11年連続成長の秘密!競馬業界のデジタル化はなぜ成功したのか?

競馬業界は1997年に売得(ばいとく)金額が4兆円を超えピークに達しました。その後は年々減少を続け、2011年には2.2兆円にまで落ち込み、存続が危ぶまれるほどでした。

しかし、2012年からは反対に年々売上を伸ばし、11年連続で前年比増を達成しています。2021年には17年ぶりに3兆円を突破し、見事にV字回復を遂げました。

2021年といえば、コロナ禍で多くのエンターテイメント業界が苦しんでいた時期です。そのような時期でも順調に売上を伸ばせたのは、馬券購入のデジタル化が大きな要因です。

本記事では競馬の歴史や市場規模の推移、抱えていた課題について紹介します。

※売得金額とは、馬券の販売金から返還金を差し引いた額のこと

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競馬の歴史

日本における洋式競馬の始まりは江戸時代末期といわれ、1860年に開催された記録があります。その後は靖国神社で開催されたり、戦時中の馬の育成に利用されたりしました。

近代の競馬は、1948年7月に施行された競馬法が基になっています。競馬法は競馬の主催者や開催場所、入場料、馬券の購入・払い戻しなどを定めた法律です。「馬の改良増殖その他畜産の振興に寄与する」と「地方財政の改善を図る」を目的に制定されました。

競馬法では、地方自治体が主体となり開催する競馬を「地方競馬」、日本中央競馬会(JRA)が開催する競馬を「中央競馬」と呼びます。

言い換えると競馬法で定められた地方自治体やJRA以外は、競馬の運営が禁じられています。パチンコとは異なり私人が運営できないため、公営ギャンブルとして広く認知されているのです。

また、これまでに競馬は2度の大きなブームがありました。

第1次競馬ブーム

第1次競馬ブームは、1973年の「ハイセイコー」の活躍で起きたため、ハイセイコーブームとも呼ばれます。

1972年、ハイセイコーは地方競馬の6レースに出走し、圧倒的な差で全て優勝します。翌年の1973年、鳴り物入りで中央競馬へ移籍した後も、連勝したため怪物級の実力があると知れ渡りました。

その活躍ぶりに、競馬に興味のなかった人にも名前が知られ、少年漫画雑誌や女性週刊誌の表紙にまで登場したほどです。

1973年の成績は1着が4回、2着が2回、3着が2回でした。競馬の祭典とされる日本ダービーでは、3着で優勝こそできなかったものの、国民的アイドルホースとなります。

ハイセイコーによる第1次競馬ブームは、それまでの男性ばかりだった競馬に、女性ファンを呼び込みました。

第2次競馬ブーム

第2次競馬ブームは1980年代後半から1990年代前半に、オグリキャップや武豊(たけ ゆたか)の活躍により起きたブームです。オグリキャップなどのアイドルホースの活躍に加えて、競走馬育成ゲームの「ダービースタリオン」が大ヒットしたことも、若年層の競馬ファンを増やすのに一役買いました。

若年層の競馬ファンが増えたことで、第2次競馬ブームでは「みどりのマキバオー」や「優駿の門」などの少年向け漫画が連載をスタートします。これらの影響により、1980年代後半から競馬の売得金額は急拡大し、1997年の4兆円にまで成長する原動力となりました。

競馬の市場規模の推移

日本競馬の売得金額は以下のように推移しています。

日本競馬の市場規模は、1997年の4兆円をピークに2011年まで減少の一途をたどりました。しかし2012年から回復し、2022年には3.2兆円を達成しています。

現在は第3次競馬ブーム?

2012年から11年連続で売得金額が上昇しているため、「第3次競馬ブームなのでは?」と考えてしまうかもしれません。

しかし第1次競馬ブームや第2次競馬ブームのように、社会現象となるほどのアイドルホースが登場していないため、第3次競馬ブームとまではいえないでしょう。

ただし、近年はスマホ向け競馬ゲームアプリの「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒットを記録しています。今後、国民的アイドルホースが登場することで、第3次競馬ブームが起こる可能性もあります。

2012年の大きな転換はインターネット投票システムの導入

売得金額が上昇するなど、競馬業界にとって2012年はターニングポイントとなりました。その2012年の重大な転換は、インターネットで馬券を購入できるようになったことです。

2012年7月に、JRAのインターネット投票システム(IPAT方式)における地方競馬の投票権の発売が実施されました。インターネット投票ができることで、遠くて行けなかった地方競馬や、時間がなくて馬券を購入できなかったレースなどにも簡単に投票できるようになりました。

この手軽さが功を奏し、低迷にあえいでいた競馬業界が復活します。

ただしインターネット投票システムの登場前は、競馬場や場外売場などへ出向かなければ馬券を購入できなかったのか、と言われればそうではありません。電話投票が1974年に導入され、現在でも中央競馬・地方競馬の馬券を購入できます。

競馬業界における従来の投票システムの課題

競馬業界では、従来の紙の馬券や電話投票システムに以下の課題を抱えていました。

紙の馬券の課題

  • 馬券購入にマークシートの記入に手間がかかる
  • 購入した馬券の管理を必要とする
  • 馬券の発行に費用が発生する
  • ウインズなどの場外馬券売場の維持に経費がかかる

電話投票の課題

  • 電話投票に通話料金がかかる
  • 登録してから利用までに時間がかかる

インターネット投票システムの導入は、これらの課題解決や競馬ファンの利便性を高めることにつながりました。結果として、1998年から続いた市場規模の縮小の流れをストップします。

2022年の総参加人員は過去最多を記録

競馬業界がデジタル化を図ることで、順調に売得金額を伸ばしているとわかりやすいのは、コロナ禍における総参加人員と開催場入場人員の関係性です。

以下の図のように、2020年はコロナの影響により、開催場入場人員が前年比で84.1%という大幅な減少となりました。

一方、総参加人員の推移を見てみると、2020年の前年比は7.8%減で、開催場入場人員と比較すると落ち込みが抑えられています。

この要因は、自粛生活においてインターネット投票を利用する人が増えたためです。その証拠にインターネット会員は2020年に60万人増えて、合計500万人を突破しました。

またインターネット会員が増えたことで、1人あたりの馬券購入単価が1日約2千円アップしています。これはインターネット投票が手軽にできるためでしょう。

そして2022年は、コロナの感染対策の緩和により開催場入場人員が増えたことで、総参加人員が過去最多を更新しています。

8割以上がインターネット投票を利用

2012年に導入したインターネット投票は、すでに競馬ユーザーに浸透しており、中央競馬・地方競馬の利用率は8割を超えています。中央競馬・地方競馬の購入経路の割合は以下のとおりです。

地方競馬に至っては、約9割をインターネット投票からの売得金が占めています。

競馬業界はデジタル化の成功事例

競馬業界は、インターネット投票を導入したことで、利用者数が増加し売得金のV字回復を達成しています。このことから、競馬業界はデジタル化に成功した事例といえるでしょう。

競馬業界のデジタル化のポイントは、ユーザーの利便性を高められたことと、従来の課題にアプローチできたことです。これらがユーザーに受け入れられたため、売得金の8割以上を占めるほどにインターネット投票が利用されています。

デジタル化・DX化で業務効率の改善や収益を向上させたい企業には、競馬業界に見習うべきポイントがあるはずです。参考にして、自社事業のデジタル化・DX化を促進してみてはいかがでしょうか。