JNTO(日本政府観光局)の調べによると、2023年11月の訪日観光客数は244万人でコロナ流行前の2019年と同水準でした。6カ月連続で200万人を超えるなど、訪日観光客数は堅調に回復しており、今後もインバウンド需要が増加すると予想されています。
そのようななかで注目されているキーワードは、ナイトタイムエコノミーです。
ナイトタイムエコノミーとは夜間帯の経済活動のことで、夜遊びのコンテンツの充実で消費拡大につなげる考え方です。本記事ではナイトタイムエコノミーの概要やメリット・デメリット、事例について紹介します。
参照:JNTO「訪日外客数(2023年11月推計値)」
Contents
ナイトタイムエコノミーとは
ナイトタイムエコノミーとは、夜間帯の経済活動のことです。国土交通省観光庁では、18時から翌日6時までの活動と定義しています。具体的には居酒屋やバー、美術館の開園時間の延長、芸術や音楽のナイトショーといったコンテンツの充実です。夜ならではの経済活動を創出することで、経済効果を高められると期待されています。
参照:国土交通省観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」
海外の主要都市のナイトタイムエコノミー市場規模
インバウンドが増加するなか日本の課題は、夜間帯の楽しみが不足していることです。一方、海外の主要都市ではナイトタイムエコノミーの充実により、大きな経済効果を得ています。イギリスのロンドンの市場規模は約3.7兆円で、アメリカのニューヨークは約2.1兆円です。アメリカではバーやクラブ、ミュージカルなどの娯楽の充実や地下鉄の24時間運行がナイトタイムエコノミーを支えています。
東京のナイトタイムエコノミーのポテンシャルは約5兆円(*)との試算もあるため、日本でも海外の主要都市のように取り組むことが必要と考えられています。
*参照元:
ナイトタイムエコノミーが注目される背景
日本では訪日外国人旅行客の増加にともない、2016年以降にナイトタイムエコノミーが注目され始めました。日本でナイトタイムエコノミーが注目される背景は、以下の3つの理由があります。
- インバウンド需要が増加している
- 訪日外国人旅行客の消費額を増やせる
- 規制緩和で経済効果を創出できる
インバウンド需要が増加している
出典:国土交通省観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
ナイトタイムエコノミーが注目される背景は、インバウンド需要の増加です。
訪日外国人旅行者数は2016年に2,000万人を超え、コロナ流行前の2019年には3,000万人を超える規模にまで拡大しました。コロナ禍の自粛生活や規制により、2020年~2022年は激減したものの、2023年には回復の兆しをみせています。
訪日外国人旅行客の増加にともない、ナイトタイムコンテンツの充実が必要となっています。国土交通省観光庁が外国人1万人を対象にWebアンケートをしたところ、ナイトタイムコンテンツの満足度が低かったためです。とくに夕食後から就寝までの時間に楽しめるコンテンツが不足していると指摘されています。
参照:国土交通省観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」
訪日外国人旅行客の消費額を増やせる
ナイトタイムエコノミーが注目される背景は、訪日外国人旅行客の一人当たりの旅行消費額を増やすためです。
政府は2023年に新たな「観光立国推進基本計画」を閣議決定しました。その計画ではイン
バウンド回復を目的に、2025年までに達成すべき目標を定めています。2025年の目標値と2019年の実績値は以下のとおりです。
項目 | 2019年実績値 | 2025年目標値 |
---|---|---|
訪日外国人旅行消費額 | 4.8兆円 | 早期に5兆円 |
訪日外国人旅行消費額単価 | 15.9万円 | 20万円 |
訪日外国人旅行者一人当た り地方部宿泊数 | 1.4泊 | 2泊 |
訪日外国人旅行者数 | 3,188万人 | 2019年水準越え |
日本人の海外旅行者数 | 2,008万人 | 2019年水準越え |
アジア主要国における国際 会議の開催件数に占める割 合 | 30.1%(アジア2位) | アジア最大の開催国 |
訪日外国人旅行客一人当たりの旅行消費額を20万円以上にするには、ナイトタイムエコノミーの充実により消費額を押し上げる必要があります。
規制緩和で経済効果を創出できる
ナイトタイムエコノミーが注目される背景は、大規模な財政政策をせずとも規制緩和により経済効果を創出できるためです。例えば2016年に風営法が改正され、原則0時までとされていたダンス営業が一定の条件を満たせば24時間営業できるようになりました。このように規制緩和で新たな経済活動を促すことで、経済効果を創出できるとして注目されたのです。
ナイトタイムエコノミーのメリット・デメリット
ナイトタイムエコノミーのメリット・デメリットを以下の表にまとめました。
メリット | ・新たな経済効果を創出できる ・新たな雇用を確保できる ・訪日観光客の満足度向上につながる ・地域を活性化できる ・歴史・文化など既存のコンテンツを有効活用できる |
デメリット | ・人手不足を解決する必要がある ・騒音やゴミ問題、犯罪増加が懸念される ・夜間帯の医療や交通インフラの整備が必要になる |
ナイトタイムエコノミーのメリットは、昼のコンテンツを夜にも有効活用することで、新たな経済効果や雇用を創出できることです。しかし、少子高齢化・人口減少が進むなかで人手の確保が難しいことや、治安の悪化などが懸念されています。
国内のナイトタイムエコノミーの取組事例
ナイトタイムエコノミーを活用して、インバウンド需要を取り込みたい企業も多いでしょう。しかし、「どのようにしてナイトタイムコンテンツを展開すれば良いのか」は悩みやすいポイントです。ここではナイトタイムコンテンツの参考として、東京と大阪における取組事例を紹介します。
東京:東京パブクロール・Zouk Tokyo
出典:東京パブクロール
東京におけるナイトタイムエコノミーの取組事例は「東京パブクロール」です。
東京パブクロールとは、世界中から集まった仲間とともに3、4カ所のバーやクラブを巡り、東京のディープなナイトコンテンツを楽しめるツアーです。いわゆる「はしご酒」を楽しめるツアーといえます。世界中の人との交流ができることや、お気に入りのバーやクラブを、みつけられるのが魅力です。
ほかには、2023年に都内最大規模のナイトエンタメ施設の「Zouk Tokyo」が銀座にオープンしました。ラウンジスペースやバー、ダンスホールなどが設けられており、新たなナイトタイムコンテンツとして期待されています。
大阪:とんぼりリバークルーズ
出典:とんぼりリバークルーズ
とんぼりリバークルーズは、大阪の道頓堀川のクルーズを楽しめるコンテンツです。11:00便~21:00便まで運行しており、昼のコンテンツをそのままナイトタイムコンテンツとして活用している事例といえます。大阪のシンボルでもある道頓堀の街並みを「川から眺める」という非日常を楽しめるアクティビティで、観光プランやデートプランとして人気があります。
インバウンド需要を取り込むにはナイトタイムエコノミー
訪日観光客数はコロナ流行前の2019年の水準に戻りつつあります。そのため、インバウンド需要を取り込みたい企業は多いでしょう。しかし、日中のコンテンツは競合が多く、目新しいアイデアを生み出すのは容易ではありません。そこでコンテンツが不足し、多くの訪日観光客からニーズのあるナイトタイムエコノミーに着目してみてはいかがでしょうか。