最近、注目されている「リスキリング」ですが、意味を「学び直し」と思っていませんか?
リスキリングは、たしかに学習することですが、最終的に職業に必要なスキルを身に付けることが目的です。そのため生涯学習などのように、自分の興味あるジャンルについて学習する学び直しとは異なります。
本記事ではリスキリングのメリットや注意点、リカレントとの違いについて解説します。
Contents
リスキリングとは?職業に必要なスキルを身に付けること
リスキリング(リスキル)とは市場やビジネスモデルの変化に対応するために、仕事で必要となるスキルを身に付けるための学習です。経済産業省では、リスキリングの定義を「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」としています。
引用:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
このことからもわかるように、仕事に必要なスキル、あるいは将来役に立つと予想されるスキルを身に付けることを指します。また、リスキリングと似た言葉に「リカレント教育」や「OJT」があり、区別が難しい方もいるかもしれません。そこで、違いについて簡単に解説します。
リカレント教育との違い
リカレント(recurrent)とは、英語で「再発する」や「循環する」を表す言葉です。そのため、個々のタイミングで就業と学習を繰り返すことをリカレント教育と呼びます。つまり、仕事と学びを繰り返すのが特徴です。一方、リスキリングは仕事をしながら学ぶ点がリカレント教育と違います。学習の目的にも違いがあり、リカレント教育は個人の学びたいジャンルに対して学習します。
OJTとの違い
OJTは「On the job Training」の略で、日本語に訳して職業内訓練とも呼ばれます。例えば新人社員に対して、先輩社員が通常の業務をしながら、マンツーマンでの指導方法がOJTです。その特徴は学ぶ場所が職場であることや、学習内容が現在の事業に必要なことに限られることです。一方リスキリングでは、学ぶ場所に制限はなく、学習内容も現状必要のないスキルについて学ぶこともあります。
リスキリングが注目される理由
2022年の流行語大賞にノミネートされるほど、リスキリングは注目されているキーワードです。なぜ注目を集めているのかといえば、以下のような理由があげられます。
- ダボス会議での発表
- 人口減少による労働力不足の緩和
- ChatGPTなどの生成系AIの普及
これらの理由について解説します。
ダボス会議での発表
2020年、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)にて「2030年までに10億人にリスキリングをする」と宣言されました。この宣言は「リスキリング革命」と呼ばれ、注目されるきっかけとなります。
参考:The World Economic Forum「The Reskilling Revolution」
国内でも、これを追うようにして2022年に「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」が開始され、補助金・助成金による支援策を打ち出しています。
参考:経済産業省「令和4年度補正予算「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の公募について」
人口減少による労働力不足の緩和
我が国は少子化・高齢化により、2050年に生産年齢人口は5,725万人になると予想されています。2021年と比較すると、29.2%の減少で、約3割の労働力を失うことになります。そのため、今後はますます労働力の減少が深刻になるでしょう。そこで、労働力を増やすために注目されているのがリスキリングなのです。
リスキリングのメリット
リスキリングは学ぶ本人だけではなく、企業にも3つのメリットがあります。ここでは各メリットについて詳しく解説します。
新しいアイデアの創出
社員が新たなスキルを身に付けると、これまでになかった発想や異なる着眼点から物事を考察できるようになるでしょう。すると、新しいアイデアが生まれるため、企業にとってもメリットがあるといえます。
人材育成の促進
リスキリングにて社員にスキルを身に付けてもらうことで、人材育成を促進できます。個々のスキル・能力を伸ばすことで、企業の競争力を高めるのにも役立つでしょう。
業務の効率化
DXやAIなど、業務の効率化につながるスキルを学習させて、企業全体の業務効率化を図ることもできます。
リスキリングのデメリット
リスキリングに取り組むには、デメリットがあることも押さえておきましょう。
時間・手間・コストがかかる
1つ目のデメリットは、時間・手間・コストがかかることです。例えば、習得させたいスキルによっては外部講師に委託したり、業務の調整が発生したりするためです。また、研修や資格取得のための費用もデメリットといえます。
社員への負担が大きくなる
新たなスキルを身に付けるのは、社員にも負担があります。リスキリングは業務をしながら、学習に時間を割かなければならないためです。またせっかく身に付けたスキルも、業務で使う場面がなければ負担感が強くなるでしょう。
リスキリングの導入方法
リスキリングの導入の流れは、以下の5つのステップです。
- リスキリングで何を習得するのかを決める
- リスキリングの対応となる社員を決める
- 学習内容・プログラムを決定する
- 社員に学習を開始させる
- 習得したスキルや知識を活用できる機会を作る
どのスキルを習得するのか決める際に、活用できる機会を作れるのかも検討しておくと良いでしょう。わざわざ取得したのにスキルや知識を活用できなければ、社員のモチベーション低下の可能性もあるためです。
リスキリングを導入する際の注意点
リスキリングの効果を高めるためには、以下の注意点に気をつけてください。
- 取り組みやすい環境を作る
リスキリングに取り組む社員の負担軽減の意味でも、スキルの習得をサポートする意味でも取り組みやすい環境を作りましょう。例えば周囲への理解を促したり、業務時間内に学習できる時間を設けたりといった具合です。
- モチベーションを維持できる仕組みを作る
一生懸命、学習に力をいれてスキルを習得したのに待遇が何も変わらなければ、モチベーションが下がるかもしれません。そのような事態を避けるためには、インセンティブの設定や表彰制度を設けるなど、モチベーション向上につながる仕組み作りが重要です。
- 社員の意思や自発性を尊重する
習得するスキルは、現場が必要としているスキルや知識を選択するのも良いでしょう。現場で困っていることを解決できるスキルであれば、社員の意思や自発性を尊重できて、周囲の社員からも理解を得やすいためです。
- 必ずしも学習内容をプログラムする必要はない
社員への教育は必ずしも社内でする必要はありません。外部にアウトソーシングすることで、社内のリソースを余分に使わずに済みますし、専門家が教えるので高品質の学習環境を実現できるためです。
7. まとめ
リスキリングは、2020年のダボス会議において「リスキリング革命」が宣言されてから、注目を集めているキーワードです。就業のためや業務に必要なスキルの習得のために学習することを意味します。
我が国では助成金・補助金などの企業への支援施策により、リスキリング導入を後押ししています。「競争力を高めるため」や「人材育成のため」に、リスキリングは有効な手法といえるでしょう。