半導体産業の九州への投資が活発化!企業例や経済の影響を紹介

九州はシリコンアイランドと呼ばれ、以前から半導体産業の集積地として知られています。近年、その九州では半導体設備への投資が活発化しています。

例えば、TSMCの進出です。TSMCは台湾の半導体メーカーで、熊本に半導体工場を建設しました。これにより進出地域では賃金や地価、不動産価値が高騰し、「TSMCバブル」としてニュースでもよく取り上げられています。

TSMC以外にも九州への投資が多数予定され、その影響について注目が集まっています。しかし、実際にどの程度の規模感なのか、経済にどのような影響があるのかを知りたい方も多いでしょう。

本記事では半導体産業の九州への投資例や、九州経済への影響について解説します。

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10年間で約6兆円の半導体設備への投資

九州経済調査協会の調べによると、2021年から2030年までに九州で予定されている半導体関連の設備投資は72件で、総額6兆円の投資が予定されています。2019年の九州のGRP(域内総生産)は53.0兆円であることから、6兆円の投資は九州経済に大きな影響を及ぼすでしょう。

すでに熊本に完成したTSMCの第一工場には約1兆円が投じられており、地域経済に大きな影響を与えています。さらにTSMCは第二工場の2027年の稼働を目指し、第三工場の建設も検討しているとのことです。

今後は九州全体で半導体産業への投資が加速することで、九州経済が浮揚するきっかけになると期待されています。

九州への主要な半導体設備の投資例

72件ともいわれる九州への半導体産業の投資計画のなかで、主な企業は以下のとおりです。

・TSMC

・株式会社SUMCO

・京セラ株式会社

・東京エレクトロン九州株式会社

ここでは投資例として、各社の計画について紹介します。

TSMC

出典:TSMC

TSMCは台湾に本社を置く世界最大規模の半導体メーカーです。2024年2月、熊本県菊陽町に半導体の第一工場を建設しました。第一工場の投資額は約1兆円で、そのうち最大4,760億円を政府が支援しています。

この工場では需要の多い、回路線幅が10~20nmの半導体を製造する予定です。

半導体は回路線幅が狭いほど高性能を意味します。これまで日本では、40nm台までの半導体しか生産能力がありませんでした。そのため、TSMCの第一工場は国内最先端の半導体工場となります。

また6~40nmの半導体を製造する第二工場の建設計画も発表され、政府は7,300億円の支援を表明しています。なお、2つの工場の投資額の合計は約3兆円です。

株式会社SUMCO

出典:株式会社SUMCO

株式会社SUMCOは、半導体用シリコンウェーハを製造するメーカーです。シリコンウェーハとは、シリコンで作られた薄い円盤状の基盤です。半導体の基板の材料となります。

同社はTSMCの熊本進出を受けて、佐賀県吉野ヶ里町に加工工場の建設用地を60億円で取得する予定です。また、佐賀県伊万里市には2015億円を投資し、300mmの最先端ウェーハの生産工場を増設しました。

2025年には増設した工場をフル稼働する予定です。

京セラ株式会社

出典:京セラ株式会社

京セラ株式会社はファインセラミックス、半導体部品、通信などの事業を展開している企業です。ファインセラミックスとは、産業用途に使われる高性能・高精度な磁器のことです。

半導体関連においてファインセラミックスは、半導体製造装置に使われています。つまり高性能な半導体を作るには、高性能な半導体製造装置が必要で、それを作るには高性能なファインセラミックスが必要なのです。

京セラ株式会社は鹿児島県薩摩川内市と霧島市に、ファインセラミックス部品などの製造を目的とした工場の建設を発表しています。合計735億円規模の投資となる見込みです。

東京エレクトロン九州株式会社

出典:東京エレクトロン株式会社

東京エレクトロン九州株式会社は、熊本県に本社を置く半導体製造装置のメーカーです。また、半導体製造装置売上高2.2兆円の東京エレクトロン株式会社のグループ企業でもあります。

その東京エレクトロン九州株式会社は熊本県合志市に、約300億円をかけて半導体製造装置開発用の新棟を建設しています。

新棟では感光剤の塗布や現像を行う装置、洗浄装置の開発・研究を行う予定です。これにより、デジタル化社会で多様化したニーズに対応した製品を提供できると期待されています。

半導体産業の九州への投資による影響

九州経済産業局の調べによると、2023年の九州の半導体生産金額は1兆1,534億円で16年ぶりに1兆円を上回りました。さらに、半導体製造装置の生産金額についても4,294億円で前年を下回ったものの好調を維持しています。

このように、すでに九州においては半導体の生産金額が上昇しており、設備投資が進むことでさらに加速するとみられています。九州の半導体・製造装置の生産金額の推移は以下のとおりです。

出典:経済産業省 九州経済産業局「九州半導体人材育成等コンソーシアム(第4回会合)

九州経済調査協会の「九州における半導体関連設備投資による経済波及効果の推計」によると、2021年からの10年間で、九州地域の半導体産業の投資による経済波及効果は20.1兆円とのことです。また、10年間で9.4兆円のGRP(域内総生産)の引き上げ効果があると試算しています。2019年は53.0兆円であったことから、約17%増加する計算になります。

日本全国で半導体関連に12兆円規模の投資

ここまでを読むと、九州だけに半導体産業への投資が集中していると思うかもしれません。しかしそうではなく、政府は2030年までに日本全国で12兆円規模の投資を官民で行うとしています。

なぜなら、政府は半導体・デジタル産業戦略として、2030年に国内の半導体を生産する企業の合計売上高が15兆円を超えることを目指しているためです。2020年の合計売上高が約5兆円であったことから、この目標は10年で約3倍にすることを意味しています。

その一環として、2022年度予算の半導体関連予算は約1.3兆円、2023年度予算では約1.5兆円を計上しています。

つまり、半導体産業の投資により九州で起こっていることは、日本の各地で起こる可能性があるのです。そのため、九州が一つのビジネスモデルとして注目されています。

課題は人材不足

九州の半導体産業の投資が加速するなか、課題として指摘されているのは人材不足です。少子高齢化・人口減少により、人材の確保が困難になっているためです。

九州と全国の生産年齢人口の推移は以下のグラフにまとめました。

参考:国土交通省「地域に持続的な経済成長をもたらすための人材活用等に関する調査

九州の2030年の生産年齢人口は630万人になると予測されており、2005年と比較すると約216万人の減少です。九州は全国の生産年齢人口の推移と比較しても減少傾向が強く、年々人材の確保が困難になるとみられています。

半導体産業の投資の加速が日本経済の浮揚につながるか

近年の九州における半導体産業への投資は、シリコンアイランドの再生に向けた動きとして注目されています。九州を起点として、日本経済が浮揚するきっかけとなるかもしれません。さまざまなビジネスに波及することが考えられますので、今後も半導体産業の設備投資の動向には注視しましょう。