ヴィーガンは食事だけではない
一般に「ヴィーガン=食事における主義」というイメージが浸透していると思いますが、最近ではヴィーガンは「コスメティック」の分野でも関心を集めています。
そのため皮膚に触れるものである化粧品にもヴィーガンを求める人たちが増えているのです。実際にインスタグラムでは全世界で33万件もの#vegancosmeticsのハッシュタグがついた投稿がされています。
ヴィーガンコスメの定義、そしてクルーエルティ・フリー・コスメティックとの関係とは?
ヴィーガンコスメとは動物由来の成分を一切使用していないコスメ
前回の記事でもご紹介した通り、動物由来の成分を一切使用していないものを指します。具体的には、はちみつ、ラノリン、コラーゲン、卵白、カルミン、コルステロール、ゼラチンなどが挙げられますが、これらはあくまで代表的な成分に過ぎません。それらを一切含まないコスメを一般的にヴィーガンコスメと定義づけています。
しかしながらヴィーガンコスメとして成分を一つ一つ見ることは難しいと思いますが、その場合はThe Vegan Societyなど信頼できる組織の認証マークを得ていることで判断するのが賢明です。
また、ヴィーガンコスメと必ず合わせて語られる言葉に、クルーエルティ・フリー(Cruelty-free)があります。「動物実験を行わない」という意味で使われているフレーズで、ヴィーガンコスメの定義のなかには、動物実験の有無は含まれていないことから、ヴィーガンコスメブランドの多くが同時にクルーエルティ・フリーであることを表明しています。
動物実験無しの意思表示は、PeTA認証で見分ける
動物実験を行っていないブランドであることを証明するために多くのブランドではPeTAの認証マークを表示させていることが一般的です。
「People for the Ethical Treatment of Animals(直訳:動物へのエシカルな扱いを行う人々)」の略であるPeTAは、動物愛護を掲げる世界最大の団体として現在650万人を超えるメンバーおよびサポーターに支えられている団体です。
欧米で人気のヴィーガンコスメブランド
「ヴィーガン」は欧米においては比較的なじみ深いコンセプトになりつつあります。しかしながら日本ではまだ少数派であることから、今回は欧米ブランド発のブランドのなかから注目のブランドをいくつかピックアップしてみてみましょう。
INIKA
2006年オーストラリア・シドニーで創業したブランドで、オーガニックコスメブランドの草分的ブランドとして知られており、Organic Food Chain Australia、Vegan Society UK、Choose Cruelty Free Australia、Organic Cosmetic Italy、Certified Halalといった展開国それぞれの認証をしっかりと取得していることからも、その信憑性をうかがうことができます。
Kat Von D beauty
もともとタトゥーアーティストであるメキシコ出身のキャサリン・ヴォン・ドラチェンバーグにより立ち上げられたブランド。「LA ink」というアメリカのリアリティショーで一躍名をあげた彼女による本ブランドは、ダークでゴシックなブランドとは裏腹にヴィーガンコスメであることをブランドの軸にしています。現在はLVMHグループ傘下。
COVER FX
日本でもお馴染みのコスメブランド「M・A・C」を生み出した一人としても知られる科学者、ヴィクター・カセールが立ち上げたブランド。PeTA認証済みブランドであるうえ、科学者の観点からより安全でより良いパフォーマンスを導く材料のみを使用したブランドとして幅広い信頼を得ています。
AXIOLOGY
アメリカ・カリフォルニア生まれのリップスティックに特化したのブランド。美と倫理学から名付けられたブランド名は直訳で「価値論」という意味を表します。「怪しい成分のない」「動物実験のない」「搾取のない」「嘘のない」という4つのブランドポリシーを掲げており、PeTA認証も取得しています。成分はもちろん、黒とゴールドの印象的なトライアングル型パッケージはバリの廃棄材を使用しており、売上はオラウータンの生息保護に役立っています。
SPECTRUM
イギリス生まれのスペクトラムというブランド。ブラシおよび化粧ポーチといういわばメイクツールのみを展開するブランドですが、Vegan SocietyおよびPeTA認証を得ています。
番外編:Charlotte Tilbury
イギリスの同名有名メイクアップアーティストにより立ち上げられた本ブランド。イギリス国内ではセレブ愛用の著名なブランドとして人気を博しています。
ヴィーガンコスメブランドではないものの、見習うべきは「VEGAN FRIENDLY(ヴィーガンフレンドリー)」というカテゴリを設けている点。「動物実験をしていない商品」という定義のもと、スキンケア〜ポイントメイクアイテムまで幅広いアイテムをセレクトしています。
上述の定義に従えばヴィーガンコスメと定義付けはできませんが、あくまで「VEGAN FRIENDLY」。ブランディングの観点からすれば賢明なのかもしれません。
消費者がヴィーガンコスメを選択する理由
ここまでで、ヴィーガンコスメの隆盛の一部をご覧いただけたかと思いますが、それでは実際に消費者がヴィーガンコスメを選択する理由はなぜでしょうか?
「安全で身体に良い」というミクロ的な理由
一般的に、皮膚に触れるものである以上、できる限り安全で良いものを使いたいという消費者心理によるもの。
前述のように「ヴィーガン」がある種よく見るコンセプトになりつつある欧米においては、品質が微妙でもコンセプトが素敵だから愛用する、という傾向は薄くなりつつあるように感じます。そのため多くの化粧品がそうであるように、コスメとして優秀ゆえに選ばれているという点は肝に銘じておきたいところですね。
「地球環境保護につながる」というマクロ的な理由
自身の身体に対する影響を鑑みて、より肌に影響の少ない良いコスメを使うというポリシーを実践している人がいる一方、環境への問題を考慮した上でヴィーガンコスメを使用している人もいます。
それは、動物実験を行わないことの認証であるPeTAがヴィーガンコスメと並び謳われる状況が示しているといえるでしょう。
自分が気に入って愛用しているものが副次的に地球環境のためにもなっている。環境保護が叫ばれる現代だからこそ、この間接的な社会貢献の必要性を多くの現代人の心に響くのかもしれません。
ヴィーガンコスメを正しく謳うために必要なこと
ナチュラル/オーガニックコスメの曖昧さ
ところで鋭い読者の方々は疑問に思っているではないでしょうか?ヴィーガンコスメは、ナチュラルコスメと何が違う?オーガニックコスメとの違いは?と。
どちらも日本でよく聞く言葉ですが、ナチュラルコスメやオーガニックコスメの定義は非常にゆるく曖昧です。
ナチュラルコスメは、成分に自然由来のものが1%でも含まれていればナチュラルコスメと言えるとされています。オーガニックコスメも同様に、オーガニック由来の成分が数%程度含んでいればオーガニックコスメと謳うことが可能です。(ナチュラルとオーガニックの違いを説明してしまうとキリが無いので割愛しますが、)非常に安心感のある言葉の響きと裏腹に、どちらも非常に曖昧ないい文句なのです。
現に、日本でも「自然派コスメ」というコピーをよく目にしますが、「〜派」という文字が自明の通りそれらが本当に身体に(地球に)良いアイテムなのかは、実際に成分のひとつひとつを厳密に調べる必要があるようです。
認証機関からの信頼が頼みの綱。ヴィーガンコスメはブランドイメージ向上の一助
それに比べると「動物由来のものを一切排除する」というヴィーガンは比較的明確な定義になるでしょう。しかしながら前回の記事のなかでヴィーガンの定義をご紹介したものの、現時点において、ヴィーガンには法的な定義は存在しません。
上述でご紹介させていただいたブランドのなかに「VEGAN FRIENDLY」と名付けられてしまうことが、現状を物語っていると言えるでしょう。
一方で、コスメの成分や製造工程においてヴィーガンやクルーエルティ・フリーという事実は、ブランディング視点からみてもブランドイメージの向上に非常に有用であるとも言えます。適するのであれば、謳うに越したことはありません。
しっかりとヴィーガンであることを謳うためにも、信頼できる組織からの認証を得ることが現状もっとも適当な方法といえるでしょう。もしも自社のアイテムがヴィーガンやクルーエルティ・フリーであると自信を持つ企業の方々は、認証の取得を目標にしてみるのも良いかもしれませんね。
参考リンク
PeTA (People for the Ethical Treatment of Animals)
BTS WITH AXIOLOGY VEGAN LIPSTICK FOUNDER, ERICKA RODRIGUEZ
International Nomenclature of Cosmetic Ingredients (INCI)
Your ultimate guide to the difference between vegan, natural, organic, clean and fair trade beauty