終身雇用の変化

日本企業の大きな特徴である終身雇用制度は、近年にかけて変化しつつあります。また、コロナ禍の影響によってさらなる変化が見込まれています。

これからの時代に、どのように雇用制度は変化していくでしょうか。

終身雇用とは何か

終身雇用とは、企業が正規社員を定年まで雇用することです。これは日本の雇用制度の大きな特徴といえます。具体的には、特に男性はイタリアに次ぎ2番目に平均勤続年数が長いです(厚生労働省、「第2節 日本的雇用システムと今後の課題」、https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/13/dl/13-1-5_02.pdf、p156)。日本は国際的にも終身雇用を採用している国だといえます。また、実際に日本企業の大半は終身雇用制度を肯定的に捉えています(同上、p172)。日本では、一度入った会社に定年まで勤めることを前提とする終身雇用が大きな特徴となっているのです。

では、どうして終身雇用が日本では肯定的に採用されるのでしょうか。それは、1950~60年代にかけての高度経済成長期において、企業と正社員それぞれにとって利益が極めて高かったことから始まりました。例えば、もし3年で辞職する社員を雇った場合、企業側からすると教育費として掛けたコストが自社に返ってくる割合は少ないです。また、社員にとっても3年後にはどのようにお金を稼いでいくかといった視野が必要になり、リスクも含まれます。しかし、社員の定年まで雇用を続けることで企業からすると長期育成が可能になり、正社員からすると生活が安定しました。このように、労働力が必要とされた高度経済成長期の中で、企業と正社員の両社にとって安定性が増えるというメリットによって、終身雇用が肯定的に考えられるようになりました。

反対に、終身雇用のデメリットには企業の正社員のモチベーション低下が挙げられます。安定性は、裏を返せば労働の質が下がっても雇用が保証されることになるからです。仕事をどんなに怠っても定年まで雇用してもらえることを考えると、やる気が削がれていくことも納得できます。加えて、モチベーション不足で起こる効率の低下は、長時間労働につながります。業績悪化を労働時間で補うことになるからです。このように、モチベーション低下によって長時間労働が引き起こされる点は終身雇用制度のデメリットです。

以上のように、企業が正規社員を定年まで雇用することである終身雇用には、メリットとして双方にとっての安定性、デメリットとして効率の低下や長時間労働が含まれます。

終身雇用を信じている労働人口はどのくらい?

終身雇用を希望する労働人口は近年減少傾向にあります。なぜなら、年功賃金制(会社に勤める年数と比例して給与が上がる仕組み)が崩壊しつつあるからです。具体的には、1990年代から40歳以降の賃金はほとんど上昇しない状況になっています(内閣府経済社会研究所、「経済環境の変化と日本的雇用慣行」、http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis232/e_dis232.html)。長く会社に勤めても安定が確約されなくなったということです。その結果、終身雇用者の割合も大幅に低下しています。

なぜ年功賃金制は崩壊することになったのでしょうか。理由の一つに、日本社会の高齢化を挙げることができます。給与を多くもらう中高年期が増加することで人件費が莫大にかかることになるからです。具体的には、年功賃金制によってより多い賃金を与えられる50代の終身雇用正社員は、その数が多ければ多いほど企業の負担となります。人件費が中高年期の数に比例して増えることで、企業は甚大な負担を抱えることになるのです。このように、高齢化による理由によって近年の年功賃金制は崩壊しつつあると考えられます。

労働は時間か産み出した価値か?

労働の価値を掘り下げて考えていくと、二つの対比する軸があります。終身雇用と密接に関係している年功主義と、その反対である成果主義です。具体的には、年功主義は労働の価値を時間によって考えます。労働時間は会社に勤める年数と年収が比例して増えます。能力と比例すると考えられるためです。反対に、成果主義は業務上の実力によって収入が決まります。生み出した成果に価値を置くのです。このように、労働の価値を時間か成果のどちらに置くか、年功主義と成果主義の二つの軸から考えていくことができます。

ですが、費やした時間で労働の価値が測られる時代は終わりを迎えつつあります。上述のように、終身雇用は長時間労働によって効率低下の穴埋めを測る場合がありますが、果たして費やした時間がイコールで労働の価値と考えられるかどうかは、終身雇用制度が衰退していることから否定的に考えることができます。モチベーションの上がらない会社でダラダラと時間をかけて仕事をこなすよりも、新しく刺激的な環境で生産性を追求する方が生産効率が上がり、正社員と企業双方のメリットとなります。企業には無理なく利益を得ることが可能になり、その結果正社員は現実的な給与を得られます。このように、重視すべき価値は時間でなく生産性であるという考えが優勢し始めていることは、終身雇用の衰退の現状から考えることができます。

これからの雇用の形

日本の雇用形態が大きく変化を迎えたことで、企業と個人の関係も変わりつつあります。長期雇用型の半ば主従的な社員教育でなく、短期間の中で明確に提供できるスキルを持つ社員との対等な関係になっています。新卒で雇った社員に定年まで均一的な能力を求め続けるのでなく、会社の問題解決に必要なスキルを持った人材をその時々で採用していくためです。具体的には、均質に教育された能力の中で問題を解決するために忠誠的に勤めるのでなく、企業が必要とするスキルを提供するといった風になっていきます。このように、終身雇用制度の衰退によって企業と個人の関係が変わりつつあります。

では、こうした変化の中で具体的にはどのような人々が必要になってくるのでしょうか。それは、総合的な能力を持つジェネラリストから専門的な能力を持つスペシャリストへと移行することになると言えます。人材の流動性が求められるからです。具体的には、総合判断力の高いジェネラリストがひとつの問題を解決するよりも、その問題について専門性の高いスペシャリストが対処するほうがスピードが早く、また解決のためのコストも少なくて済みます。流動的にスペシャリストを採用する方が、年功主義によって給与が増大したジェネラリストを抱えるよりもアウトプットが大きく、企業にとってメリットになるのです。このように、雇用形態の変化によって、求められる人材は総合的な能力を持つジェネラリストから専門的な能力を持つスペシャリストへと変化していくことが考えられます。

コロナ後の働き方はどうなっていくか

コロナ禍が私たちの働き方にもたらした影響は計り知れません。従来の型をすっかり変えてしまうほどです。例えば、オンライン会議や通勤のあり方の変化があります。会社という場に行かなくても仕事が可能なことが、世界中の人々の常識となりました。また、テレワークの普及やノーオフィスを前提とする会社形態の出現も挙げられます。もはやコロナによって、かつてあったヴァーチャルとリアルの垣根が格段になくなっていきつつあります。このように、コロナ禍における仕事の在り方は私たちの働き方の常識を大きく変えることになったことが理解できます。

そればかりか、特に注目に値するのはジョブ型雇用の重視についてです。ジョブ型雇用とは、成果を評価していく態度の制度です。実際に、ウィズコロナ期における富士通の職場環境整備(https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/employees/system/)、日立の採用計画(http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2020/03/0330c.pdf)の発表などにおいて見られる転換です。両方とも、コロナ禍の動きを受けてジョブ型雇用制度の採用に力を入れる意向を明らかにしています。このように、コロナによって成果重視のジョブ型雇用が重視されることになったことは注目に値します。

では、これらの多大な働き方改革を受けて、アフターコロナにおいては働き方はどのようになっていくでしょうか。考えられることは、成果主義へのさらなる移行です。コロナを皮切りにして、人々の働き方に対する意識は大きく変わったからです。具体的には、約4割の人が自身の仕事の捉え方の変化を感じているとするアンケート結果があります(日経ビジネス、

「新型コロナウイルスで4割が『働き方に変化』 緊急アンケート」、(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/022501106/)。このような人々の意識の変化の中で、コロナで根付くこととなったヴァーチャルとリアルの一体化やジョブ型雇用の成果主義の考えは残っていくと予測されます。

以上のことから、コロナ禍がもたらした働き方の変化は、アフターコロナにおいても強く根付くものと考えられます。

その変化に向けて提供できる新しい価値とは

アフターコロナにおいて、求められる企業の行動とは一体何でしょうか。それは、不安定な状況で新たな価値を創出

していくことです。世界的に変化した状況においては、その分だけ多くのチャンスがあるからです。例えば、コロナによって圧倒的に進んだデジタル化においては、変化に追いつくための仕組みが十分に整っていない場面も多いです。変化のため、必要とされる仕事が増えるのです。このように、新たな価値を創出していくことがアフターコロナにおいて求められると言えます。

では、どのように提供すべきでしょうか。それは、生産効率を上げることで達成できます。スピードや技術が重要になるからです。変化をチャンスに変えるスピードの速さが、コロナによる世間的の変化に対応するために求められる働き方だと考えられます。