できるでしょう。
広告主にとっては、購買意欲の高い顧客の訴求に資金を使えるのがメリットといえます。
消費者のメリット
リテールメディアの消費者のメリットは、興味・関心のある情報を得られることです。
リテールメディアはデジタルサイネージやECサイトの広告枠などで、興味・関心のある情報を必要なタイミングで得られます。また1st Party Dataを活用しているため、消費者の関心の低い情報配信が削減されるのもメリットです。
これらのメリットにより、消費者の高品質な購入体験につながります。
リテールメディアの事例
日本でリテールメディアはあまり馴染みがないため、実際にどのようなマーケティング方法なのかイメージしにくいかもしれません。そこで海外・国内のリテールメディアに取り組んでいる企業の事例を紹介します。
ウォルマート
ウォルマートとは、アメリカに本社を置くスーパーマーケットチェーンです。アメリカに4,700店舗以上を出店し、ECサイトの運営もおこなっています。すべてのチャネルの集客数は1週間で1.39億人です。
集客力を生かし、リテールメディア事業の2022年度の売上高は27億ドルでした。具体的にECサイトの広告枠、実店舗のテレビスクリーン・デジタルサイネージ、セルフレジのスクリーンなどで広告を表示しています。
ウォルマートのリテールメディア事業の総売上高に占める割合は0.44%です。しかし、総利益に占める割合は5%を超えており、リテールメディアの利益率の高さが注目されています。
Amazon
出典:Amazon
Amazonは有料のプライム会員が2億人で世界有数のECモールです。
Amazonのリテールメディアの広告枠は「スポンサーディスプレイ広告」に加えて、検索内容に合わせた「スポンサープロダクト広告」、広告主の商品を集めた「ストア」があります。
リテールメディア事業では2022年に377億ドルを売り上げており、同社売上の7.5%を占めています。
セブン-イレブン
出典:セブン-イレブン
国内の大手コンビニチェーンを運営するセブン-イレブンは、2022年9月に「リテールメディア推進部」を設置しました。
リテールメディア事業は、アプリで告知バナーや動画広告を配信したり、値引きクーポンを配布したりしています。また店舗内にデジタルサイネージを設置し、広告配信をおこなっています。
これらの取り組みにより新商品の認知度向上や、顧客にマッチした商品の提案が可能です。
メーカー側からすると、自社商品を販売している場所で直接顧客にアピールすることで、自社商品を手に取ってもらえると期待されています。
ファミリーマート
出典:ファミリーマート「ファミマのアプリ」
ファミリーマートは2023年にリテールメディア事業に参入しました。同社は自社アプリの「ファミペイ」を運営しており、アプリのダウンロード数は1,500万を超えています。ファミペイと店内に設置したデジタルサイネージによる広告表示により、5年後には100億円の利益を上げることを目標に掲げています。
リテールメディアを活用し売上アップを図ろう
リテールメディアは、小売販売店・広告主・消費者のそれぞれにメリットがあるマーケティング手法です。小売販売店・EC事業者はリテールメディア事業により新たな収入源を創出できます。広告主は購買意欲の高い消費者に自社商品を訴求できるので、費用対効果を高めやすい広告といえます。海外で注目を集めているリテールメディアをいち早く活用し、売上アップを図りましょう。