カーボンプライシングとは?メリットや日本の現状をわかりやすく解説

日本は2050年のカーボンニュートラルの実現を宣言し、脱炭素化に向けて取り組んでいます。その取り組みの1つがカーボンプライシングです。本記事ではカーボンプライシングの概要やメリット・デメリット、日本の取り組みなどをわかりやすく解説します。

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カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、企業や団体に対し、温室効果ガスの排出量に応じた金銭的なコストを求める仕組みです。具体的には温室効果ガスの排出量に価格を設定し、排出量が増えるほど費用が発生します。温室効果ガスの排出量抑制に自発的に取り組むことを目的として、世界各国で導入されています。

カーボンプライシングのメリット

カーボンプライシングを導入するメリットは以下の3つです。

・自発的な取り組みで温室効果ガスを削減できる

カーボンプライシングは、温室効果ガスの排出量を削減するほどコストを下げられます。そのため、企業や団体に自発的な温室効果ガス削減の取り組みを促せるのがメリットです。また日本のカーボンニュートラルの実現には、政府や自治体だけではなく企業や団体などの取り組みも必要不可欠です。つまりカーボンプライシングは、日本の脱炭素化の目標を達成するために役立つ制度といえます。

・脱炭素のイノベーションを促せる

企業や団体が温室効果ガス削減に取り組むことで、新たな脱炭素のイノベーションを促進できるのがメリットです。削減量を増やすほど、コストが下がり競争力を高められるためです。より効率的に削減できる方法を模索して、新たなイノベーションを生み出す可能性が高くなります。

・財源の確保につながる

カーボンプライシングには脱炭素のように、国の財源となる施策があります。国にとっては、財源を確保しながら温室効果ガス排出を促せるのがメリットです。

カーボンプライシングのデメリット

カーボンプライシングは脱炭素というメリットだけではなく、デメリットもあります。この章ではデメリットや課題について解説します。

企業の負担が増える

カーボンプライシングは、温室効果ガスの排出量に応じた金銭的負担を企業や団体に求める制度です。そのため、導入することは企業の負担が増えることを意味します。グローバル展開している企業においては、コストが増えることで国際競争力の低下を招くリスクがあります。

拠点を海外に移されるリスク

カーボンプライシングのデメリットは、規制の緩い国や地域に拠点を移されるリスクがあることです。カーボンプライシングの規制が厳しいとコストが増大するため、規制の緩い国に生産拠点を移してコストを下げることも考えられるためです。また拠点を国外に移された場合は、国内の排出量の削減につながりますが、地球全体規模で考えると排出量の削減につながりません。

カーボンプライシングの具体例

カーボンプライシングのやり方は複数あります。そのなかで、主な取り組みは以下の3つです。

  • 炭素税
  • 排出量取引制度
  • FIT制度(固定買取価格制度)

カーボンプライシングの具体例についてわかりやすく解説します。

炭素税

炭素税とは環境税の一種で、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に対して、あるいは二酸化炭素の排出量に応じて税金を課す制度です。

1990年にフィンランドが初めて導入しました。以降、ヨーロッパを中心に導入がすすみ、今では中国や韓国などにも広がっています。ただし、課税対象や税収の用途は、各国により違いがあります。

フィンランドの課税対象は、暖房用・輸送用の化石燃料の消費です。炭素税収は企業の社会保障費削減や所得税の減税の補填に使用しています。一方、1992年に炭素税を導入したデンマークの課税対象は、化石燃料および廃棄物の消費に対してです。税収は一般会計に計上され、使用用途の紐づけはされていません。

排出量取引制度(排出権取引)

排出量取引制度とは、企業間における温室効果ガスの排出量の過不足を取引する仕組みです。排出量取引制度は「排出権取引」とも呼ばれ、「キャップ・アンド・トレード方式」と「ベースライン・アンド・クレジット方式」の2種類があります。

・キャップ・アンド・トレード方式

企業ごとに温室効果ガスの排出量の限度である排出枠を設定し、排出枠を上回る企業と下回る企業とで過不足の排出量を取引する制度です。規制対応的な側面が強い制度といえます。

・ベースライン・アンド・クレジット方式

温室効果ガスの排出軽減プロジェクトを実施した場合に、しなかった場合の排出量よりも削減した量を取引できる制度です。企業が自発的にする側面の強い制度といえます。

FIT制度(固定買取価格制度)

FIT制度(固定価格買取制度)とは、風力・水力・太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電力の買取金額を法律で定める制度です。

FIT制度の始まりは、1978年にアメリカが導入したPURPA法です。独立系発電事業者が電力事業者の発電コストより低価格で再生可能エネルギー電力を発電できる場合、電力事業者がその電力を購入しなければならないと定められました。カリフォルニア州などでは、同法を活用して風力発電を利用した独立系発電事業者の新規参入につながっています。

また1991年に、ドイツが再生可能エネルギー買取制度を導入します。さらに2000年に再生可能エネルギー法が制定され、再生可能エネルギーへの投資に安定性が確保されました。これをうけドイツの再生可能エネルギーのシェア率は、2000年の6.3%から2007年末 には14%と急拡大し、FIT制度の成功モデルとなりました。

日本におけるカーボンプライシング

日本におけるカーボンプライシングは、2012年の「地球温暖化対策のための税」の導入が始まりです。

「地球温暖化対策のための税」とは、二酸化炭素の排出量1トンあたり289円を企業が税として負担する炭素税です。289円という価格設定は、諸外国と比べて低く設定されています。例えば、スウェーデンでは1トンあたり約15,000円で、日本の52倍もの価格です。

「排出量取引制度」については、東京都や埼玉県ですでに運用されています。また2023年10月には、東京証券取引所で「カーボン・クレジット市場」が開設され、2026年度に本格的に排出量を取引できる予定です。

「FIT制度」は、2009年に導入した住宅用太陽光発電の余剰売電制度と、2012年の再生可能エネルギー電気の全量売電制度があります。これら2つの制度により、2021年度末で太陽光発電の累積導入量は約7,800万kWです。中国・アメリカに次ぐ世界第3位の累積導入量を誇っています。

2023年2月には「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され「成長志向型カーボンプライシング構想」が打ち出されています。今後はさらにカーボンプライシングを活用し、排出削減と産業競争力の強化、経済成長の実現を目指していくとのことです。

本格化するカーボンプライシングに注目

日本のカーボンプライシングの始まりは、2012年の炭素税である「地球温暖化対策のための税」の導入です。しかし、二酸化炭素の排出量1トンあたり289円と、諸外国と比較して低く設定されています。そのような現状のなか、政府はさらにカーボンプライシングを活用していくと基本方針で決定しています。炭素税・排出量取引制度・FIT制度の運用開始や制度改革などの動きには注視する必要があるでしょう。