インクルーシブネスという実感を得られるか。コワーキングスペースから考えるコミュニティ

コワーキングスペースとコミュニティ

いきなりですが、昨今よく聞くみなさん「コミュニティマネージャー」という言葉をどう説明しますか?

「コミュニティをマネージ(管理)する人」という定義で間違ってはいませんが、では「コミュニティ」とはどう説明できるものなのでしょうか。今回はコミュニティマネージャーがもっともわかりやすく常駐しているコワーキングスペースの幾つかを紹介しながら、コミュニティについて考えてみましょう。

コワーキングスペースがコミュニティ運営に重点をおいた背景

そもそもはコスト削減と利便性の両立のために生まれた

もはや都会においては歩けばぶつかるといっても過言ではないコワーキングスペース。その概念が生まれたのは、2001年のNYでSunshine Suitesというインキュベーションが発端です。

“ さまざまな企業の人々がオフィススペースを共有する仕組み。それにより、さまざまな機器や受付・保管サービスといった一般的なインフラストラクチャ、あるいは軽食や受取機能を使用することで、コスト削減と利便性を実現させる ”

これはコワーキングスペースの定義です。つまり当初「節約」とか「効率化」といったもののために場所を共有するという意味合いが強かったのです。

しかしながら20年弱の歳月のあいだに、テクノロジーは想像以上のスピードで進化したことで、カフェでコーヒー1杯買えばWifiも電源も使い放題の状態で仕事をしようと思えばどこでも仕事ができるようになりました。一方で、異なる事業を行っていても同じ場所に日々集い仕事をこなすうちにできる人との繋がりが、良い刺激や新たな仕事に繋がるようになったということも想像に容易いでしょう。つまり「節約」とか「効率化」をコワーキングスペースの第一の魅力として捉える必要がなくなったというのは間違いありません。

そうしてコワーキングスペースにおける新たな要素となったコミュニティ、空間や所属を共にする者同士でのコネクション。そこで今回は、特にコミュニティ運営として注目できるコワーキングスペースについて見てみましょう。

国境を超え新興するバラエティ豊かなコワーキングスペース

NY発クリエイティブ業界人に特化したNueuHouse(ヌエハウス)

https://www.neuehouse.com/

2011年に設立、現在ニューヨークとロサンゼルスに展開するNueuHouse(ヌエ・ハウス)。映画、ファッション、デザイン、出版、アートといったクリエイティブ業界で働く人々の貴重なハブの役割を果たし、順調に規模を拡大させています。来年にも3拠点目がロサンゼルスのランドマークでもあるBradbury Buildingにオープン予定。

注目すべきは日々メンバーのみのユニークなプログラムを積極的に開催していること。メンバーシップの選定において選考を経ていることから業界人とのつながりがさらなる業界のシナジーに貢献している状態です。

英ソーシャルクラブ発 Soho Works(ソーホーワークス)

https://sohoworks.com/

workspace for creative thinkers」をテーマに展開するコワーキングスペースSoho Works。
運営母体は1990年代よりクリエイティブ業界のソーシャルクラブとして現在世界に5万人近い会員を抱えるソーホーハウス。5年前にロンドン・ショーディッジに初拠点を構え、今年2ヶ所目を同都市にオープン、来年にはNYにもオープンを予定。

長年のクラブ運営で培った世界中のネットワークを基盤をもとに、スタートアップシーンやクリエィティブ業界の第一人者を招き積極的にメンバー向けイベントを行っています。英米にベースがあり、クリエイティブ業界に関わっている場合はぜひ押さえておきたいコミュニティと言えるでしょう。

女性に特化したNY発コワーキングスペース The Wing(ザ・ウィング)

https://www.the-wing.com/

女性が集えば、わたしたちはより遠くに、より速く、一緒に行くことができる」とサイトトップに掲げているように女性限定のワークスペース・コミュニティ運営を行うThe Wing。

日本でも最近は株式会社SHEによるシーライクスなどがありますが、女性限定コミュニティを牽引してきたのはNY発のコワーキングスペースとして始まったThe WIngと言えます。現在はアメリカのほか2019年秋にはイギリス・ロンドンにも進出し、来年には同都市に2拠点目もオープン予定。

日本でも動きつつある多様な形のコミュニティ

渋谷の新名所に生まれたShibuya QWS(キューズ)

https://shibuya-qws.com/

Question with sensiblity(問いの感性)」の頭文字をとって名付けられたという渋谷スクランブル15階に誕生したShibua QWS。年齢や専門領域を問わず、渋谷に集い活動するグループのための拠点として、会員制スペースとしての実験場を試みています。

ワーママたちの新しい職場づくり 88プロジェクト(ハハプロジェクト)

https://www.instagram.com/88project_/

「子育てに『週5フルタイムで復活する』と『専業主婦』のあいだの選択肢を。」というテーマで子育てと仕事の新しい形での両立を目指す実験をおこなっている88プロジェクト(ハハプロジェクト)。プロジェクトリーダーはもともとライター編集をされていた30代の女性の林理永さん。母になったことを機に、もっと柔らかな形での両立を目指しコミュニティを運営しています。これまでもお寺での臨時保育を試みたり、コワーキングスペースでイベントを開催するなど「空間」「コミュニティ」どちらも機能する形を模索しています。

BUFF コミュニティーマネージャーの学校

https://buff-community.jp/

コワーキングスペースはもちろんコミュニティのある場所に欠かせない人種といえばコミュニティマネージャー。数年前まで日本では外資スタートアップの日本支社くらいでしか聞かなかった役職ですが、今や日本でも数多くの企業が採用している役職になりましたよね。しかしながら需要に対してノウハウを培う場所がないという現状を受け生まれたのが「BUFF(バフ)」。日本で初の本格的なコミュニティマネージャー育成のコミュニティ「コミュニティマネージャーの学校」として、現在4期が実施中。「コミュニティ」について体系的に学ぶ近道かもしれません。

コミュニティ運営の本質は「つながり」を実感させること

利便性の向上と反比例するように孤独を感じやすい現代

SNSの発展とともにだれともいつでもいつまでも繋がっていることができるようになった21世紀。しかしながらその利便性の向上にまるで反比例するように、SNS重度の利用者は軽度の利用者たちと比較して、より孤独を感じやすくなっています

また(物価高騰が激しいアメリカ西海岸など)フルタイム社員に対しても、テック企業などを中心に100%リモート作業を推奨するという企業の動きも増えてきています。パソコンと向かって口ではなくチャットで手を動かして「会話」をし合って1日が終わる…そんなことも今後益々増えていくでしょう。

「インクルーシブネス」という実感

働く現代人がほとんどの時間を過ごしているという意味で今回はコワーキングスペースに特化しましたが、いわゆる「コミュニティマネージャーがいるコミュニティ」と言うのは昨今においてコワーキングスペースに限られたことではありません。

たとえば東京に拠点を構える月額会員制カレー屋 6curry。日本人に馴染み深いカレーを媒介(メディア)として、コミュニティ運営をするという実験をしています。月額メンバーシップ制を採用しており、会員は既存会員からの紹介がないとコミュニティにはアプライできない。ゆるやかに繋がりつつもクローズドなバランスを保つコミュニティとして注目されています。

また、そもそもコミュニティマネージャーという役職名がない時代から、教会や社寺ではそれぞれコミュニティというものは運営されてきました。ジェントルマンクラブが採用したメンバーシップというリファラルで拡大するコミュニティの概念もまた、現在のそれに酷似しています。

シーンや時代が異なりながらも、それら全てに共通しているものは「インクルーシブネス」つまり「含まれている」「ここに属している」という感覚を持っていることといえるでしょう。前述のとおり孤独の加速する現代だからこそ、この潮流をしっかりと追っていきたいですね。改めて、みなさんは「コミュニティ」というものをどう定義されますか?

参考リンク

Coworking (Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Coworking

Sunshine Suites
http://sunshineny.com/

世界と繋がる会員制コミュニティ「ソーホーハウス 東京」に初潜入!
https://www.vogue.co.jp/fashion/editors_picks/2019-04-12/mayumi-numao

Social Media Use and Perceived Social Isolation Among Young Adults in the U.S
https://www.researchgate.net/publication/314258481_Social_Media_Use_and_Perceived_Social_Isolation_Among_Young_Adults_in_the_US

Why ‘100% remote’ jobs work for the West Coast
https://www.ft.com/content/c74e43f6-eedf-11e9-bfa4-b25f11f42901