TSMCバブルで沸く熊本経済!進出の背景や影響・懸念点を紹介 

2024年2月24日にTSMC熊本工場で開所式が行われました。食堂のパートが時給3,000円で募集していると報じられるなど、地域経済が活性化しています。

ニュースで「TSMCバブル」や「TSMC特需」などと聞く機会も増えています。しかし、「なぜ半導体メーカーが熊本に進出したの?」や「進出による経済への影響が知りたい」という方も多いでしょう。

そこで本記事ではTSMCの熊本進出の背景や経済への影響、懸念点を紹介します。

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TSMCとは

出典:TSMC「Company info

TSMCとは、「Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾積体電路製造)」の略称で、台湾に本社をおく世界最大規模の半導体企業です。2024年3月時点で時価総額は約84兆円で、サムスンの約55兆円と比較しても規模の大きさがわかります。

またTSMCは、半導体産業においてファウンドリ企業に分類されます。ファウンドリとは、自社の半導体製造工場を持ち、集積回路などの製造を受託する企業です。反対に、自社工場を持たない半導体メーカーはファブレス企業と呼びます。

JASMとは

出典:TSMC「JASMについて

今回熊本にTSMCが進出するにあたり、TSMCと日本企業のソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社、株式会社デンソーで設立した子会社がJASMです。

JASMはTSMCが過半数を出資し設立しています。今回、熊本県菊陽町で開所したJASMの第一工場では1,700人の人材の雇用創出、月間生産能力が55,000枚(300mmウェーハ)となる見込みです。

TSMCがなぜ熊本に半導体工場を造ったのか

そもそも台湾のメーカーであるTSMCが、熊本で半導体工場をなぜ造ったのか疑問に思う方もいるでしょう。そこでこの章では、TSMCが熊本に進出した背景について考察します。

背景① 熊本県に半導体関連企業が集中しているため

出典:九州経済産業局「シリコンアイランド九州の復活に向けて

もともと九州地方は半導体産業が盛んな地域で、シリコンアイランドと呼ばれているほどです。2019年時点で九州には約1,000社の半導体関連企業が集積し、九州で製造した製品の大半は海外へ輸出されています。半導体関連企業の多さから原料が確保しやすく、顧客やサプライヤーとの連携のしやすさなどが選ばれた理由と考えられています。

背景② 清潔な水が豊富にあるため

半導体を製造するには清潔な水が多量に必要ですが、TSMCが本社をおく台湾では2021年に深刻な水不足に陥りました。2020年に台風が1個も上陸せず、雨も少なかったためです。主要ダムの貯水量が10%を切るなど極めて危険な水準にまで水不足が深刻化し、台湾における半導体製造のリスクが浮き彫りとなったのです。

一方、熊本市は水の都とも呼ばれ、市民の水道水の100%を地下水で賄っています。熊本市と隣接する菊陽町も水資源が豊富で、台湾のリスクを分散できることから熊本が選ばれたと考えられています。

背景③ 日本政府からの巨額な支援があるため

半導体は自動車や先端技術、多くの家電製品で使われており、その重要性から産業のコメとも呼ばれています。しかし、コロナ禍やウクライナ侵攻では、サプライチェーンが機能せずに半導体の供給が不安定になりました。

従来の半導体サプライチェーンが機能しないリスクを回避するために、日本政府は2022年に半導体を重要物資に指定しました。有事に海外から供給がストップしても確保できる体制づくりの一環として、半導体産業の支援を行っています。

具体的に日本政府は開所したTSMCの第一工場に最大4,760億円、2027年に稼働予定の第二工場に最大7,320億円の支援を行う予定です。このような巨額な支援を受けられることも、TSMCの熊本進出を後押ししたといえます。

TSMC進出による経済への影響

TSMC進出による経済への影響は以下のとおりです。

・雇用の創出

・地価の高騰

・6兆8,518億円の経済波及効果

これらの各項目について解説します。

雇用の創出

TSMC進出による経済的な効果は、雇用を創出できることです。TSMCの第一工場では1,700人を直接雇用する予定で、雇用効果は全体で7,500人と見込まれています。

また同社は、良質な人材の確保のために、同地域の平均よりも高い賃金を提示しているのも特徴です。例えば、食堂のパートを時給3,000円で応募していると報道されているほどです。新たな雇用だけではなく、賃金の引き上げもできるとして、日本政府も期待を寄せています。

地価の高騰

TSMCが高額な報酬により多くの人材を集めたことで、不動産価格や地価が高騰しています。台湾や他地域からの移住者が急増し、アパートやマンションの用地の需要が高まっているためです。

2023年の菊陽町の地価変動率は以下のとおりです。

菊陽町(2023年)全国平均(2023年)
住宅地12.8%増0.7%増
商業地25.5%増1.5%増
工業地29.2%増2.6%増

参考:熊本県「令和5年 熊本県地価調査 概要

全国平均の地価の変動率と比較しても、菊陽町の地価が高騰していることが伺えます。また工業地には関連企業の参入が相次いでおり、地価を押し上げる要因となっています。

このようにTSMC進出の効果として、地価や不動産価格が高騰しているのです。

6兆8,518億円の経済波及効果

九州フィナンシャルグループの調査によると、2022年から31年までの10年間の同地域における経済波及効果は6兆8,518億円の見込みです。日本政府が1.2兆円を支援することもあり、大きな波及効果が期待されています。

同地域では、地価や賃金の高騰などですでに半導体バブルの様相を呈しており、今後は他の地域へ波及するかが注目されるポイントです。また、TSMCの設備投資は九州全体に影響を及ぼし、九州全体で10年間の経済波及効果は20兆円規模になるとみられています。

TSMC進出による地域経済への懸念点

TSMC進出によって同地域には大きな経済効果がもたらされた一方で、3つの懸念点があります。

・交通渋滞やインフラ整備

もともと菊陽町の住民は4万人ほどでした。TSMCが進出したことで、交通量が急増し、交通渋滞の頻発が懸念されています。対応するには道路の多車線化や新たな道路の整備、駅の大型化などのインフラ整備が必要です。

・地下水の維持

半導体を製造するには大量の水が必要なため、多くの地下水を使用することになります。熊本県は地下水資源が豊富ですが、使用量が多いだけに影響がないか懸念されています。ただしこの問題は熊本県地下水保全条例により、TSMCも取り組む必要があるため、無策というわけではありません。

・地元企業の人材確保

TSMCが高い賃金により人材を確保することで、地元企業が人材を確保できなくなる可能性が指摘されています。また人材獲得競争が激化すると、より好条件を提示せざるを得ないため人件費の高騰も懸念されています。

TSMC特需は日本経済復興の起爆剤となるのか

TSMCが熊本に進出したことで、同地域では賃金・地価・不動産価格が高騰しています。このようなTSMCバブルやTSMC特需と呼ばれる現象は、半導体産業の復興・日本経済復興の起爆剤になるかもしれません。2027年には第二工場の稼働が予定されているため、今後のTSMCの動向も注目しましょう。