モーダルシフトはなぜ必要?推進に向けた取り組みと進まない理由

モーダルシフトとは、簡単にいえばトラックの輸送から船舶・鉄道による大量輸送に切り替えることを指します。

地球温暖化や大気汚染、さらにはトラックドライバーの人材不足といった物流業界が抱える問題の解決策として期待されています。トラックから鉄道にモーダルシフトすることで、91%のCO2を削減できるという試算もあるほどです。

本記事ではモーダルシフトの必要性や日本の現状、推進に向けた取り組み、モーダルシフトが進まない理由について解説します。

Contents

モーダルシフトとは?

モーダルシフトとは、トラックなどの自動車の輸送手段から環境負荷の少ない鉄道や船舶に切り替えることです。国内では1997年の「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」において、2010年までのモーダルシフト化率を40%から50%にする方針を決定しました。

しかし以下のグラフのように、モーダルシフト化率は思うように高まっていないのが日本の現状です。

出典:国土交通省「モーダルシフト化率の動向分析」をもとに作成

モーダルシフトはなぜ必要?

そもそも日本においてモーダルシフトの推進が必要なのは、以下の3つの要因があります。

・CO2排出量削減

・ドライバーの人材不足の解消

・ドライバーの働き方改革

CO2排出量削減

モーダルシフトが推進される理由は、トラックなどの自動車に比べて船舶や鉄道のCO2排出量が少ないためです。国土交通省の発表によると、各輸送手段の輸送量1トンあたりのCO2排出量は以下のとおりです 。

出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」をもとに作成

トラックなどの輸送方法は「営業用貨物車」に該当し、1トンの荷物を1km運ぶのに216gのCO2を排出します。対して船舶は43g、鉄道は20gで圧倒的に輸送量1トンあたりの排出量が少ないのです。つまり船舶にモーダルシフトすることで約80%、鉄道に至っては約91%ものCO2を削減できるのです。

地球温暖化や大気汚染の関心が高まるなか、モーダルシフトによる環境負荷の低減が期待されています。

ドライバーの人材不足の解消

モーダルシフトが必要な要因の1つは、深刻化するトラックドライバーの人材不足です。モーダルシフトはトラック数十台分の量の貨物を一度に運べて、輸送にかかる人員数を大幅に減らせるためです。

例えば、20台のトラックで輸送するには最低限20人必要ですが、貨物列車であれば乗務員1人で済みます。

また少子高齢化に加えて、2024年にトラックドライバーの時間外労働が960時間に制限されることで、人材不足がさらに深刻になると予想されています。モーダルシフトによる大量輸送は、輸送効率を高め人材不足の解消につながるのです。

ドライバーの働き方改革

モーダルシフトはトラックドライバーの働き方改革につながります。

トラックで集配拠点間を輸送した場合、数百kmの距離を運転することも珍しくありません。そのような場合、出発してから返ってくるまでに数日かかることもあります。

一方モーダルシフトを実現できれば、トラックは転換拠点と荷主や納品先の運転だけで済みます。日帰りで働けるようになり、トラックドライバーの働き方改革につながるのです。

出典:国土交通省「モーダルシフトとは

モーダルシフト推進の取り組み・補助金制度

国土交通省は「モーダルシフト」「輸配送の集約」「輸配送の共同化」など、輸送の合理化により物流業務の効率化を図る事業に対して支援をしています。具体的な取り組み・補助金制度は以下の2つです。

・モーダルシフト等推進事業

・グリーン物流パートナー会議

モーダルシフト等推進事業

モーダルシフト等推進事業とは、国土交通省が実施している「省人化・自動化に資する機器の導入」や、「過疎地域における共同配送・貨客混載の取り組み」に対して最大1,500万円が支援される補助金制度です。

支援対象と補助金の上限を以下の表にまとめました 。

また※1、※2については、省人化・自動化に資する機器の導入・運行する場合、さらに補助額の上限が引き上げられます。

・計画策定経費補助の引き上げ

省人化・自動化に資する機器の導入を計画した場合、※1に加えて自動化機器導入として上限300万円(補助率:1/2以内)の支援があります。そのため計画策定経費補助の上限金額は合計500万円です。

・運行経費補助の引き上げ

省人化・自動化に資する機器を用いて運行した場合、※2に加えて自動化機器導入に上限500万円(補助率:2/3以内)の支援により、運行経費補助の補助金は最大1,000万円です。

省人化・自動化機器とは、例えば、無人搬送車・ピッキングロボット・無人フォークリフトの購入・導入です。

※2023年度のモーダルシフト等支援事業の応募期間は6月9日までで、すでに募集は終了しています。

グリーン物流パートナー会議

国土交通省では、物流分野におけるCO2排出量・環境負荷の削減、物流の生産性向上などに資する取り組みを促進する「グリーン物流パートナーシップ会議」を開催しています。本会議では毎年、顕著な功績を残した取り組みを表彰しており、2022年の受賞者は「令和4年度物流パートナーシップ優良事業者表彰受賞者決定」で閲覧可能です。

このように国土交通省から表彰されることで、モーダルシフトに積極的な企業として認知され、企業価値の向上に役立ちます。

モーダルシフトが進まない理由

モーダルシフトはメリットが多いのに日本において、なかなか進まない理由は以下のデメリットがあるためです。

・輸送距離が短いとコストが高い

・トラックのほうが柔軟に対応できる

・利用できるルートが限られる

デメリット①輸送距離が短いとコストが高い

モーダルシフトが進まない理由は、トラック輸送と比較してコストが高いためです。船舶や鉄道などの大量輸送がトラック輸送よりも安くなる目安は、輸送距離が500km以上のときです。

しかし国土交通省の調べによると、国内における貨物輸送で500km以上の輸送は全体のわずか7%で、100km未満が78%を占めています。つまり国内においてモーダルシフトを推進すると、輸送コストが割高になることから進んでいないといえます。

デメリット②トラックのほうが柔軟に対応できる

トラックは長距離輸送にも短距離輸送にも対応できる柔軟性があります。一方、船舶や鉄道は特定の転換拠点間の輸送に特化しているため、トラックのように柔軟に対応できません。

またトラックは「ドアツードア」で、荷主から送り先へ輸送することも可能なのに対して、船舶や鉄道は転換拠点で荷物の積み下ろしが必要です。荷物の積み下ろしの作業がある分、配達までに時間がかかってしまうのがデメリットです。

デメリット③利用できるルートが限られる

船舶や鉄道は利用できる「輸送ルート」や「運行ダイヤ」が限られてくるため、天候の影響や自然災害によりルートが使えなくなると輸送できない可能性があります。このような不確実性がモーダルシフトの進まない理由です。

課題も多くなかなか進んでいないのが現状

モーダルシフトは環境問題や人材不足の解決のカギとされています。しかし国内では課題が多くなかなか進んでいないのが現状です。

また、トラックドライバーの人材不足が深刻化する「2024年問題」まで、時間がほとんど残されていません。企業は事業に悪影響がでないように、今から対策をしておく必要があるといえるでしょう。