脳インプラントとは?注目される理由やニューラリンクの概要を紹介

2024年1月28日、イーロン・マスク氏が設立したニューラリンクは、人の脳にデバイスを初めて埋め込んだことを発表しました。

脳にデバイスやチップを埋め込むことを脳インプラントと呼び、脳の疾患に関する次世代の治療法です。脊髄損傷やパーキンソン病、あるいはアルツハイマー病などに効果があるのではと期待されています。

本記事では脳インプラントの概要や注目される理由、ニューラリンクについて紹介します。

Contents

脳インプラントとは

脳インプラントとは脳にデバイスやチップを埋め込み、電気信号を読み取ったり、送ったりすることで脳の働きを補完する治療法のことです。これまでの治療方法で対処が難しい疾患に対して、効果があると期待されています。

ただし、脳インプラントはメリットばかりではなく、デメリットもある技術です。例えば、脳インプラントを埋め込んだ際の感染症のリスクや脳を傷つけるリスク、さらには故障やサイバー攻撃による不正操作の可能性も指摘されています。

脳インプラントに期待されていること

脳インプラントは使い方次第で、生活の利便性の向上や病気の治療に役立つとして研究・開発が進められています。具体的に、効果があると期待されているケースは以下のとおりです。

・脳とコンピュータをつなぎ、意思表出をサポート

脳インプラントで読み取った電気信号を解析し、パソコンのカーソルを動かしたり、言葉を入力したりできます。脳卒中の後遺症などで手を動かせない方、上手く話せない方をサポートできるとして期待されています。

・うつ病の症状の軽減

従来のうつ病の治療は抗うつ薬の処方です。しかし、抗うつ薬では効果のない患者もいます。そのような患者に対して、脳に電気信号を流すことで症状を緩和できるとされています。

・脊髄損傷患者やパーキンソン病患者の運動機能の回復

脊髄損傷やパーキンソン病は、四肢などに脳からの電気信号を上手く伝えられず、思うように動けなくなる病気です。そこで脳と脊髄を無線インプラントで接続することで、脊髄損傷でも思うように四肢を動かせるとされています。

・アルツハイマー病患者の記憶力の回復

アルツハイマー病は高齢者の認知症の主な要因です。脳インプラントにより脳に刺激を与え、脳の記憶力を回復させることで、アルツハイマー病の治療に役立つと期待されています。

脳インプラントが注目される背景

脳インプラントは、近年注目されている新たな分野です。次世代の治療法として注目される背景は以下の4つが挙げられます。

・低侵襲な技術の登場

・AI技術の進歩

・新たな治療法への期待

・市場規模の拡大

それぞれの背景について解説します。

低侵襲な技術の登場

脳インプラントが注目される背景は、低侵襲なデバイスやチップの研究が進んでいるためです。

脳インプラントで脳に電流を流すには、脳に電極をつなぐ必要があります。脳に電極をつなぐデバイスは侵襲性が高く、脳を傷つけてしまう可能性もゼロではありません。そこで日本などで研究が進められているのは、頭蓋骨と脳の間に複数のシートを置くことで、脳の活動を測定するデバイスです。

このような低侵襲な技術の開発が進むことで、脳インプラントの施術のハードルを下げているのです。また高侵襲なデバイスについても、専用の手術ロボットを開発するなど、より安全性を高めるための研究が進められています。

AI技術の進歩

近年、AI技術の進歩が目覚ましく、さまざまな分野で活用されています。脳インプラントも例外ではありません。デバイスにより測定した脳波をAIで分析することで、脳の仕組みの解明や、新しいサービスの提供につながると期待されています。

例えば、脳波を測定しAIにより分析することで、スマホやパソコンへの入力の高速化ができるかもしれません。ほかにも日本語で考えたことを、多言語に自動的に翻訳して表出することも考えられます。

このように脳インプラントとAI技術を組み合わせることで、人間の可能性を広げられるとして注目されているのです。

新たな治療法への期待

脳インプラントが注目されるのは、脳挫傷やうつ病、てんかんなどの治療法として期待されているためです。

アメリカでは、530万人が脳挫傷による後遺症があるといわれています。脳挫傷の問題点は、脳が再生しないため、根本的な治療法がなかったことでした。その脳挫傷の治療に脳インプラントが役立つと研究されています。

実際に、脳に電流を流すことで感情をコントロールできるようになったり、認知テストの成績が向上したりといった効果も報告されています。このように、これまでに治療法がない病気に対して、症状の緩和や治療に役立つ可能性があるとして脳インプラントが期待されているのです。

市場規模の拡大

Kenneth Researchの「世界の脳インプラント市場:世界的な需要の分析及び機会展望2030年」によると、2022年の脳インプラントの世界市場は50億ドルでした。今後、年金平均成長率9.1%で急拡大すると予想されており、2030年には1.8倍の90.2億ドルに達する見込みです。

世界の主要国では高齢者人口が増加しており、アルツハイマー病やパーキンソン病などの有病率が上昇しています。これらの治療法として期待される脳インプラントは、急速に需要が高まっていくと考えられています。

ニューラリンクとは

出典:Neuralink

2023年1月28日、アメリカのニューラリンクは人の脳にデバイスを埋め込んだことを発表しました。ニューラリンクとは、イーロン・マスク氏が共同設立したブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を開発する企業です。

ブレイン・マシン・インターフェースとは、脳とコンピュータをつなぐ技術のことです。ニューラリンクでは、「Link」と呼ばれる脳インプラントや脳に埋め込むための専用ロボットの開発を行っています。

これらの技術は、重度のまひ患者のコミュニケーション能力回復や視覚障がい者の視覚支援、脊髄損傷の歩行支援に役立つと期待されています。

ニューラリンクの脳インプラントの特徴

ニューラリンクの脳インプラントの特徴は、直接脳に電極をつなぐことです。幅4~6μmという極細で糸状の電極をつなぐことで、特定の脳の活動を読み取ったり、電気刺激を与えたりできます。その電極の数は数千本以上になり、脳のさまざまな場所とリンクさせることで、精度を高められるとしています。

ニューラリンクの実験

ニューラリンクは人体に装着する前に、サルやブタなどで実験を数多く行いました。

例えば、サルに脳インプラントを組み込み、サルの思考からゲームをプレイできるようにするというものです。実験の様子はニューラリンクのYouTubeチャンネルで公開されています。

また、ブタの実験においては脊髄に埋め込んだ電極と脳インプラントを接続することで、足の動きの制御に成功しました。

ニューラリンクは動物虐待や安全性の懸念もある

上述したニューラリンクの動物実験は、動物虐待ではないかとの指摘や非難があります。脳インプラントを埋め込んだサルが死んだと報告されていることから、安全性に対する懸念も指摘されています。

ニューラリンクは脳に直接電極をつなげる高侵襲な方法を採用しているため、今回の人体への臨床実験では、人体への安全性が立証できるのかについても注目されているのです。

脳とコンピュータを直接つなぐ未来も近い?

今回、ニューラリンクが初めて人体に脳インプラントを埋め込みました。今後、臨床試験が進むことにより、疾病への有効性が確認できるかに注目が集まっています。

将来的には脳とコンピュータをつないで、人間の能力を強化するような使い方もできるようになるかもしれません。

脳インプラントはまだ技術が確立されていないものの、多くのビジネスチャンスがある産業といえるでしょう。