いま知っておくべきMaaSがもたらす未来の社会

MaaS 未来 社会

今年7月、トヨタが中国のモビリティ企業 Didi Chuxingとの合弁会社を設立するというビックニュースが飛び込んできたMaaS市場。2030年までに市場規模1兆ドル(約100兆円)とされるMaaS市場ですが、そもそもMaaSってなに?どうして注目されているの?これからどのような展開が待っている市場なのか?と聞きなれない方にとっては疑問ばかりのテーマなのではないでしょうか?

今回、いまもっとも注目すべき市場でもあるMaaSについて覗いてみましょう。

Contents

MaaSが盛り上がる理由とは?

MaaSとは“新しい移動の概念”

まずMaaSとは文字通り「マース」と読みます。「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の略で、サービスとしてのモビリティ、という意味をもちます。

MaaS は、ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイ カー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念
(MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について – 国土交通省より)

市場の盛り上がりの背景にあるのは社会が抱える「課題」

MaaSという単語を、連日のように新聞やニュースで目や耳にする機会が多くなっているかもしれません。そもそもMaaSが注目される理由のひとつに、MaaSが社会問題の解決につながるから、ということが挙げられます。

例えば日本では、すでに高齢化が大きな問題となっています。これにより地方ではいろんな手段がかつてのように公共交通を使うことが難しくなってきています。それまで地域住民の足として動いていた鉄道やバスが運営困難となり、廃止が相次いでいるというニュースをよく見かけませんか?

同じような理由で公共交通ならずとも、タクシーが利用できない地方というのも多いのが実情です。ドライバーが確保できないと言った人不足が原因となっているケースも少なくありません。そして昨今、タクシードライバーの人手不足というのが大都市でも起こり始めています。

このような社会の課題を鑑みて、これからは今までとは違う形の移動手段が必要となってくる、というある意味で大義名分があるのです。

現代の移動手段にあるさまざまな問題解決をするために、これまでの移動手段をこれからの時代に見合う形で提供すること。それこそがMaaSが必要とされ、そして隆盛をみせている背景になります。

レベル別!世界で定義されているMaaSの状況とは?

MaaS Allianceにより定義された0-4のレベル

さて、移動の新しい概念、と説明されても「?」が残るところですよね。社会問題の解決手段として盛り上がるMaaSは現在、レベル分けされ語られているのが一般的です。

これらはMaaS Allianceにより定められたもので、最終的な理想の社会状況をレベル4とし、レベル0〜レベル4に定義されています。

(MaaS Allianceについて:2016年発足、高度道路交通システムのリサーチや推進を行うERTICO – ITS Europeを中心に、ヨーロッパMaaS市場に関わる官民で構成された同市場発展の為の組織。現在、UberやSony、EuroStarはじめMaaS市場に関与するヨーロッパ中心の多くの組織・民間企業が参画しています)

レベル0:それぞれがサービスを展開しており、独立している状態
レベル1:複数のプラットフォームから情報を分析し、検索してくれる状態
レベル2:(レベル1の状態に加え)毎回、予約・支払いまでできる状態
レベル3:(レベル2の状態に加え)パッケージ化され購読できる状態
レベル4:政策やそれ以外のサービスとの統合ができる状態

下の図をご覧の通り、それぞれのレベルに相当するサービスが右側に列挙されたものに当たります。

日本国内でよく利用されているサービスについては、現状ほとんどがレベル0にあたります。独自サービスとして乱立している状態ですね。たとえば「Uber」「Japan Taxi」はレベル0、「ナビタイム」「Google Maps」などはレベル1に当たります。

Proposed topology of MaaS including Levels 0-4 (left) and examples (right)
Proposed topology of MaaS including Levels 0-4 (left) and examples (right)
引用元:http://www.tut.fi/verne/aineisto/ICoMaaS_Proceedings_S6.pdf

MaaS市場注目のサービス

全世界がベンチマーク、先行見本例「Whim」(レベル3)

MaaSモデル Whim(ウィム)
Whim(ウィム)
https://whimapp.com

現時点でMaaSとしてでもっとも成功している例として挙げられているのは「Whim(ウィム)」というフィンランド発のサービスです。現在はヘルシンキとアントワープのみで展開されていますが、「Whim」というアプリをDLするだけで、あらゆる交通サービスからの最適経路の検索や決済まですべてを完結させることが可能に。

料金形態はヘルシンキの場合、4タイプの展開。① 30日間62ユーロで電車、自転車、タクシー(10ユーロ分)が使える「Whim Urban 30」、② 週末のみの利用となる「Whim Weekend」、③ 499ユーロ/月で車、タクシー、公共交通そして自転車を乗り放題のプラン「Whim Unlimited」、そして ④ 一度の利用ごとに支払う「Whim to Go」。(価格形態は2019年7月現在)

旅行者や一時的な訪問者も、Whimさえスマホにダウンロードできればシームレスに最適な移動手段を利用することができるので市民はもちろん初めての観光客や時間を無駄にしたくないビジネスマンにも嬉しいサービスでしょう。

残念ながら、日本ではまだWhimのような統合型のサービスは登場していません。数歩遅れをとる形ではありながらもしかしながら、昨今注目のMaaSサービスが数多く生まれており今後に期待がかかるところではあります。なかでも注目のサービスを見てみましょう。

日本流のMaaSを進める注目サービス

全国タクシーの1/3を網羅、生まれ変わった「Japan Taxi」(レベル0)

タクシーが呼べるアプリ
Japan Taxi
https://japantaxi.co.jp

旧態依然とした業界ながら、変革期をむかえつつある日本のタクシー業界。その筆頭株として注目すべきなのは国内タクシー台数30%に当たる約7万台のタクシー配車が可能な『Japan Taxi』。

もともと『全国タクシー』というサービス名で2011年にローンチしていた、いわば国内配車サービスのパイオニア。アプリでのタクシー配車が当たり前となった昨今において今後のグローバル展開を見据えて2018年秋にアプリ名の変更に至っています。

日本を代表するモバイルモビリティプラットフォームとして、単なる移動にとどまらず「移動で人を幸せに。」というミッションそのままに、現在では航空会社からキャッシュレスサービスの提携に至るまで、さまざまな展開を積極的に行っており、国内MaaS市場での存在感を増しつつあります。

“近くを走る誰かのクルマをスマホで呼ぶ” スマート送迎「CREW」(レベル0)

スマート送迎「CREW」
スマート送迎「CREW」 費用の流れ
https://crewcrew.jp

一方ベンチャー企業のなかでも注目なのがAzitが展開する「CREW」。これまでのMaaSとは異なる視点を持ち、タクシーとは異なるサービス展開を見せています。もっとも異なるのは、ドライバーと利用者の関係性とそれに伴う料金設定。

実費+手数料、という運用コストに加え、利用者が「料金」として設定できるのは、ドライバーへの価格任意の「謝礼」。1回1回の利用体験が、個々のサービス体験として記憶されていく非常にユニークなサービスとして注目を浴びています。

「CREWはタクシーではない」と立場を明確にすることで、「“ありがとう” と “おもてなし”の循環を日本中に拡げる」というモビリティに止まらない世界観を広げているところも、企業の並々ならぬビジョンのようなものが垣間見ることができますね。

MaaS市場の発展の形

官民のどちらが主導?日本流MaaSがとる方向性とは

MaaS development models


MaaS development models

最終的に国(や自治体)政策との密接な関わりが必要になるMaaSですが、発達していくプロセスにおいてその方法は大きく分けて「市場(民間企業による競争)拡大」「官民連携」「官主導」の現状3タイプあるとされています。

現状、日本では比較的どのタイプに舵きりされるような決定的な動きは見られていません。3タイプすべてがどれもそれぞれで進められている段階、という印象です。

実際にMaaS Allianceが定めている「MaaSとは、様々な交通サービスを需要に応じて利用可能な 1 つのモビリティサービスに統合すること」という概念に加え、国土交通省では、「MaaS の定義や用法が多様化している」と、MaaSの概念を大きく2種類に分類するという独自の見解を見せてもいます。

【類型1】として従来の意味でもある「複数のサービスの統合」で「統合」に重きをおいたもの、そしてもうひとつ【類型2】は「新しい柔軟な交通サービス」。前者は割愛するとして、後者については以下のように述べています。

「オンデマンドバス、カーシェアリング、ライドシェアリング、自動運転サービスといった利用者のニーズに柔軟に対応できる ICT を活用した新しい交通サービス」であり、「鉄道や新幹線・バスなどが存在せず、バスやタクシーも十分な本数・台数がない場合には、新しいサービスが重要な役割を果たす」
(都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 第2回 MaaS概念の現状と捉え方に関する提案 並びに都市・交通計画と業界構造への影響に関する考察 より)

すでに複数の公共交通が発達している都市部においては【類型1】だが、過疎化などにより公共交通が十分に整っていない地域においては【類型2】が有効ではないか、という見解を述べています。

たしかに、高齢化が急速に進む日本だからこそ、都市部以上に過疎地域でのスムーズなMaaS導入が必要とされていますよね。そのことを踏まえて、できる限り最適で最短の経路での社会への浸透が望まれています。

MaaSの発達はモビリティ業界だけの話ではない?

元来、課題解決から端を発しているということだけあり、MaaSは断片的な話題で語ることは本質とずれる議論でもあります。というのも、移動の概念を新しくするという本質には、個々の生活向上や幸福度向上というものが前提にあり、あくまでもMaaSで語られるサービス(やその統合)は、その手段でしかないからです。

だからこそ、従来のように「ただ目的地にたどり着ければ良い」という概念を刷新する「なにか」をもたらすMaaSの今後は、私たちの生活をより豊かにしてくれる可能性が多大に込められています。

つまり、MaaSがもたらす変化は移動という行為に付随するものすべてに及ぶと考えられるでしょう。それはつまり、例えば顧客とダイレクトに関係する観光業や小売業といった業界などにおける変化は容易に想像がつくかもしれません。実際に、すでにそういった業界における大手企業がMaaSでのアクションを起こそうとしているのがなによりの理由です。

その一挙手一投足に注目するということが、モビリティ産業以外の産業にも求められてくる感性なのかもしれません。これから日本がどのような舵きりをしていくのか、だれか世界のMaaSゲームメイカーとなっていくのか、ひきつづきアップデートしていきたい話題ですね。

参考資料

ABI Research Forecasts Global Mobility as a Service Revenues to Exceed $1 Trillion by 2030
https://www.abiresearch.com/press/abi-research-forecasts-global-mobility-service-rev/

A topological approach to Mobility as a Service: A proposed tool for understanding requirements and effects, and for aiding the integration of societal goals
http://www.tut.fi/verne/aineisto/ICoMaaS_Proceedings_S6.pdf

Study on market access and competition issues related to MaaS
https://maas-alliance.eu/wp-content/uploads/sites/7/2019/07/Market-access-and-competition-issues-related-to-MaaS_final_040719.pdf

12Smith et al. (2018a), Mobility as a Service: Development scenarios and implications for public transport.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0739885917302500

MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について – 国土交通省 [PDF]
http://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf

MaaS を巡る国内の動向 – 国土交通省 [PDF]
http://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/71_1.pdf

モビリティクラウドを活用したシームレスな移動サービス(MaaS) の動向・効果等に関する調査研究(第一次中間報告(欧州調査)) – 国土交通省 [PDF]
http://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/71_3.pdf

MaaS Alliance
https://maas-alliance.eu/homepage/what-is-maas/

MaaS(Mobility as a Service)の現状と展望 / 日本政策投資銀行
https://web.archive.org/web/20190112134420/https://www.dbj.jp/ja/topics/report/2018/files/0000032052_file2.pdf

MaaSによって広がる新しい暮らしとビジネスの可能性とは?―手段からサービスに変わる「移動」の未来を探る
https://wisdom.nec.com/ja/business/2019022501/index.html

都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 第2回 MaaS概念の現状と捉え方に関する提案 並びに都市・交通計画と業界構造への影響に関する考察
http://www.mlit.go.jp/common/001260463.pdf

トヨタとソフトバンクが描く「MaaS市場の覇者」への道
https://diamond.jp/articles/-/183437

Toyota invests $600m in China’s Didi and sets up joint venture
https://www.ft.com/content/9822d470-aea2-11e9-8030-530adfa879c2

モビリティ革命、誰もクルマを買わなくなる時代の「予兆」と「リアリティ」:テクノロジーの地政学 対談
https://www.businessinsider.jp/post-182635