アクティブシニア向けマーケティングと若年層に向けたマーケット創造の重要性

アクティブシニア向けマーケティング

セルウェル社ではこれまで、既存事業の推進から新規事業を成功に導くための各種調査を行い、市場構造を明らかにしてきました。その中で、昨今の日本企業における一つのトピックとなっているのが、「アクティブシニア」とも呼ばれる中高年の取り込みです。

少子高齢化が進む現在の日本において、中高年層に大きなマーケットがあることは確かです。しかし、長期的な視野で市場を捉えた時、はたして「アクティブシニアに向けた商品を作って売る」という発想だけでいいのだろうかという疑問も残ります。

今回は、現在の日本におけるアクティブシニア向けマーケティングについて考えるとともに、若年層に向けたマーケット創造の重要性についてもお伝えしたいと思います。

アクティブシニア向けマーケティングの裏にある「若年層の置き去り」

テレビ広告費イメージ

「若者のテレビ離れ」と言われて久しい昨今。2018年には、ついに世界の総広告費に占めるデジタル広告費のシェアがテレビ広告費を上回ったことが話題となりました。にもかかわらず、日本では今後デジタル広告費を半減し、再びテレビ広告費にシフトする企業が増えるという話もたびたび耳にします。
その理由の一つとしては、やはり日本企業の多くがターゲットとしているアクティブシニアの存在があるのでしょう。現在のマーケットを的確に捉えた選択と言えますが、長期的な視点で考えてみるとどうでしょうか。

冒頭でもお伝えした通り、最近では多くの日本企業が中高年の購買行動を強く意識しています。ただ中高年を意識するあまり、商品・サービスの仕様や企業と消費者間のコミュニケーションにおいて、若年層が置き去りになっているという課題も同時に浮かび上がってきます。

確かに中高年層のマーケットが大きいことは事実ですが、彼らが実際に商品やサービスを購入するきっかけとしては、若年層の存在も大きいはずです。
例えば、子どもや孫に何かを買い与えたり、若者の間で流行っているアイテムに触発されて新しいものを取り入れたりといったケースは往々にしてあるでしょう。

若者が新しいものに触れ、そこに新規性を見出すことでムーブメントが起き、中高年を巻き込んでいくことによってようやくマーケットが動き出すのです。
つまり、企業がターゲットとすべきはアクティブシニアだけでなく、彼らがお金を使うきっかけを生み出す若年層にも、もっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。

「freee」にみる新規層へのアプローチとその後の影響力

クラウド会計ソフト「freee」
https://www.freee.co.jp/

その事例の一つとしてご紹介したいのが、クラウド会計ソフトの「freee」です。2013年に誕生したfreeeは、リリースから5年を迎えた2018年時点で利用者数が100万事業所を突破し、クラウド会計ソフトの国内シェアNo.1という人気を誇っています。

経理に必要な会計ソフトとなれば、最初に狙うべきターゲットは当然経営者が多い中高年層になるでしょう。しかし、freeeでは個人事業主や小規模な企業の経営者など、これまで会計ソフトを使ったことがないような新規層をターゲットにしてきました

そして、その狙い通りfreeeはスタートアップ企業や若手の経営者の間で火が点き、それに感化された中高年層にも徐々に人気を広げていったのです。実際にユーザーの年齢層は30代から40代へとシフトし、本来会計ソフトを一番利用する層に近付いているという興味深い経緯を辿っています。

従来のメインユーザーではない層をあえて狙うというターゲット戦略は、一見すると無謀な挑戦のように思えるかもしれません。しかし、こうした新しい発想とそれに踏み切る勇気によって、freeeは国内シェアNo.1の座を手に入れたのです。
このように、あえて小さいマーケットから徐々に裾野を広げていくことで、大きなマーケットにアプローチしていくという発想と勇気は、多くの企業が見習うべきではないでしょうか。

参考

https://www.freee.co.jp/special/5th-anniversary/
https://ascii.jp/elem/000/000/915/915981/
https://ds.freee.co.jp/2016/04/27/freee-launch/

長期的な視点で見据えたマーケット創造の必要性

アクティブシニア向けマーケティングに代表されるように、今や多くの日本企業が「マーケットがあるところに手を打つ」という発想のもとに事業を展開しています。
翻って考えると、マーケットがないところには手を打てない状況に陥っているということでもあり、事業の“その後の広がり”をイメージできていないのかもしれません。

「欲しい人に欲しいモノを売る」という発想は、確かに堅実で正しい戦略です。しかし、それだけではマーケットを動かすほどの大きな影響力は生まれず、あくまでも応急処置としてただ絆創膏を貼っているだけに過ぎません。
大切なのは、商品やサービスが消費者にどういった影響を与えるのかをしっかりとイメージし、市場の構造そのものを創り出すことです。「メーカー」というのはただモノを作るだけのmakeではなく、マーケットを創造できるのが本当の意味でのメーカーなのではないでしょうか。

アクティブシニア向けマーケティングにしても、ただ彼らが求めるモノを売るだけで完結させず、若者が憧れを持って「大人たちが持っているモノが欲しい」「こういう大人になりたい」と思えるようなムーブメントを起こす仕掛けが重要です。その中で、新しい人たちにブランドを知ってもらう・ファンになってもらうことにより、マーケットはさらに広がっていくでしょう。
特に2020年の東京オリンピックや2025年の大阪・関西万博による盛り上がりが終息した後、縮小が予想される今後の日本市場においては、より長期的に市場を見据えた仕掛けをしていく必要があるのではないでしょうか。