今注目の「インサイトマーケティング」とは?消費者のニーズを捉えたマーケティングの成功事例

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インサイトとは 

人間が気づいていない問題点や購入意欲を衝く心理を「インサイト」と呼びます。人間の深層心理に関係する部分です。消費者を対象としたインサイトであれば、消費者インサイトと呼んだりします。 

インサイトの理解は難しいですが、消費者や顧客のインサイトを衝く商品や広告を発信できると、消費者の認識や気持ちを変えることができます。もし、深層心理を捉えた商品であれば、消費活動は活発になり買いたいと思う人は増えるでしょう。なぜかというと、インサイトにより成功を手に入れた企業は多く、日清食品やフォルクスワーゲン(Volkswagen)と食品や自動車業界など様々な場所で活用されているからです。 

ニーズとの違い

ニーズについては知っている方が多いと思います。簡単に説明すると、消費者や顧客が「こうあって欲しい」と願うものがニーズです。つまり、生活する上で満たされていない状態のことです。今の状態に不満や不便を感じ、理想的なイメージとの誤差を埋めたいと思う感情とも言えるでしょう。 

例えば「靴底がすぐに擦れるので耐久性の良い靴底にして欲しい」のケースをイメージしてみましょう。この場合のニーズは「廃れにくくなって欲しい」であり、「耐久性の良い靴底」はWants(ウォンツ)と呼びます。今回、Wants(ウォンツ)については深くふれませんが、ニーズと混同されやすいので注意してください。 

ニーズについてイメージを深めたところで、「インサイト」と比較した場合の違いはなんでしょうか?不満や不便を感じていること?それとも、要求度合いの違い?でしょうか。ニーズと「インサイト」をあらためて整理してみましょう。 

・ニーズ:消費者に問いかけると分かりやすい答えが返ってくる 

・インサイト:消費者が不満や不便に気づいていないため、明確な回答が返ってこない。若くは、気づいていないので返答できない。 

 ニーズとインサイトの間には、このような違いがあると思います。つまり、消費者が気づいているのがニーズで、消費者が気づいていないのがインサイトと言えるでしょう。 

そして近年では「インサイト」も注目されています。その背景について説明していきます。 

注目されている背景 

現代の生活においても、不満や不便に感じる部分はあると思います。しかし、「その不満や不便は何んですか?」と聞かれると少し答えにくいと感じる方もいるのではないでしょうか。家電は揃えられるし、車やバイクと生活に合わせた移動手段も選べます。

ここでお伝えしたいのは、たくさんの便利なモノに囲まれた世界で生活しているので、不満や不便と感じるアンテナが鈍くなってきている可能性が考えられるということです。 

便利なモノやサービスに囲まれた生活を送れることは幸せですが、ビジネスの視点では、需要が見えにくくなったので、消費者の需要をこれまで以上に深く探る必要性があるでしょう。

「モノが売れない現代」を脱却するには消費者理解が重要で、消費者の心に訴えかけるには、消費者のインサイトを衝く発見が必要になってきます。消費者も気づいていない不便や不満を見つけられないと新たな需要を掘り起こすのは難しいかもしれません。 

そのため、インサイトを見抜く力が弱いと消費者の気持ちとはズレた商品開発やサービスの提供に繋がる恐れがあるでしょう。 

インサイトマーケティングの事例

それでは、実際にインサイトマーケティングで成果を上げた事例を紹介します。 

P&G

洗濯用洗剤「アリエール」を販売しているP&Gですが、新商品を発売した当初、売れ行きに頭を悩ませた時期があったのを知っていますか?売り上げが伸びない時に実施したのが、インサイトの見直しです。発売している商品には、消費者が無意識に抱えている問題を解決する力があると訴求した結果、消費者インサイトを衝くことができました。消費者が気づいていない問題を商品を通して意識させた成功例です。このように、消費者の認識を変えるインサイトをマインド・オープニング・インサイトと呼びます。 

(参考文献:USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 著者:森岡毅) 

アメリカの牛乳

アメリカの牛乳協会が取り組んだ事例です。この事例をきっかけに、消費者インサイトが注目され始めたとも言われています。 

1990年代のアメリカでは、牛乳の売り上げが伸び悩んでいました。そこで、消費者に調査を行ったところ「脂肪分の多さ」や「子供が飲むもの」のような印象を牛乳に対して持っていることが分かったそうです。牛乳協会は、この問題を解消しようとイメージを変える施策を打ち出しましたが成功には至りませんでした。 

再度消費者に対して調査を行ったところ、クッキーなどのお菓子を食べる時、牛乳も一緒に飲んでいることが判明しました。この調査結果から、クッキーなどのお菓子を食べる時、牛乳を必要としているというインサイトに気づき、その価値を認識させる「got milk?(ミルクはありますか?)」のメッセージを載せてプロモーションを実施。 

すると、消費者が牛乳の価値を再認識し、このキャンペーンは全米へと展開され成功の道を辿りました。 

(参考サイト:https://gmo-research.jp/research-column/consumer-insights) 

インサイトマーケティングの方法、ポイント

「インサイト」とは、人間が気づいていない問題点や購入意欲を衝く心理です。そのため、表面的には見えないためヒントにも気づきにくいでしょう。ここでは、インサイトマーケティングにおける方法やポイントを紹介します。 

SNS分析

今ではSNSを通じて、個人の意見やアイデアなどを簡単に発信できます。情報発信をする人の中には、近況を発信する人や共感してもらいたい悩みを投稿する人もいると思います。SNSを分析することにより、その人が抱えている問題をヒントにインサイトを発見できる可能性があります。実際にSNS分析から消費者インサイトを発見した事例があります。 

日清食品のカップ麺の消費者は若者が中心で、60歳以上の消費者は少ない状態でした。そこで、健康意識を強く持つシニア層を調査し、SNSのある投稿に目が止まり、豪華な食事の写真が投稿されていたそうです。その投稿から、食事に対し健康も意識するが美味しさや楽しさも求めているのではないかと消費者インサイトを発見しました。 

発見した消費者インサイトから、シニア層向けの新商品を開発し発売した結果、約6ヵ月程度で1,400万食までに達成しました。 

この事例から、SNS分析をすることで、消費者インサイトを発見できる可能性があるとイメージが湧いたかと思います。 

行動観察調査 

インサイトを探る別の方法として、「行動観察調査」という手法もあります。これは、消費者の行動を観察する調査方法です。具体的には、消費者の家へ訪問し生活状況を観察したり、スーパーなどで消費者の買い物シーンを観察したりする例が挙げられます。先ほど、アメリカの牛乳協会の事例を紹介しましたが、牛乳協会は「行動観察調査」からインサイトを発見しています。消費者の行動を観察することで、無意識にとっている行動を見極め、新たな訴求方法や需要の切り口の発見に繋がる可能性が「行動観察調査」にはあると言えるでしょう。

ターゲットの選択

これは、マーケティング全体の話にも繋がりますが「ターゲットを絞る」ことはとても重要です。資金、時間、人など限られた経営資源を消費者全員に投下することは、失敗する可能性を高めるということです。アメリカで有名なコメディアン、ビル・コスナー氏の名言に次のような言葉があります。 

「私は成功のかぎは分からないが、失敗のかぎは知っている。それは、全ての人を喜ばせようとすることである」 

コメディアンが言った名言ですが、マーケティングにも通ずるものがあります。インサイトを発見したい場合、ターゲットとなる消費者を絞ることが大切です。行動観察調査やSNS分析を行うにしろ、ターゲットを間違えると意味のない時間、人、資金を投入することになります。そのため、届けたい消費者を明確にすることが、インサイトを発見する上で重要なポイントとなります。 

注意点 

「インサイト」における注意点はいくつかあります。それらの内2つを紹介します。 

①インサイトは仮説 

消費者が気づいていない無意識領域を衝くため、インサイトを発見できたと思ったとしても、あくまで仮説であることを忘れないでください。インサイトを発見した場合、仮説から限りなく消費者の本音に近づけられるよう徹底した調査・分析が明暗を分けると思います。 

②人によってインサイトが異なる 

インサイトは行動観察調査やSNS分析などを使って洞察し発見していきます。ここで注意すべきことは、人によって洞察が違う可能性が高いことです。同じデータを見ても、データの見方や潜在ニーズとインサイトの区別ができていない方もいるでしょう。そのため、洞察した結果を複数人で確かめ合うことが重要です。 

インサイトを調べていく際、複数人で行う場合は意見を確認し合うことが大切でしょう。 

まとめ

インサイトについて、概要から実例と幅広く紹介してきました。インサイトの大切さが少しでもお伝えできれば嬉しく思います。 

現代の生活では、便利なモノが多く不便や不満が見えにくくなってきていると思います。消費者の表面的な悩みに寄り添った商品やサービスでは、消費者の心理を衝くモノには辿り着けないかもしれません。インサイトを見極めることができれば、消費者の心理に働きかけるサービスを提供でき新たな需要を切り開く道筋が見えるでしょう。 

限られた経営資源を最大限に活用するためには、”消費者との向き合い方”が今後の会社の未来を照らしてくれると思います。