ビジネスシーンでよく使われるマーケティング用語として、「ニーズ」と「ウォンツ」が挙げられます。「ニーズ」と「ウォンツ」この2つの違いを、皆さんは説明できますか?
マーケティングにおいて重要な考え方である「ニーズ」と「ウォンツ」の違いについて、把握しておく必要があるでしょう。今回はこの2つの違いについて説明します。
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ニーズとウォンツ
まずは、2つの違いから解説します。
「ニーズ」は英語にすると「needs」つまり「必要」という意味になり、「ウォンツ」は「wants」つまり「欲望」となります。ビジネスシーンでは「お客様の要求」を指します。そして、ウォンツは「ニーズ」に対する「具体的な欲望」を指します。
例えば、「お腹が空いたからラーメンが食べたい」という状況の「お腹が空いた」状態というのがお客様の要求である「ニーズ」になり、「ラーメンが食べたい」というのがそれに対する具体的な要望となります。
ウォンツとは、「具体的な欲望」を指しますが、これは、その人が帰属する社会により形成されニーズを満足させる対象のものです。つまりウォンツはニーズを満たす(困りごとを解決する)ための「手段」になり、ニーズは目指したい姿、いわば「目的」といえます。 先ほど例に挙げた「お腹が空いた」というニーズに対してであれば、「ラーメン」が手段であるウォンツに該当するのです。
「ニーズ」と「ウォンツ」は似ているように思えますが、本質的には異なります。「ニーズ」と「ウォンツ」をマーケティングに上手く活用することで、売上げや顧客獲得率を向上させ、他社との差別化を図ることが可能になります。ぜひ把握しておきましょう。
マーケティング戦略を考えるときに、最も基礎になる考えがニーズです。
ニーズとはマーケティング用語では、「欲求がみたされていない状態」のことを指します。
ニーズは人類の進化や道具、機械の発展を経て、技術と共に進化してきました。こうして進化してきたニーズをまとめたのは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローです。「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化した「マズローの欲求段階説」は有名です。
マズローによれば、人間の基本的欲求を低次から述べると
(1)生理的欲求、
(2)安全の欲求、
(3)社会的(所属と愛)の欲求、
(4)承認(尊重)の欲求、
(5)自己実現の欲求、
の順であるという。このマズローの欲求段階説は人のニーズを考える際の基準となります。
人のニーズが充足されてきた歴史を振り返ると、当初は全く生理的ニーズだけが問題とされていた段階から、やがてより高次のニーズへと一歩一歩進化してきたといえます。
個人の生涯を通じてニーズが変化してゆく過程も歴史的な進化とほぼ同じことが繰り返されます。より高次なニーズが生じるための主な条件は、それより低いレベルのニーズが少なくとも多少は充足されていることです。
5つの欲求(ニーズ)
生理的ニーズ
- 食べ物、水、呼吸、身体を動かすこと、休息、性、など
- 健康で快適な環境、住居、家具、衣類、など
- 感覚的ニーズの充足、新鮮さや感動を感じられること
- 身体的、精神的健康、などがあります
安全(存在)のニーズ
- 自由、安全の保障、自分自身の行動や仕事を自分で判断できるという感覚。同時に、誰かが自分の心配をしてくれている、助けてもらえる、誰かが責任をとって護ってくれているという感覚
- 生きてゆくうえでの安定した条件と将来に対する安心感。自分を取り巻く世界、事象、人々について十分に情報を得ているという感覚
- 自分が持っている認識(体系)の中に不調和(明らか矛盾や不一致)が存在しないこと、などがあります
所属と愛(社会的)ニーズ
- 家族、友人、他の人々との関係の維持と保護
- 何らかのコミュニティー、他の人々との係累に属していること
- 権力、高い地位、階層的昇進、義務、順応への願望
- 他の人々の面倒を見たい、他の人々に心配されたいという願望
- 尊敬を受けたい、自尊心を持つ権利、名誉・栄光・著名な人に認められたいという願望、虚栄、見栄
- 倫理的行為、道徳的規範遵守への願望、があります
承認(精神的)ニーズ
- 物見高さ、知的好奇心、学びたい、知識を得たいという願望
- 他のニーズを充足させる欲求をやわらげるゲームへの志向
- リスクへの欲求、リスク、抗争、障害の克服を通じた自己確認の欲求
- 新規さ、変化、自己改善、世界の改良への願望
- 自己表現、創造を通じた研鑽への願望、などがあります
自己実現ニーズ
- 親しい人びと(子供、親族)
- 同じコミュニティーの人びと、宗教的同胞
- 人間一般
- 文化、科学、芸術
- 何らか特定の目的
- ペット、他の動物、環境保全、など
以上のようないくつかのニーズは、お互いに矛盾することがあります。どちらのニーズが優先されるかは人の心理や育ってきた文化的環境によって左右されますが、その矛盾を解決することが進化の方向ということになります。
ウォンツからニーズを引き出す
ウォンツつまり手段は、顧客がまず思い浮かべるものです。そしてウォンツは、状況や場合によって複数存在するという点に注意が必要です。
数ある手段から顧客のニーズつまり目的を満たす最適な手段を見つけて、提供させることがマーケティングの役割となります。
そのためニーズとウォンツは常に連鎖、連動しています。
また、ニーズは抽象的、ウォンツは具体的であるという特徴もあるため、顧客によってはニーズがはっきりしないことも少なくありません。
そこで、ウォンツが具体的である場合、そこからニーズを引き出すことができます。方法は2つあります。
ウォンツからニーズを推測する方法
すでに述べたように、ウォンツは「○○を利用したい」「○○を手に入れたい」という気持ちがはっきりしています。そのため、把握しているウォンツからニーズを推測することで、消費者が本当に求めているものを察知できます。
飲食店を例にすると、お客様が「温かい麦茶をください」と注文したときに、「今日は少し肌寒いので温かいものが飲みたいのではないか」といったニーズを推測することができます。このとき、言葉だけでなくお客様の表情や仕草などを観察するとより推測がしやすくなります。
ニーズが推測できれば、さまざまな提案が可能です。
もし麦茶を提供していない店でも、ニーズを把握して「麦茶はありませんがホットコーヒーかホットウーロン茶ならあります」のような提案ができれば、「では、ホットコーヒーをください」などの注文につなげられます。
飲み物以外でも、「空調の温度を上げる」などのサービスにつなげることで顧客満足度を高めやすくなります。
ウォンツを深堀りしていく方法
ウォンツは、「なぜなのか」「その目的は何か?」といった質問で構造的に整理することができます。
例えば、ノートパソコンがほしいというウォンツ(手段)があった時には、なぜそれがほしいのかという質問を繰り返すことで、ニーズの深掘りが可能となります。
ノートパソコンがほしい ➡なぜノートパソコンがほしい?
→自宅で仕事がしたいから ➡なぜ自宅で仕事したい?
→通勤時間を減らせるから ➡なぜ通勤時間を減らしたい?
→趣味の時間を増やしたいから
ここまで掘り下げると、ノートパソコンがあることで趣味の時間が増やせる、というニーズまでたどり着くことができます。
ニーズを解明するには、質問を繰り返すことで最終的に明確な形が見えてきます。日常的にお客さんの話すことのほとんどはウォンツであり、手段の話なのです。これを深掘りし、ウォンツをニーズに変換することがポイントです。
BtoBへの応用
BtoBとは、企業が企業に対してものやサービスを提供するビジネスモデルで、BtoCは、企業が一般消費者に対してものやサービスを提供するビジネスモデルを指します。
ニーズとウォンツは、BtoBでもBtoCでも本質的には違いはありません。
ただし、BtoBは、費用対効果が最優先されること、さらに複数の利害関係者が存在するという点で大きな違いがあります。そこで、BtoBマーケティングでは、顧客の「ウォンツ(手段)」から「ニーズ(目的)」をとらえて施策を立てるのが一般的です。BtoB企業では、複数人により経済合理性の観点から購買を検討することが多いので、ニーズに合致する製品・プロダクトを選定し、提案する必要があるためです。
BtoBセールスの場合には、この効果の最大化を目指す必要があるのです。
しかし、テクノロジーが発達した現代では、プロダクト・サービスで差別化することは難しく、機能や価格は似たり寄ったりになりました。そのため顧客は、どのプロダクト・サービスを導入しても一定の効果を得られる。つまり、ニーズを満たせる状態にあります。
このように、差別化が困難な時代背景においては、顧客のニーズを理解した上で、あえてウォンツ(手段=願望)をとらえて施策を立てることも、マーケティングを優位に進めるために重要な場合が多くあります。顧客のウォンツを正確にとらえるためには、ターゲットとなる顧客のペルソナを明確化しておくことも求められます。
それを考えた場合に、組織構造フェーズ、各利害関係者でニーズが異なる事が多いです。
それは、各セクションに任されたミッションがあることと、最も重視されるべき上位フェーズの課題を理解されないまま言語化される事があるためです。
まずBtoBニーズは、大きなニーズ=大元のニーズに触れにくいという特徴があります。組織の誰の視点から見るかで大きく異なってきます。そこで、顧客の組織構造を比較しながら、どの視点からのニーズなのか確認すること、またBtoBのニーズ解明は、組織構造とセットで把握する必要があります。
どのようなニーズを引き出すべきか
基本的には、上位階層のニーズを引き出すことがポイントとなります。誰の視点のニーズなのかを意識する必要があり、担当者のニーズをヒアリングして提案しても、上司やそのセクションにとっての重要なニーズではなかったというミスが起こってしまうからです。
上位階層のニーズを引き出すことを意識することは、それだけその企業、決裁者、キーマンのニーズを引き出すことに繋がり、ひいては、提案に対しての費用対効果を伝えやすくなるのです。
担当者へヒアリングする場合にも、担当者ニーズのみではなく、組織構造がどうなっているのか、組織文化がどうなっているのか、そのセクションのミッションはなんなのか、利害関係者は誰が・どの組織があるのか、利害関係者の視点からはどんか課題、ウォンツがあるかという視点をもってヒアリングする必要があります。
また、経済合理性のあるニーズを引き出すことも重要です。
BtoBでは、顧客ニーズと課題はほぼ同義です。ソリューション提案とは課題解決とも言えます。顧客企業にとって課題はたくさんあるはずです。法人企業の購買意思決定は、顧客にとっての経済合理的メリットの有無で決まります。
経済合理性判断のポイントは顧客価値が定量化されていることです。定量化されてない価値は購買価格に反映されません。つまり、顧客ニーズヒアリングでは、定量化された経済価値まで掴む必要があります。
ニーズヒアリングでは単に課題感だけでなく、経済合理性を説明する定量情報まで把握しましょう。
まとめ
ニーズとウォンツは混同されやすいものですが、目的か?手段か?の視点で見つめ直せば区別できるはずです。ニーズとウォンツの違いを明確にすると、お客様の心の中を理解しやすくなります。
その上でニーズとウォンツを理解することで、BtoBマーケティングとして商材の売り方やニーズの捉え方が大きく変わってきます。また、伝えるべきポイントや、ターゲット設定も大きく変わってきます。そのため、BtoB領域でのニーズ把握をしっかり行う必要がありますし、この違いをマーケティングに活用することで先進的な戦略を立てていくことができるでしょう。