観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、2023年の訪日外国人の旅行消費額は5.2兆円を突破し、過去最高を記録しました。
このようにインバウンド需要が高まると注目されるキーワードはオーバーツーリズムです。
2018年や2019年にも注目されたため、「今さら意味を聞けない」という方もいるかもしれません。
本記事ではオーバーツーリズムの意味や具体例、問題点、成功事例をわかりやすく紹介します。
Contents
オーバーツーリズムとは
オーバーツーリズムとは、観光地に多数の観光客が押しかけることで、地域や観光客の体験などに悪影響を及ぼす状態のことです。日本語で観光公害とも呼ばれ、簡単にいえば観光客が増えることで発生する負の側面を指します。
日本では新型コロナウイルスの流行前の2018年や2019年に、インバウンド需要の増加により注目されました。その影響の大きさから、観光庁は2018年に「持続可能な観光推進本部」を設置したほどです。
持続可能な観光推進本部は、「住んでよし、訪れてよし」をモットーに掲げ、観光客と地域住民に配慮した観光地マネジメントに取り組んでいます。
なお国際世界観光機関(UNWTO)では、持続可能な観光を「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」と定義しています。
引用:国際世界観光機関「持続可能な観光の定義」
オーバーツーリズムの具体例
オーバーツーリズムで引き起こされる問題の具体例は以下のとおりです。
- 渋滞や公共交通の混雑
- ゴミのポイ捨てなどによる景観の悪化
- 観光客による騒音
- 観光客と地域住民とのトラブル
- 治安の悪化
ここではさらに具体例として、3つの地域の事例を紹介します。
フランス
国土交通省の「観光白書」によると、2021年のフランスの外国人観光客数は、4,840万人で世界1位でした。
その観光大国のフランスでもオーバーツーリズムは発生しています。例えば、カトリックの巡礼地として知られるモンサンミッシェルです。
モンサンミッシェルには年間300万人以上が訪れますが、出入りできる1本しかない道は観光客の影響で大混雑します。とくに夏場は旅行客が集中し、混雑により危険な状況になることもあるほどです。ほかにも、観光客のゴミのポイ捨てにも悩まされています。
そこでモンサンミッシェルでは対策として、観光客を夜間やオフシーズンに分散化する取り組みを始めています。
イタリア
イタリアは水の都として有名なベネチア、ローマのコロッセオやトレビの泉、花の都のフィレンツェといった世界的な観光名所が豊富にあります。
国土交通省の「観光白書」によると、2021年のイタリアの外国人観光客数は、2,690万人で世界5位でした。
そのイタリアでもオーバーツーリズムは深刻化しており、コロッセオでは観光客が壁に落書きをしたり、フィレンツェでは家賃が高騰したりしています。そこで、ベネチアでは2024年の4月から試験的に、入島税を課して観光客数を制限する予定です。
京都
日本のオーバーツーリズムで問題となっている代表的な地域は京都です。
京都ではインバウンド需要の回復を受けて観光客が急増しており、現地では渋滞やゴミのポイ捨て、さらには地元住民がバスに乗れないといった問題が発生しています。
バスは通勤や通学にも使われるため、地域住民の生活に支障が出ているとして問題視されています。
オーバーツーリズムの対策案
オーバーツーリズムは、「観光客数を制限すれば解決できるのでは?」と思うかもしれません。
しかし日本政府は、2030年の外国人訪日客数を6,000万人に拡大する目標を掲げています。オーバーツーリズムの問題に取り組むことで、持続可能な観光を実現できるとみているためです。
そこでこの章では、観光客数を制限する以外の対策案を3つ紹介します。
受け入れ態勢の強化
対策案の1つは、受け入れ態勢の強化です。
オーバーツーリズムが発生する要因は、観光地の許容量を超える観光客が押し寄せることです。言い換えると観光地の許容量を増やすことは、オーバーツーリズムの抑制につながります。例えば、バスの増便やタクシーの台数の増加などです。ほかに、ゴミ箱の設置や歩行空間の拡大なども受け入れ態勢の強化につながります。
需要の分散
オーバーツーリズムが発生している地域では、四六時中、混雑しているわけではありません。
日中に混みやすいのであれば、空いている夜間帯や早朝への需要の分散も有効な対策です。例えば、早朝や夜間帯に利用した場合にクーポンを発行するなどです。ほかに、混雑状況を確認できる情報を配信することで、空いている観光資源に誘導するといった対策も考えられます。
マナー啓発
ゴミのポイ捨てや騒音問題など、観光客のマナー違反によるオーバーツーリズムもあります。
このようなマナー違反によるオーバーツーリズムは、外国人観光客と日本人のマナーが異なることが要因かもしれません。海外の地域によっては、ポイ捨てがマナー違反にならない地域もあるためです。
そのような場合、日本のマナーを知ってもらうことで、オーバーツーリズムの抑制が期待できます。
オーバーツーリズム対策の成功事例
観光客が増加することは、観光業や地域経済の活性化につながります。そのため、オーバーツーリズムの対策には、観光のメリットとデメリットのバランスをとることが重要です。しかし、対策方法に正解がないため、各地域で模索しているのが現状です。
ここでは対策方法の参考として、オーバーツーリズムの成功例を紹介します。
ハワイ:再生型観光の周知
ハワイではオーバーツーリズム対策として、観光客に再生型観光「Malama Hawaii(マラマハワイ)」の周知をしています。
マラマハワイは、ハワイ版のレスポンシブル・ツーリズムのことです。レスポンシブル・ツーリズムは「責任ある観光」を意味する言葉で、観光客が観光地をより良くするために、意識や行動に責任を持つ考え方です。
マラマハワイでは、観光客に以下の5つの行動を求めています。
- 海洋動物にむやみに近づかない
- 有害成分の入った日焼け止めを使用しない
- 森林に入るときは靴裏の泥を落とす
- 侵入禁止エリアに入らない
- エコバッグやマイボトル、マイストローを持参する
マラマハワイの周知により、現地住民と観光地とのトラブルを避けるだけではなく、ハワイのブランディングにも役立っています。
さらにハワイでは、観光地として人気のダイヤモンドヘッドへの登山を予約制にしました。
これらの取り組みにより自然や地域住民への負荷を減らし、オーバーツーリズムの問題の軽減を目指しています。
白川郷:チケット制の導入
冬の時期に行われる白川郷のライトアップイベントは人気があり、毎年大勢の観光客が押し寄せてオーバーツーリズムを引き起こしていました。そこで、チケットを活用した完全予約制を導入したのです。
さらにライトアップイベントを3回に分けて行うことで、多くの観光客が訪れられるように配慮もしています。白川郷の取り組みは、観光客の満足度向上にもつながるため、オーバーツーリズム対策の成功例として注目されています。
オーバーツーリズムの対策を推進しよう
2023年の訪日外国旅行者数は2,507万人でした。2019年の3,188万人には届かなかったものの、オーバーツーリズムが各地で問題となっています。
政府は2030年に訪日外国旅行者数を6,000万人に拡大する目標を掲げているため、今後はますますオーバーツーリズムが深刻化するかもしれません。そこでオーバーツーリズムの問題を解消するアイデアで、新規事業を立ち上げてみてはいかがでしょうか。