国内でトリュフの人工栽培に成功!市場規模や今後の展望を解説

2023年10月、岐阜県森林研究所は国内初の黒トリュフの人工栽培に成功しました。トリュフは世界3大珍味の1つで、フランス料理によく使われる高級食材です。

栽培技術を確立できると、国内の新たな産業創出につながると期待されています。本記事ではトリュフの人工栽培の概要や市場規模、展望などについて紹介します。

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黒トリュフの人工栽培に成功

岐阜県森林研究所は、2023年10月に国内で初めて黒トリュフの人工栽培に成功したと発表しました。同研究所は、農林水産省の農林水産技術会議の「森林資源を最適利用するための技術開発」において、森林総合研究所と共同で国産トリュフの人工栽培の技術開発を担っています。

トリュフの人工栽培は海外ですでに成功しており、その技術を参考に国内の環境にマッチしたトリュフの栽培技術の確立に取り組んでいます。

具体的には、2016年に黒トリュフの菌を採取したコナラ苗木を岐阜県内の試験地に植栽しました。その植栽から7年で、黒トリュフが人工的に発生したのです。同様に、2022年11月に白トリュフの人工栽培にも成功しています。

参照:森林総合研究所「国産の黒トリュフを人工的に発生させることに成功しました

そもそもトリュフとは

トリュフとは、フランス料理などによく使われる高級食材で、生きた樹木の根に共生する菌根菌類(きんこんきんるい)の1種です。

ここで、「国内でトリュフを収穫できるの?」と思う方もいるでしょう。

実は、1976年に国内でも自生しているのが発見されました。現在では20種類以上が確認されており、黒トリュフ・白トリュフともに日本で収穫が可能です。

トリュフはその芳醇な香りが人気の食材です。国産の黒トリュフ・白トリュフも独特の風味があり、人工栽培の技術の確立により、高級食材として流通できると期待されています。

菌根菌類の人工栽培が難しい理由

菌根菌類は、人工栽培が困難なきのことして知られています。例えば、日本で人気の松茸も菌根菌類の仲間で、人工栽培の技術が確立していません。

菌根菌類の人工栽培が難しい理由は、生きた樹木の根から養分を吸収するため、養分を直接きのこに供給できない点です。加えて、共生相手の植物とバランスを保ちながら成長するため、ゆっくりと成長するのも問題点です。また、きのこを作るきっかけも不明な点が多く、人工栽培を困難にしています。

なお、菌根菌類が共生する樹木は、ブナ・ナラ・カシ・クヌギ・マツなどがあります。

これらの理由から、コナラの苗木にトリュフ菌を接種し、植栽することで人工的に発生させるのが今回成功した人工栽培の仕組みです。

一方、椎茸やマッシュルームのように、木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)や腐植分解菌に属するきのこは栽培しやすく、純粋培養で栽培する技術も普及しています。

トリュフの輸入金額の推移 

トリュフは海外で人気の食材と思うかもしれませんが、国内でも需要が高まっている食材です。トリュフの輸入金額の推移は、以下のとおりです。

参考:農林水産省「農林水産物輸出入情報・概況

2003年のトリュフの輸入金額は3.2億円でした。2016年には10億円、2023年には20億円を突破しています。ここ20年で、輸入金額は約6.7倍に急拡大しているのです。

また国内で流通するトリュフは、ヨーロッパや中国からの輸入に頼っています。具体的な輸入の主要国は以下のとおりです。

国別 輸入数量・金額(2022年)

数量(kg)構成比輸入金額(億円)構成比
イタリア11,57155.3%14.9174.6%
フランス1,7748.5%2.0210.2%
スペイン9394.5%0.934.7%
オーストラリア8904.3%0.844.2%
中国4,72022.6%0.492.5%
その他1,0134.8%0.763.8%
合計20,907100%19.97100%

参考:e-Stat「農林水産物輸出入統計 / 農林水産物品目別実績(輸入)

イタリアが数量・金額ともに1位で、2位がフランスです。イタリアはトリュフの産地として有名で、なかでも「白トリュフ」は高額で取り引きされ、イタリアの輸入金額を押し上げている要因となっています。

世界のトリュフの市場規模

世界中でグルメ料理の人気が高まっており、トリュフの需要も急増しています。

Business Researchの「トリュフ市場規模、シェア、成長、予測、トレンド調査、2027」によると、2021年の世界のトリュフ市場規模は3.4億ドル(493億円)でした。今後、トリュフの市場規模は年平均成長率が8.35%で急拡大すると予想されています。2027年には、世界市場規模は5.5億ドル(797億円)に達する見込みです。

トリュフの人工栽培の課題

トリュフの世界市場・国内市場は拡大するとみられています。そのため、人工栽培の技術が確立すると大きなビジネスチャンスが生まれるでしょう。

しかし、トリュフの人工栽培にはまだまだ課題が多くあります。例えば収穫量の問題です。

森林総合研究所の今回の報告では、7年かけて収穫できた黒トリュフの量が2個(約50g)でした。ビジネスとして取り組むには、この収穫量では十分とはいえません。

他にも以下のような課題があります。

  • 安定して発生するかどうか
  • 発生までの期間を短縮できるか
  • 再現性を高められるか

このような課題を解決しようにも、菌根菌類がきのこを作る仕組みは解明されていないため、効果的な栽培方法を模索している状況です。トリュフ菌にオスとメスがあると明らかになったのは、2013年と比較的最近であることからも不明な点の多いことが伺えます。

つまり、トリュフの人工栽培の課題をクリアするには、さらなる研究が必要です。そのため、森林総合研究所では、実用化までに10年ほど時間がかかると見込んでいます。

トリュフの人工栽培は農林業の発展に貢献

トリュフの人工栽培は、農林業の発展に貢献すると期待されています。その主な理由は以下の3つです。

・休耕田・耕作放棄地を活用できる

トリュフを人工栽培するためのコナラ苗木などを植栽するには、用地が必要です。その用地に休耕田・耕作放棄地を活用することで、農業従事者の新たな収入源になると期待されています。

・木の保護になる

菌根菌類は木と共生し、木を強くするきのこです。菌根菌類には、菌糸で集めた肥料分や水分を樹木に渡し、土壌中の病原菌から木を保護する役割があるためです。つまり、トリュフの人工栽培は木を保護するので、林業に貢献できます。

・木が売れるまでの収入源になる

林業の問題点は、木が成長するまで長い時間がかかることです。そこで、林業とトリュフの人工栽培を同時に行うことで、木が売れるまでの収入源になります。木を保護しつつ、収入源にもなるので、林業の経営安定化に貢献できるでしょう。

10年後には人工栽培した国産トリュフが流通するかも

国内のトリュフの人工栽培は成功したものの、まだ始まったばかりのプロジェクトです。収穫量の増加など、実用化されるには10年ほどの時間がかかると見込まれています。

言い換えれば10年後には、国産トリュフを輸出する日が来るのかもしれません。ビジネスチャンスを逃さないためにも、今後のトリュフの人工栽培に関する動向に注目してみましょう。