ニューロマーケティングとは?意味や活用事例、活用方法を紹介 

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ニューロマーケティング(neuromarketing)とは 

ニューロマーケティングとは、脳科学の技術などを使い人間の無意識における感情や行動の変化などを読み取る手法のことです。ニューロマーケティングにより、無意識領域における感情や行動の変化の理解を深められ、消費者インサイトを見つける手がかりや人間が無意識に求めている価値を追求できる可能性を秘めています。 

2002年にニューロマーケティングの言葉がメジャーとなり、今では海外を始め日本でもニューロマーケティングに取り組んでいる企業はあります。ニューロマーケティングの検証事例も含めた国内の代表的な企業を紹介すると、子供用玩具を販売しているバンダイ、食品メーカーの江崎グリコなどが挙げられます。その他にも、ゲーム開発や広告宣伝、購買行動の分野でも活用されています。 

具体的な調査方法は、脳波分析を始め、視線分析、表情分析などがあります。これらの分析で得た結果は単体で使わず、従来のアンケートやインタビューなどと掛け合わせて調査を実施していくのが基本的な方法です。 

これまでのアンケートやインタビュー、行動観察調査などの方法では、顧客が言葉に表せない感情まで読み取ることは困難でした。消費者インサイトを見つけたとしても、根拠を裏付ける数字やデータを探し出すことも難しいと思います。しかし、ニューロマーケティングの発達により根拠に近いデータを得られるため、不明確な部分が確信に近づき、感情の分析まで可能になってきています。

注目背景

国内でもニューロマーケティングを取り入れた企業は数多く、興味を持っている企業も多いでしょう。三菱総合研究所の世界市場予測では、2024年に2000億円になると想定しているようで数字でも注目度が想像できます。世界的にも注目されているニューロマーケティングですが、その理由はなんでしょうか?その謎を読み解いていきましょう。 

メリット① 「なんとなく」を分析できる可能性がある 

ニューロマーケティングの最大のメリットは、人間が言葉にできない領域の感情や行動の変化を可視化できることでしょう。マーケティングにおいて、消費者のニーズやインサイトの追求が重要視されており、あらゆるツールが開発されています。それらのツールを使い消費者が商品やサービスを購入した要因を解明しようとしても、「なんとなく」と回答する人が多いのが現状。人間の意思決定の95%は無意識に行っていると発表している研究もあり 

、「なんとなく」と答える回答者が多い理由も納得できるでしょう。 

ですが、ニューロマーケティングを活用することで「なんとなく」の不透明な部分を解明できる可能性があります。そのため、数多くの企業が取り組んでいると考えられます。

メリット② 感情をデータにできる

嬉しい・楽しい・不安・寂しいなど人間の感情を測定できるようになり、測定結果を複数人の客観的な視点で判断できるようになったのも、注目される背景にあるでしょう。 

これまでWebデザインや商品パッケージのデザイン、車の乗り心地などは主観的な感覚で表現されることが多く、カッコ良さや乗り心地の良さの本質を見抜くことは困難でした。ですがニューロマーケティングを活用することで、感情をデータ測定できるため複数の対象者データを比較でき共感部分まで解明できます。 

調査範囲を年代別に細かく設定すれば、デザインの良さや乗り心地の快適さを消費者層で分けた分析も可能でしょう。感情をデータに変換できる技術により、不明確な部分の裏付けとなる根拠を得られるようになったことも、ニューロマーケティングが注目される要因の1つと考えられます。 

使われている技術 

ニューロマーケティングに使われている3つの技術「アイトラッキング」「表情認識」「fMRI」を紹介します。 

アイトラッキング

言葉通り、人間の視線の動きを測定することです。アイトラッキングにより、視線を集中している場所、視線の動き方、視線を離すタイミングなど視線に関する詳細なデータを計測できます。視線を計測するのには理由があり、無意識下での人間の行動を読み解くのに有能だからです。 

アイトラッキングの技術は、マーケティング分野に限らず、学術研究を始め製品開発、空間デザイン、技能伝承など様々な分野で活用されています。広範囲な分野で活用されていることは、アイトラッキングにより効果的な改善の期待値が高いという見方もできるでしょう。 

マーケティング分野においては、店頭調査、パッケージ調査、広告調査に加えユーザビリティテストなどにも使われています。実際にユニリーバでは、アイトラッキング技術を用いて消費者とパッケージの関連性を調査しています。その他にトヨタ自動車もショールームにこの技術を使い、消費者が車を購入する時に見ている情報を理解するのに役立てています。 

トヨタ自動車の例では、車の特性、車体に貼り付けられたステッカー、プロモーション用品など、顧客がそれぞれの情報に目を通している時間を分析した結果、消費者の多くは内装に視線を集めていることが分かったそうです。 

アイトラッキングを活用することで、消費者が重要視している箇所を特定でき、無駄な情報を削減し有効な情報を厳選するといった思い切った施策ができそうです。 

表情認識

人間の表情から感情を読み解く技術が表情認識です。コンピューターが目や唇などの動きを認識することで、その人の感情を解明していく仕組みになっています。感情を読み解く技術を使い、接客業のトレーニングや広告調査にも活用されており注目されている技術です。 

富士通研究所では「表情」に加え「声」も認識し、認識精度を高める研究が進められています。営業やマーケティング分野で効果を発揮している表情認識技術ですが、認識精度を高め医療や自動車分野への応用を目指して研究しているそうです。 

明治安田生命では、表情認識技術を活用した表情トレーニングアプリ「心sensor fro Traning」を導入しており、全国約32,000人の営業職員の社用スマホに取り入れられています。 

fMRI(functional magnetic resonance imaging)

MRI技術を使い脳の動きを画像にする技術のことです。fMRI技術の仕組みは難しいので割愛しますが、脳の活動を可視化し反応を測定することで、人間の感情を読み解いていきます。 

画期的な技術ですが、fMRIを活用したマーケティング事例は数すくなく、事例情報を得にくいです。その背景には、医療施設や大学に設置されている特殊な装置を使う必要があり、その装置を操作する人の訓練も必要になることから、調査費用が高コストになることが挙げられます。 

ただ、海外の研究では、予測精度は従来のマーケティングツールよりも高く、30人未満の調査対象者を調査するだけで、市場規模の消費者行動までも予測できると判明しているそうです。加えて、fMRIのスキャンデータが行動調査データよりも予測精度がよいことも証明されているようです。 

わずか30人未満の脳の動きを測定することで、何十万人、何百万人もの購買行動を予測できるとなると、調査費用が高額でもその見返りを求める企業が出てくるかもしれません。 

活用方法 

2つの活用方法を紹介します。 

新商品の開発

資生堂は、口紅の新商品開発にニューロマーケティングを活用しています。2019年10月に使用感を評価する方法を発表しています。口紅を塗る前の想像と実際に塗った時の硬さや柔らかさといった使用感のギャップを、脳の血流量から判定する方法です。 

この例から、商品開発段階からニューロマーケティングを取り入れることで、人間の内面も探りながら商品開発を進めることができ、企業が提供したい価値と消費者が受け取った時のギャップを縮めることに役立ちます。 

ブランドの構築

ペプシとコーラを選り好みする消費者向けに、アメリカでとある実験が行われました。検査対象者に「コカコーラ」と分かる状態にしたものと、ブランド名を伏せた状態のものを用意し、それぞれを飲んでいる時に脳の血流量をfMRIで計測しました。その結果、ブランドが伏せられた状態では、コーラとペプシの違いは生まれなかったのですが、ブランドが分かる状態ではコーラを好む消費者が多いことが判明しました。 

つまり、ニューロマーケティングを活用することで、自社ブランドのイメージ力を確認することができます。試飲によるアンケート調査だけでは味の違いの回答が多くなりそうですが、ニューロマーケティングにより人間の反応も読み取ることで、コーラを選ぶ深層心理を読み解くことができるでしょう。 

活用事例 

2つの活用事例を紹介します。 

『フリスク クリーンブレス』

引用:https://www.cleanbreath.frisk.jp/

実は『フリスク クリーンブレス』を発売する際、「ニューロマーケティング」に取り組んでいます。ニューロマーケティングの効果は同社の期待を大きく上回り、新商品のWeb動画は約2分と長めにもかかわらず、最後まで動画を観る顧客が多く、リテンションレートが77%にまで到達したそうです。その結果、Web動画からの売り上げと判断するのは難しかったようですが、製品全体の売り上げも伸び、ブランド内で最も売り上げが高かったのが『フリスク クリーンブレス』となりました。 

具体的に行った方法は、Web動画作成に「共感度測定」という手法を活用したことです。この「共感度測定」を用いて、消費者の心に残るポイントを脳波測定から導き出し、消費者に響くWeb動画へと仕上げていきました。 

これまでWeb動画やCMのコンテンツの良し悪しは、個人の主観的な感覚に頼る部分が多かったですが、ニューロマーケティングの出現により消費者が感じる感情を可視化でき、客観視できるようになりました。

『バイオハザード RE:3』 

ゲームソフトメーカーの株式会社カプコンは、『バイオハザード RE:3』の開発にあたり初めてニューロマーケティングを活用しました。活用した結果、期待通りのデータを得られた部分と改善すべき点を明確に分けることができ、作成現場への課題提示も分かりやすくなったそうです。『バイオハザード RE:3』の開発に携わった関係者からは、「データという根拠があることで課題が明確になり、また、恐怖感や緊張感を意図的に高めるシーンを作ったがプレイヤーに伝わっていないことも分かり、ホラーの原点を再度探る必要がある」ともコメントを残しています。 

ニューロマーケティングにより、作成者の意図とプレイヤーが感じる部分のズレが明確になれば、具体的な対策へ行動でき消費者とのギャップが縮まるでしょう。 

今後の課題 

人間の行動について理解を深め、ビジネスに応用していくことがニューロマーケティングの最大の強みですが、やはり追求しすぎることに倫理の視点から反発の声もあるそうです。これらの技術により、消費者にとって便利なものを開発したり、人々の生活が豊かになったりと良い面をアピールしていくことも重要な課題かと思います。 

また、脳科学の技術のため精度の高さも信頼できると思いますが、あくまでも信頼度や確信度が上がる手法のため、活用する場合は鵜呑みにしないことが重要でしょう。 

今後も研究が進みさらなる精度の向上も見込まれ、もっと身近な存在になると思いますが、仮説と検証の両輪は未来でも大切になるでしょう。