2023年10月、岸田首相は日本におけるライドシェアの解禁を目指すことを表明しました。ライドシェアが解禁されると、一般ドライバーが有料で人を乗せられるようになります。
本記事ではライドシェアの概要やメリット、問題点、海外の現状を紹介します。
Contents
ライドシェアとは?
ライドシェアとは、簡単に説明すると自動車を相乗りすることです。ガソリン代などの費用を相乗りした人が負担し合うため交通費を節約できます。
カーリングシェアとの違い
カーリングシェアは、自動車の共有を意味します。カーリングシェアサービスは事業者が保有する自動車とドライバーをマッチングするサービスです。一方、ライドシェアサービスは、一般ドライバーが運転する自動車と相乗りしたい人をマッチングするサービスです。違いを以下の表にまとめました。
ライドシェア | カーリングシェア | |
---|---|---|
マッチングする対象 | ・一般ドライバーが運転する自動車 ・相乗りしたい人 | ・自動車 ・ドライバー |
自動車の保有者 | 一般ドライバー | サービス事業者 |
ライドシェアが注目される理由
2023年11月時点で、日本では一般ドライバーが有料で人を乗せる行為を禁止しています。金銭の発生するサービスを提供できないため、日本ではライドシェアサービスが普及していません。
そのため、「そもそもなぜライドシェアが必要なの?」と思う方もいるでしょう。そこで、ライドシェアが注目される理由について解説します。
タクシー不足
ライドシェアが注目されているのは、タクシー不足が深刻なためです。タクシー運転者数と平均年齢の推移は以下のとおりです。
出典:国土交通省「ラストワンマイル・モビリティの現況について」
グラフからわかるように、タクシー運転者数は右肩下がりで、令和3年(2021年)とコロナ前の令和元年(2019年)を比較すると約19%も減少しています。
コロナに対する規制も緩和され、外国人観光客が戻ってきているなか、タクシー不足が深刻になっているのです。
タクシー運転者の平均年齢は60歳を超え、全産業の平均年齢と比較しても高いことがわかります。高齢化による離職で今後もタクシー運転者数の減少が予想されるなか、一般ドライバーによるライドシェアが注目されているのです。
高齢化と運転免許自主返納者の増加
地方においては過疎化・高齢化により、高齢者の交通手段の確保が課題になっています。過疎化によりバスの路線廃止やタクシーの廃業などで、高齢者が運転免許を返納すると交通手段がなくなるためです。
運転免許自主返納者の数が増えている現在、病院や買い物への移動手段としてライドシェアが期待されています。
出典:国土交通省「ラストワンマイル・モビリティの現況について」
ライドシェアのメリット
ライドシェアは、利用者側だけではなくサービスを提供する一般ドライバーにもメリットがあります。ここでは、各視点からライドシェアの3つのメリットを紹介します。
移動手段の選択肢が増える
利用者にとってライドシェアが解禁されるメリットは、移動手段の選択肢が増えることです。
鉄道・バス・タクシーに加えて、新たな選択肢としてライドシェアが登場することで、利便性が向上するためです。例えば、タクシー待ちが多く、なかなかタクシーを捕まえられないときはライドシェアが有効な手段になるでしょう。
また一部の利用者がライドシェアに流れることにより、タクシー待ちが緩和されるという効果も期待できます。訪日観光客の多い地域では、公共交通の混雑を緩和できるのもライドシェアのメリットといえます。
交通費用を抑えられる
利用者にとってライドシェアのメリットは、タクシーよりも費用を抑えられることです。
ナイル株式会社の「20~60代男女のビジネスパーソン423人のライドシェアに関する調査」によると、タクシー利用者が抱えている不満の2位は「料金が高い」でした。
タクシー利用者の多くが、料金に不満を持っていることがわかります。
ライドシェアは料金を抑えられるだけではなく、料金を事前に把握できるのも強みです。アプリなどでルートを決定し、そのルートをもとに費用が算出されるためです。
タクシーのように到着するまで料金がわからないのとは違い、料金について納得したうえで利用できるのもメリットといえます。
副収入を得られる
自動車を保有するドライバーのメリットは、ライドシェアサービスに登録することで簡単にサービスを提供できることです。
例えば、アメリカの代表的なライドシェアサービスの「Uber(ウーバー)」の登録は、アプリ操作だけで完了します。その手軽さからアメリカでは、300万人から500万人がサービスを提供しているといわれているほどです。
自家用車の維持費や生活費のために、自家用車を使って副収入を得られるのは提供する側の大きなメリットといえます。
ライドシェアの問題点
岸田首相の表明以降、タクシー業界を筆頭にライドシェア解禁の是非について議論が繰り広げられています。議論では主に4つの問題点が指摘されています。
- 安全性の懸念
- ドライバーの労働待遇
- 事故時の補償
- 都心部の交通環境が悪化する可能性
ライドシェアについて理解を深めるために、指摘されている問題点を押さえておきましょう。
安全性の懸念
ライドシェアは一般ドライバーが運転者なので、普通二種免許を取得していない可能性があります。加えて、自家用車は整備や点検が十分にされているか不明です。
これらの点から、タクシーと比較して安全性に問題があると指摘されています。
実際に現状では、その危険性から一般ドライバーが有料で人を乗せる行為を「白タク」と呼び、禁止しています。
※「白タク」と呼ばれる所以は、自家用車の白ナンバーが無許可でタクシー営業をするため
ドライバーの労働待遇
ライドシェアを提供するドライバーは、個人事業主として扱われます。ライドシェアの事業者とドライバーは直接の雇用関係がないため、事業者に医療保険や最低賃金などを負う責任がありません。ドライバーの労働環境が不安定になりやすい点が問題視されています。
事故時の補償
ライドシェアの問題点として指摘されているのは、事故が起こった際の補償です。現状は一般ドライバーが営利目的で人を乗せることを禁止しています。そのため、ライドシェアで事故を起こした際に、任意保険が適用されるかが問題となります。
また、ドライバーが保険に加入していない場合の補償についても問題です。
海外ではドライバーに任意保険の加入を義務付ける動きもあるようですが、日本では事故時の補償についてどのように対応するか不明なままです。
都心部の交通環境が悪化する可能性
ライドシェアは人が集まる場所ほど、ニーズが多くなると予想できます。例えば、人口の少ない町よりも、大都市のほうが依頼は多いでしょう。すると、より稼げる場所を探して、ライドシェアのドライバーが都心部に集まってきます。このような理由から、都心部の交通環境が悪化すると懸念されています。
海外のライドシェアの現状
アメリカのライドシェアは2014年・2015年ごろから急速に拡大しました。大手のUberは70カ国の10,000以上の地域においてサービスを展開し、世界的なライドシェアの普及に貢献しています。
出典:Uber「諸外国におけるライドシェア法制と安全確保への取り組み」
中国においても2014年にライドシェアが開始され、滴滴出行「DiDi(ディディ)」が中国市場の9割を占めている状態です。
両社ともに、日本においてタクシー配車サービスをすでに展開しており、解禁すれば早い段階でライドシェアサービスを開始することが予想されています。
ライドシェア解禁に関する動向に注目しよう
日本のライドシェア解禁に向けた動きが加速しているなか、タクシー業界からは反対の声があがっています。タクシー業界にとっては、顧客やドライバーを奪われかねないためです。今後のライドシェア解禁の動向に注目してみましょう。