フィジカルインターネットとは?概要や課題をわかりやすく解説

現代はECサイトで商品を購入すると、数日で配達されるのが当たり前の時代です。しかし、2030年になると、運送能力の不足から荷物の34.1%が運べなくなるといわれています。ECサイトなどの購入体験の満足度が下がるだけではなく、ビジネスにおいても悪影響がでるでしょう。

そこで注目されているのはフィジカルインターネットです。フィジカルインターネットは、インターネットのデータの送受信方法を参考にした次世代の物流システムです。

しかし、意味や内容がわかりにくいという方もいるでしょう。本記事ではフィジカルインターネットの概要や課題、事例をわかりやすく紹介します。

Contents

フィジカルインターネットとは

出典:経済産業省「物流危機とフィジカルインターネット

フィジカルインターネットとは、トラックや倉庫などを共有し、物流リソースの効率的な稼働を目指す次世代の物流システムです。

フィジカルインターネットの考え方のもとは、インターネットのデータの送受信方法です。各家庭からインターネットを楽しむ際、光回線などの共有の通信網を利用しています。その通信網にデータを分割したパケットをやり取りすることで、効率的なデータ通信を実現しているのです。

この仕組みはインターネット通信に必要な回線の量を大幅に減らせるため、インフラ整備の費用削減にも貢献しています。

つまりデータを荷物に、回線網をトラックや物流倉庫に見立てて、リソースを共有することで最適化を図る物流システムがフィジカルインターネットです。

フィジカルインターネットが注目される背景

フィジカルインターネットが注目される背景は、4つの理由があります。

  • トラックドライバーの不足
  • トラックの積載効率の低下
  • カーボンニュートラルの実現
  • 国土交通省・経済産業省による推進

フィジカルインターネットの実現が必要とされる背景を詳しく紹介します。

トラックドライバーの不足

フィジカルインターネットが注目される背景は、トラックドライバーの人手不足です。

少子高齢化・人口減少により、2027年には27万人のトラックドライバーが不足すると考えられています。具体的に道路貨物運送業の運転従事者数は、2015年に76.7万人いたのが2030年に51.9万人と約3割減少する見込みです。

また、トラックドライバーの平均年齢が全産業を大きく上回っているのも問題です。現在のドライバーが高齢により仕事を続けられなくなると、人手不足が加速する恐れがあります。

出典:経済産業省「物流危機とフィジカルインターネット

さらに、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間の上限は960時間に短縮されます。

これらの3つの要因により、急速にトラックドライバーが不足するなか、需要が高まっている宅配便に対応するのは困難です。そこで、フィジカルインターネットにより物流リソースを効率的に活用することで、人手が減少しても対応できると期待されています。

トラックの積載効率の低下

近年の物流業界の問題点は、トラックの積載効率が低下していることです。

トラックの積載効率とは、トラックの許容積載量に対する実際の荷物の割合を表す指標です。例えば、4トントラックに4トンの荷物を積めば、積載効率が100%となります。2トンの荷物であれば積載効率が50%です。積載効率は高いほど、無駄がないことを意味しています。しかし、ECの普及により小ロットの輸送需要が増加し、以下のグラフのように積載効率が低下しているのが現状です。

出典:経済産業省「物流危機とフィジカルインターネット

フィジカルインターネットは、このような物流リソースの無駄を省けると期待されています。

カーボンニュートラルの実現

フィジカルインターネットが注目される背景は、カーボンニュートラルの実現に貢献できるためです。

日本は2050年にカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を合算すると実質ゼロになることです。

2019年時点で貨物自動車の二酸化炭素排出量は、約7,600万トンで日本全体の6.8%を占めています。二酸化炭の素排出量を減らしつつ、運送能力を維持するにはトラックの稼働効率を高める必要があります。その手段としてフィジカルインターネットが注目されているのです。

国土交通省・経済産業省による推進

将来予想される物流問題の解決策として、国土交通省と経済産業省はともにフィジカルインターネットの実現に取り組んでいます。具体的には、「フィジカルインターネット実現会議」を開催し、「フィジカルインターネット・ロードマップ」を取りまとめました。

フィジカルインターネット・ロードマップは、2040年の実現に向けて段階的にすべき取り組みを示しています。

フィジカルインターネットの課題

フィジカルインターネットを実現できれば、コストの削減や人手不足の解消、温室効果ガス排出量の削減につながります。しかし、実現にはさまざまな課題があるのが現状です。ここでは、フィジカルインターネットの実現に向けた課題について紹介します。

・荷物サイズの標準化

フィジカルインターネットの実現の妨げになっているのは、荷物サイズや物流資材の規格が統一されていないことです。例えばパレットやコンテナ容器などの物流資材が異なっていると、企業間で共有できない可能性があるためです。フィジカルインターネットを実現するには、荷物サイズや物流資材の標準化が必要といえます。

・物流システムの共有化・統一化

物流リソースを効果的に活用するには、どのトラックや倉庫が空いているのかを確認できるかが重要なポイントです。つまりフィジカルインターネットの実現には、企業間で物流リソースを確認できるプラットフォームの開発が必要です。

フィジカルインターネットの事例:秩父市

出典:秩父市「秩父市の山間地域における共同配送サービスの実施

フィジカルインターネットの事例として、秩父市の取り組みを紹介します。

秩父市では山間地域や高齢者の生活を支えるインフラとして、宅配サービスの重要性が増しています。しかし、ドライバー不足や山間地域の配送効率の悪さが課題でした。

そこで「大滝共同配送サービス」と称したフィジカルインターネットの構築を目指し、2022年9月27日~29日に運送会社5社による実証実験を実施しています。

参加企業一覧

  • ヤマト運輸株式会社
  • 佐川急便株式会社
  • 日本郵便株式会社
  • 西濃運輸株式会社
  • 福山通運株式会社

「大滝共同配送サービス」における各社の役割は以下のとおりです。

1. 佐川急便・西濃運輸・福山通運は、大滝地域宛ての荷物をヤマト運輸の営業所に持ち込む

2. 営業所で各社の荷物を積み込んだヤマト運輸のトラックが「郵便局」に立ち寄り、同配達地域の日本郵便の荷物を積み込む

3. 大滝地域宛ての5社の荷物を積み込んだヤマト運輸が配達

今後、秩父市はより長い期間で実証実験を行い、「大滝共同配送サービス」の実用化を目指す予定です。

フィジカルインターネットの実現は2040年

フィジカルインターネットは、トラックドライバーの人手不足の解消や急増する宅配便に対応できると期待されています。しかし、2030年には輸送能力が34.1%不足するといわれているなか、ロードマップでは2040年の実現を目指しています。

ビジネスをするうえで、フィジカルインターネットの実現が早まるのか、それとも実現までに輸送能力が低下してしまうのかは重要なポイントです。臨機応変に対応できるように、物流業界の今後の動向に注目しましょう。