国土交通省では、コンパクトシティをより進化させるために「ウォーカブルなまちづくり」を推進しています。そのため、日本の多くの自治体でウォーカブルの実現に向けた取り組みが加速しています。
この新たな潮流は、企業にとって大きなビジネスチャンスです。しかし、近年聞かれるようになった言葉であるため、「ウォーカブルの意味がわからない」という方もいるでしょう。
そこで本記事では、新規事業のアイデアを探している方に向けて、ウォーカブルの意味や海外・国内の事例を紹介します。
Contents
ウォーカブル(Walkable)とは
ウォーカブル(Walkable)とは、歩く(walk)とできる(able)を組み合わせた造語で、「歩きやすい」や「歩くのが楽しい」という意味です。車中心のまちづくりから、歩行や公共交通機関といった移動方法を中心とするまちづくりへのシフトを指します。例えば、歩行者が休憩できるようにベンチやくつろげる広場を設置するなどです。
ウォーカブルが注目される背景
国土交通省では、ウォーカブルなまちなかを「居心地が良く歩きたくなるまちなか」と定義し、取り組みを推進しています。そして、このまちづくりに賛同する自治体を「ウォーカブル推進都市」と呼び、2024年8月時点で381の自治体が参加しています。
このように、日本でウォーカブルが注目される背景は以下のとおりです。
- 住民の健康促進
- 地域の活性化
この章では注目される背景について詳しく解説します。
住民の健康促進
ウォーカブルが注目される背景は、移動手段を車から歩行にシフトすることで、車の排気ガスによる大気汚染が軽減して近隣住民の健康促進につながるためです。また、歩行の機会が増えることで気分転換やストレス発散、健康増進効果も期待できます。国土交通省の調査では、1日あたりの歩数が1,500歩増えることで、年間35,000円の医療費抑制効果があると試算されています。
参考:国土交通省「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドラインの概要」
地域の活性化
ウォーカブルなまちづくりは、魅力的な地域として世界中に発信できるため、観光客の増加などにより地域の活性化につながると期待されています。実際にアメリカのニューヨーク・タイムズスクエアでは、2010年以降に車道を歩行者専用道路に転換したことで、同地区への来訪者数が11%増加しました。他にも同様の政策をしたニューヨークのブルックリン地区の店舗では、近隣地域よりも47%も売上がアップしたという報告もあります。
参考:国土交通省「第6回 都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」
ウォーカブルに参加する企業のメリット
ウォーカブルの実現には、官民連携による取り組みが不可欠です。そして、参加する企業にもメリットがあります。この章では、ウォーカブルに参加する企業のメリットを紹介します。
企業のメリット① ビジネスチャンスを獲得できる
企業がウォーカブルなまちづくりに参加するメリットは、新たなビジネスチャンスを獲得できることです。例えば、ウォーキングツアーの開催やカフェの運営、歩行者をターゲットにした新たなビジネスなど、様々な事業案が考えられます。他にも、効果測定のために、人流を把握するカメラやアプリケーションといったハード・ソフトの需要が高まるかもしれません。また、ウォーカブルに取り組む自治体が増加傾向にあることから、今後の成長が期待できるのもポイントです。
企業のメリット② 支援制度を活用できる
企業がウォーカブルに参加するメリットは、豊富な支援制度を活用できることです。企業が活用できる支援制度の一覧は以下のとおりです。
●国土交通省の「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくり支援事業一覧
- まちなかウォーカブル推進事業(社会資本整備総合交付金/補助金)
- ウォーカブル推進税制(固定資産税・都市計画税の軽減)
- 官民連携まちなか再生推進事業(補助金)
- まちなか公共空間等活用支援事業
出典:国土交通省「「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくり~ウォーカブルなまちなかの形成~」
上記の支援制度を活用することで企業は、公共空間を活用できたり、補助金を受けられたりします。
例えば、ウォーカブル推進税制では、市町村が指定した「滞在快適性等向上区域(通称:まちなかウォーカブル区域)」内において、一体型滞在快適性等向上事業の制度を活用できます。
一体型滞在快適性等向上事業は、官民連携による「居心地が良く歩きたくなる」空間の形成を後押しするために創設された制度です。具体的には自治体が車道の広場化・ウォーキングルートの整備などの事業をします。そして、企業が1階店舗のガラス張り化、店舗の軒先にベンチやオープンテラスの整備などをすることで、固定資産税・都市計画税の軽減措置などの支援を受けられます。
出典:国土交通省都市局 まちづくり推進課 官民連携推進室「官民連携まちづくりポータルサイト」
ウォーカブルなまちづくりの海外・国内の事例
ウォーカブルなまちづくりは、10年以上前から海外で取り組まれてきました。そこで、この章では事業案の参考となるように、海外と国内の事例を紹介します。
イギリス:Healthy Streets
出典:London City Hall「Healthy Streets」
イギリスのロンドンの事例は、Healthy Streetsです。Healthy Streetsは、ロンドン市民が車の使用を減らし、歩行、自転車、公共交通機関の活用を増やす取り組みです。以下の2つの目標を掲げています。
・2041年までに、ロンドン市内における移動の80%を歩行、自転車、公共交通機関にする
・2041年までに、ロンドン市民全員が毎日少なくとも20分のアクティブな移動(歩行など)を行う
上記の目標を実現できると、85,000人の股関節骨折を予防し、認知症患者が19,200人減少すると試算されています。その結果、今後25年間で医療費を17億ポンド(3,230億円)削減できるとのことです。※1ポンド=190円換算
フランス:15分都市
出典:Ville de Paris「Crèches, cours d’écoles et de collèges sont ouvertes au public le samedi」
フランスのパリの事例は、15分都市です。15分都市とは、自宅から歩行や自転車で15分以内に、学校・職場・食料品店・医療機関・公園・スポーツ施設などのあらゆる機能にアクセスできる都市のことです。2020年にパリ市長が都市計画作成に盛り込んだことをきっかけに、世界中から注目を集めています。
15分都市を実現するために中心的な役割を担っているのは、454の保育園、631の学校、114の大学です。これらの施設において芸術や音楽、エンターテインメント、レッスンなどを提供することで、住民が15分以内の場所で様々な体験を可能にしています。
千葉県柏市:ストリートパーティー
出典:柏アーバンデザインセンター「ストリートパーティーとは」
千葉県柏市の事例は、ストリートパーティーです。ストリートパーティーとは、日曜・祝日に歩行者天国となる駅前通りで定期的に開催している取り組みです。子どもから高齢者まで楽しめるイベントを企画することで、集客や地域コミュニティの形成に役立っています。
ウォーカブルへの参加を検討しよう
ウォーカブルは地域の活性化に役立つとして、10年以上前から海外を中心に取り組まれてきました。近年、日本においても381の自治体が同概念に賛同するなど、注目度が高まっています。
そして、ウォーカブルなまちづくりは官民連携による取り組みが不可欠のため、企業の参加も求められています。企業にもビジネスチャンスの獲得や支援制度を活用できるメリットがあることから、新規事業のアイデアに悩んでいる経営者様は、この機会にウォーカブルへの参加を検討してみましょう。