「食」の新規事業を考えるうえで、大きなキーワードとなるのは「フードテック」です。5年前はほとんど見かけなかったフードテックですが、現在では当たり前の光景として見かけるようになっています。5年後・10年後においては、今よりも重要なキーワードとなるのは間違いないでしょう。
本コラムは、弊社で開催したラジオ風ウェビナー
『未来、どこで誰と食べるのか。食卓と暮らしにまつわる新規事業の発想法』
の一部内容を編集して、全2回のシリーズに分けてお届けします。
全2回シリーズの第1回は、基礎知識としてフードテックの基本や市場規模、サービス事例について詳しく紹介します。
Contents
フードテックとは?
フードテックとは、「Food」と「Technology」を組み合わせた言葉で、食領域の先端技術を指します。例えばスマート調理家電や調理ロボット、AI技術によるレシピの提案などが挙げられます。簡単にいえば、AIやIoTなどの先端技術を駆使し、食の可能性を広げてくれる技術のことです。
ここでいう「食」とは素材そのものだけではなく、生産から廃棄までの一連の流れにおいて、産業内・家庭内での課題を先端技術で解決していくことです。かなり広い範囲で様々なソリューションが存在するとイメージできるでしょう。
2050年のフードテックの市場規模
農林水産省の調査によると、フードテックの市場規模は2020年に24兆円だったのが、2050年に279.2兆円で11倍以上に拡大すると予想されています。
市場規模の内訳は以下の表のとおりです。
上記の表より2050年までに、大きく市場が拡大すると考えられているフードテックの分野は以下になります。
- 代替肉
- 完全栄養食品
- スマートキッチン
それぞれ今後30年間で10倍以上の拡大が予想され、とくに代替肉は100兆円を超え、フードテック市場規模の49%を占めるほどに成長する見込みです。
ちなみに代替肉とは、大豆や小麦など植物由来の原料を用いた食肉に似せた商品のことです。
またフードテック市場だけではなく、既存市場も世界人口の増加をうけて、2020年の234.3兆円から2050年の493.2兆円まで拡大すると予想されています。
つまりフードテック・既存市場ともに、「食」の将来はビジネスチャンスが多いことを示しています。
世界のフードテックへの投資額は3兆円を超えているのに…
将来の「食」の覇権を狙い、世界各国でフードテック分野への投資が積極的に行われ、2020年の世界の投資額は3兆2,885億円でした。
フードテックへの投資額推移と各国の投資額は以下のとおりです。
投資額は2014年から約5倍に増えており、フードテック市場への期待値の高さが伺えます。
国別にみると米国が1位で他を圧倒し、中国が続いています。日本の投資額はどうかといえば、224億円でトップ10にも入っていません。米国と比較すると63倍以上の差があり、投資額の少なさから日本がフードテックの分野で後れを取るのではないかと危惧されています。
フードテックが注目される理由
そもそもフードテックが世界中で注目されるのは、以下の3つの理由があります。
- 食料不足・飢餓問題への解決
- 人手不足の解決
- 多様化する食の対応
これらの問題は食領域の新規事業の発想において、切っても切れない関係です。この章で、食領域の世界的な問題点を押さえておきましょう。
食料不足・飢餓問題への解決
ユニセフの報告書によると、2021年時点で8億2,800万人もの人々が飢餓で苦しんでいます。これほど多くの人の食料が足りないのが現状です。また2022年に80億人に達した世界人口は、今後も増加を続け2058年には100億人を突破すると見込まれています。
食料不足と世界人口の増加により、現在の食料生産量のままいくと2050年には20億人が飢餓に苦しむといわれています。
そこでフードテックにより食料の生産量・収穫量の向上やフードロス削減など、食料不足・飢餓問題の解決が期待されているのです。
人手不足の解決
国内では少子高齢化の影響により、農業や漁業などの第一次産業の人手不足が深刻な問題です。加えて食材加工や流通、外食産業などにおいても人手不足が問題になっています。このような問題に対して、ロボットやAIといったフードテックにより業務の効率化や負担軽減を図ることで、人手不足の解消が期待されています。
多様化する食の対応
フードテックが注目される理由は、多様化する食への対応です。
例えば肉を一切摂取しない菜食主義者のビーガンの方は、植物由来の食品を食べないため栄養が偏りがちです。そこで必要な栄養を摂取するためには、植物由来の代替肉などが役立ちます。ほかにもダイエットをしている方には、栄養バランスをコントロールできる完全栄養食などが挙げられます。
このような個人のニーズを満たす食の提供には、フードテックの発展が必要なのです。
フードテックの具体的なサービス事例
未来の食を考えるうえで、フードテックが重要であることは理解できたかと思います。しかし、フードテックとは具体的にどのようなサービスなのか、ピンとこない方もいるでしょう。
そこでこの章では、現在話題のフードテックのサービス事例を紹介します。
Uber Eats(ウーバーイーツ)
出典:Uber Eats
Uber Eats(ウーバーイーツ)は、世界を代表するフードデリバリーサービスです。
「注文するユーザー」「レストラン」「配達パートナー」がプラットフォーム(アプリ)を通じて結びつくことで、新たな購入体験ができるフードテックです。
ユーザーは自宅にいながら様々なレストランの味を楽しめ、レストランはターゲットユーザーが増えます。配送パートナーは商品を運ぶことで報酬を得られ、3者ともにメリットがあるのです。
これだけ聞くとUber Eatsは単純な仕組みのようですが、配達パートナーの選定や到着予想時間の表示には、AIなどの最新技術が使われています。
FiNC(フィンク)
出典:FiNC
FiNC(フィンク)は、最先端のAIが自分にぴったりの美容・健康メニューを厳選してくれるダイエット健康管理アプリです。1,100万ダウンロードを達成するほど人気の秘密は、ダイエットに必要なカロリー計算を食事の写真を撮るだけで、自動で計算し管理してくれることです。
さらにプロトレーナー監修のフィットネスや、栄養士・料理研究家のヘルシーレシピも豊富に掲載しています。
FiNCはダイエットを成功に導くためのフードテックといえるでしょう。
Nourished(ナリッシュト)
出典:Nourished
Nourished(ナリッシュト)は、7種の栄養素をカスタマイズできるイギリス発のサプリメントグミです。
特徴はオンライン上の簡単なカウンセリングをすることで、30種類以上の有効成分から自分に必要なビタミン・栄養素・スーパーフードの組み合わせを、AIが提案してくれることです。また3Dプリンターで製造することで、パーソナライズした商品を提供しています。
健康志向・美容意識の高い日本において、動向が注目されているフードテックです。
今後は求められるフードテックの質が変わる?
第1回はフードテックの基礎知識や現在話題のサービスについて紹介しました。しかし、5年後・10年後を考えると、今と同じフードテックが求められるとは考えにくいでしょう。
食領域における新規事業の発想は、将来の予想が重要です。そこで次回は、「食事の事業開発3つの切り口」を視点に、今後求められるフードテックの質について考察します。ぜひお楽しみに。