NTTのIOWN構想とは?何がすごいのかをわかりやすく解説

IOWN(アイオン)構想は、NTTが次世代戦略として掲げている通信基盤です。現在の通信基盤は5Gで、4Gと比較すると通信速度が大幅に向上しています。IOWN構想はその5Gよりも高速化・大容量化を実現できる技術で、インターネット通信などの利便性が飛躍的に向上すると期待されています。

しかし、「どのような技術なの?」「何がすごいの?」と感じる方もいるでしょう。そのような方に向けて、本記事ではIOWN構想の概要や実現すると起こる変化などをわかりやすく解説します。

Contents

NTTのIOWN構想とは?

出典:NTTグループ

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、NTTが次世代のインフラとして開発・研究を行っている通信基盤のことです。光技術を中心とした3つの核心的技術により、5Gよりも高速化・大容量化・低遅延化を実現できるとされています。2030年の実現を目指して、研究・開発が進められています。

IOWN構想実現の3つの核心的技術

IOWN構想の3つの核心的技術は以下のとおりです。

  • オールフォトニクス・ネットワーク
  • デジタルツインコンピューティング
  • コグニティブ・ファウンデーション

それぞれの技術をわかりやすく解説します。

オールフォトニクス・ネットワーク

オールフォトニクス・ネットワークとは、ネットワークから端末に至るまで、フォトニクス(光)ベースの技術で結ばれた通信網のことです。オールフォトニクス・ネットワークを実現できると、大幅な低消費電力化・高品質化・大容量化・低遅延化を達成できると期待されています。

NTTのオールフォトニクス・ネットワークの開発目標は以下のとおりです。

  • 電力効率を100倍に
  • 伝送容量を125倍に
  • エンド・ツー・エンド遅延を200分の1に

※エンド・ツー・エンド遅延とは、送信元から発信したパケットが宛先に届くまでの時間のこと。

オールフォトニクス・ネットワークの実現のカギを握るのは光電融合技術です。光電融合技術については後述します。

デジタルツインコンピューティング

デジタルツインコンピューティングとは、未来予測に役立つ技術です。具体的には、サイバー空間にヒトやモノを再現したデジタルツイン(デジタル上の現実世界の双子という意味)で、高精度なシミュレーションを行います。

これまでのコンピュータによる分析やシミュレーションは、ヒトやモノの単体を対象に行われることが主流でした。デジタルツインコンピューティングでは、ヒトとモノをサイバー空間に再現し、それぞれを組み合わせてシミュレーションすることで精度の高い未来予測を可能とします。

さらにNTTでは、サイバー空間のヒトを現実の人間により近づけるために、内面まで表現するための技術を研究・開発中です。関連技術には「音声認識」「音声合成」「感情・意図の理解」などがあります。

コグニティブ・ファウンデーション

コグニティブ・ファウンデーションとは、ICTリソースを全体最適化し、必要な情報をネットワークに流通させる技術のことです。「マルチオーケストレータ」と呼ばれる機能により、クラウドやネットワーク、端末などのICTリソースを最適に制御します。さらにデジタルツインコンピューティングにより得られる未来予測を用いることで、必要な情報量を予測し、流通させることが可能です。

この技術により災害発生時でも災害発生前に対策を実行し、通信機能を確保できると期待されています。

IOWN構想の光電融合とは?

光電融合とは、光回路と電子回路を融合させた技術のことです。IOWN構想の成功のカギともいえるほど重要な技術となっています。

現在使用されているCPUなどの集積回路では、電子回路が利用されています。電子回路の問題点は、消費電力が多いことです。例えば、スマホでゲームをしたり、動画を視聴したりすることで本体が温かくなった経験のある方は多いでしょう。これは電子回路に電気が流れた際に、電気エネルギーの一部が熱に変換されるためです。

このような熱は、電気エネルギーを無駄に消費する要因です。一方、光回路であればこのような無駄を省くだけではなく、遅延も起きにくくなります。

つまり光電融合技術を確立することで、消費電力の抑制や低遅延化を実現するのに役立つのです。消費電力を抑えられる技術であることから、カーボンニュートラルの実現にも貢献すると期待されています。

※カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を合算すると実質ゼロになること。

IOWN構想は何がすごい?実現したら変わること

「IOWN構想は何がすごいの?」と思う方もいるでしょう。そこでこの章では、実現すると起こる生活の変化について紹介します。

スマホのバッテリー残量が気にならなくなる

光電融合技術により電力効率を100倍に向上できると、スマホのバッテリー残量が気にならなくなるでしょう。例えば、現在のバッテリーでスマホが24時間使用できるとすると、電力効率が100倍になると2,400時間使用できることになります。この省電力化に加えて、無線給電技術を組み合わせることで、1年に1回充電するだけで十分になるかもしれません。

大規模なダウンロードも一瞬で終わる

IOWN構想では、高速通信・大容量化により1秒間に1,000Tbpsを超えるデータのやり取りが可能です。現在の光回線の一般的な通信速度は1Gbps、無線通信の5Gでは最大20Gbpsです。1,000Gbpsが1Tbpsなので、現在よりもはるかに大容量のデータを短時間でやり取りできるようになります。長編映画や大規模なオンラインゲームのダウンロードも一瞬で終わるため、利便性が飛躍的に向上するとみられています。

リアルタイムの遠隔操作が可能になる

IOWN構想では、エンド・ツー・エンド遅延を200分の1に短縮することが可能です。これにより、ほとんどタイムラグのない遠隔操作ができるはずです。リアルタイムの遠隔操作が可能になると、遠隔手術や自動運転車などがさらに普及すると期待されています。

渋滞が過去のものに

IOWN構想ではデジタルツインコンピューティングによる未来予測が可能です。車の渋滞の発生を事前に予測し、自動運転車の位置情報を管理・制御することで渋滞をなくせると期待されています。また、すべての車を制御することで事故がなくなるかもしれません。

NTTが目指すIOWN構想の海外戦略

IOWN構想は次世代のインフラとして、海外への進出も期待されている技術です。ただし、NTTには「iモード」などの先進的な技術を開発したにもかかわらず、海外に拡大できなかった苦い経験があります。

そこでIOWN構想では過去の反省を生かし、国内外の多くの企業と開発・研究を進め、グローバルな展開を目指しています。2020年には、構想に賛同する企業を集めるために「IOWNグローバルフォーラム」を立ち上げました。

現在120以上の企業が参加し、IOWN構想は世界規模のプロジェクトとなっています。

※「iモード」とは、NTTドコモの携帯電話向けインターネットサービスのこと。

2030年にNTTのIOWN構想は実現できるか

NTTのIOWN構想は2030年の実現を目指して開発・研究が進められています。実現すると、大容量化・高速化・低遅延化によりライフスタイルが大きく変わると予想されます。ビジネスにおいても影響があると考えられるので、今後もIOWN構想の動向に注目しましょう。