新規事業の成功には、確度の高い事業計画の策定が必要です。
なぜなら、事業計画はプロジェクトの達成すべき目標や各部署の役割、業務内容、期限などを明確にできるためです。
しかし新規事業の策定は、既存事業との兼ね合いや他部署との連携がうまくいかず、難航することも珍しくありません。そのため、新規事業の悩みやすいフェーズの1つです。
今回、新規事業が軌道に乗せるまでのフェーズを以下の4つに分けました。
- 着想
- 市場分析
- 事業計画
- 合意形成
前回は着想と市場分析をお届けしましたので、今回は事業計画に焦点を当てて解説します。
本コラムは、弊社で開催したラジオ風ウェビナー
『マーケ思考×データ活用で切り拓く、新規事業アイデアの裏付けメソッド』
の一部内容を編集して、全3回のシリーズに分けてお届けします。
Contents
事例(事業計画編):食品OEMメーカーの場合
前回に引き続き、食品OEMメーカーの事例を紹介しながら、事業計画のポイントを解説していきます。
食品OEMメーカーの概要は以下のとおりです。
●これまでのあらすじ
10年にわたる利益の減少に悩んでいた「にっこり食品株式会社」は、大豆食品の新しい加工技術を生かした新規事業のプロジェクトを開始しました。着想で出たアイデアに対し、2カ月かけて市場分析を実施します。
その結果、市場性の明確化につながり、経営層からの「投資判断ができない」という不安の声は解消しました。しかし、次は実際にどのように事業を進めていくのか?について議論が噴出します。
●新たな課題
新規事業を実現するための各部署の新たな課題は、以下のとおりです。
製造部(ヒト):人員の確保はできるのか
調達担当(モノ):資材手配をどのようにすれば良いのか
製造財務担当(カネ):キャッシュフローをどのように組むのか
営業部(情報):販路拡大に必要な資料や段取りに何があるのか
このような課題を解決するためには、事業計画で各部署の役割や目標を整理する必要があります。次章は「にっこり食品株式会社」に対するセルウェルの支援内容を取り上げながら、新規事業の事業計画策定のポイントを紹介します。
事業計画策定のメソッドの手順
事業計画の確度を高めるには、以下の手順を行ったり来たりしながら当事者が納得のうえ、事業に取り組める計画を策定することが重要です。1~3の手順を繰り返すことで、経営層の目指す姿、部門長や担当の目指す姿がイメージできるためです。
1. ビジネス構造を俯瞰する
2. ビジネスに必要な機能や業務、コストを特定する
3. プロダクトの細部・現場を見る
ここからは「にっこり食品株式会社」の事例における、各手順の課題や支援について紹介します。
ビジネス構造を俯瞰する
事業計画ではシェアの目標や必要なコストのツリーを作り、ビジネス構造を俯瞰します。例えば、にっこり食品株式会社のOEMビジネス構造は以下のとおりです。
「受注分だけを作って販売する」というシンプルな構造で、製造原価や販管費よりも売上が上回るかどうかがポイントでした。しかし、新規事業はこれまでとは構造が異なります。
新規事業のビジネス構造で変更が必要なポイントは3つです。
ポイント①:営業目標や製造計画を立てる
新規事業では売れそうな分だけを作って販売します。このビジネスモデルでは、実現性のある販売目標や製造計画を立てる必要があります。
ポイント②:在庫管理が必要
新たなビジネスモデルは作った分だけ売れるとは限らないため、在庫が過剰にならないことや、反対に在庫がゼロとならないように在庫管理・生産調整をします。
ポイント③:営業先が異なる
新規事業の営業先は食品卸や小売業者で、新しい販路への営業が必要です。
ビジネスに必要な機能や業務、コストを特定する
にっこり食品株式会社では、次に「販路開拓」について、どのような販路が良いかを営業部とディスカッションしました。考えられる流通経路は以下の3つで、その中から流通網をスピーディに構築できることを重視し、「卸経由」が良いという結論に至りました。
このように事業計画の策定では、ビジネス構造を確認しながらビジネスに必要な機能や業務、コストを特定します。
プロダクトの細部・現場を見よう
事業計画ではプロダクトに対して、細部・現場を見ることが重要です。
ここでは、にっこり食品株式会社のプロダクトの細部である「販路開拓」の現場を見てみましょう。
にっこり食品株式会社は卸経由で取扱小売店網を拡大し、下記のようにマーケットフィット(商品が市場に受け入れられているかどうか)を確認しながら、販売額を加速度的に増やす計画を立てています 。
この計画を可視化すると以下のとおりです 。
現場目線で計画をチェックすると、営業部はこの計画を達成することに前向きでした。
しかし製造部門は、今の人員体制では販売計画の実現が不可能との結論に至ります。半年後・1年後まで対応できるものの、今の人員体制では2年後・3年後の加速度的に増える商品数に、生産量が追い付かないと判断したためです。
再度、ビジネス構造を俯瞰する
製造部門の結論をうけて、再度、製造部・営業部と決裁権者を交えてディスカッションを行いました。
3年後に事業を採算に乗せるには、損益分岐点を上回る売上が必要です。しかし、現状では製造部門の生産力がボトルネックとなり、3年後の販売計画の商品数を生産できず、採算に乗せられません 。
そこで、決裁権者に以下の3つの方法による生産力の増強を提案しました。
●採用・育成
雇用人材の拡大、中途採用、積極的な人材登用
●外注の検討
工数代のルーチン業務の洗い出し、マニュアル化、外注先の調査
●生産ラインの最適化・効率化
新製品と既存製品の中間財の一括清算、既存工程のスループット向上
この提案が経営層の了承を得られ、ボトルネックとなっていた生産力の課題を解決できたことで、にっこり食品株式会社の新規事業の事業計画ができあがりました。
また事業計画を進める際の注意点については、次章にて紹介します。
事業計画は実行しながら修正が必要
事業計画を策定しても、計画通りに進むのは稀です。プロジェクトを進めると事業計画と異なる点が出てしまい、実行しながら計画の修正が必要なためです。
とくにプロジェクトの継続・中止の判断に関わる前提条件は、事前に懸念点と確認すべきポイントを明確にしておくと良いでしょう。
にっこり食品株式会社を例にすると、懸念点や確認すべきポイントは以下のとおりです。
懸念点 | 確認するポイント |
---|---|
マーケットフィット | 小売店1店舗あたり日販数 ・推定水準か? ・減少していないか? |
販路開拓 | 新商品の取扱小売店数 ・伸びは順調か? ・取扱をやめた店舗数が想定外に増加していないか? |
生産力の増強 | 実効スループット(時間あたりの実質製造個数) ・販売数量に対し、不足していないか? |
採算性 | 営業利益率 ・黒字化に向けて改善傾向か? |
例えば、小売店1店舗あたりの日販数が大幅に減少した場合、前提条件と異なるため、3年後に採算に乗せられるかは不透明です。このようなポイントを明確にしておくことで、プロジェクトの継続・中止の判断が素早くできるためリスク管理にもつながります。
事業計画策定のカギは3つの手順を繰り返すこと
今回はセルウェルが支援した事例をもとに、事業計画の策定方法について紹介しました。成功のカギは、以下の3つの手順を必要に応じて繰り返すことです。
1. ビジネス構造を俯瞰する
2. ビジネスに必要な機能や業務、コストを特定する
3. プロダクトの細部・現場を見る
次回は新規事業の合意形成をお届けします。にっこり食品株式会社は事業化を目指すことができたのか、支援結果も紹介しますのでお楽しみに!